被災地の教育現場に飛び込むことで見えた、それぞれのキャリア〜実践型教育インターンインタビュー②
NPOカタリバで、大学を休学するなどして1年間活動している「実践型教育インターン」。今回は、東北の被災地で運営している「コラボ・スクール女川向学館」の佐藤真都さんと「コラボ・スクール大槌臨学舎」の岩本海作さんに話を聞きました。
インターン参加前は、教育とは無縁だった
ー実践型教育インターンに参加する前はどんな学生だったの?
佐藤:僕は新潟の大学で運動に関することを学んでいて、教育とは関わりはありませんでした。たまたまFacebookで見て面白そうだと思ってカタリバが運営している「b-lab」のボランティアを始めたんですが、キラキラした中高生と関わるのが楽しかったのと同時に、自分に対する無力感を感じました。自分は中高生に対して何かしたいのに、何もできていない。そんな話をb-labのスタッフに聞いてもらっていたら、この実践型教育インターンを紹介されました。
岩本:僕も教育とは無縁でした。僕は大学院の政治学研究科にいて、一言で言うと、自分のこれからの未来に対して考えあぐねていました。自分の今までの人生について振り返って、大学院進学もそうですが、それまでの僕は『できること』を軸に人生の選択をしていたと気付いたんです。でも本当に自分がやりたいと思えることは何なのか、と考えていた時、カタリバの「どんな環境に生まれ育っても、未来をつくりだす力を育める社会」というビジョンを知って共感したんです。
僕は和歌山の田舎町に育ち、大学進学を機に上京しました。でも、そこで出会った人たちは、とても同じ18歳とは思えない人たちばかりでした。英語で自己紹介し、多くの課外活動の経験があり、機知に富んだ会話をする人たちです。同じ日本で教育を受けたはずなのに、なぜ18歳の時点でこんなに違いが生まれてしまうのか?地方の教育環境を改善するにはどうすればいいのか?そういった違和感に突き動かされて、応募に至りました。
ー今やっていることについて教えてください。
佐藤:一つは、小学生・中学生の教務、運営です。具体的には、中学1年生の数学の授業をしています。最初はメンターの先輩に教えてもらいながら、徐々に自分で考えて授業を設計できるようになりました。授業の計画を作って先輩に見てもらい、フィードバックをもらって授業を実施しています。授業内容は、ある程度の枠の中で自由に作れるので、例えばレクリエーションを入れたい、と考えた時も、意図のあるレクリエーションならやってもいいよ、と言ってもらえます。
もう一つは、フリースペースの運営です。生徒が何か興味やきっかけと出会い、そこからチャレンジする場にすることがゴールです。今はまだ「休憩所」に近いので、対話を通して生徒の興味を広げることを仕組み化していくことがミッションです。他に、シフトの作成など運営に関する業務も担っています。
岩本:僕も似ている部分が多いんですが、大槌臨学舎ではICTを活用した授業も行っています。その他に、英検対策講座や、高校生向けに動画教材を使った自習環境の整備をしています。
一番ウエイトが大きいのは中学生への学習支援です。習熟度別にクラス分けをしていて、僕は勉強が苦手な層を担当しています。英語の授業をしているんですが、単に勉強を教えているというよりも、生徒の自己肯定感を育むにはどうしたら良いか考えながら授業をしています。勉強が苦手な生徒たちは、昔から「できること」よりも「できないこと」に目を向けてきたのだと思います。そこからどうやって彼らの可能性を見つけて、「できること」を伸ばしていくかをいつも考えています。
思春期の中高生特有の変化が、一緒に過ごしていて楽しい
ーやりがいを感じるのってどんな時?
佐藤:やっぱり、生徒の変化が嬉しいですね。成長だけじゃなくて、思春期の中高生特有の変化が一緒に過ごしていて楽しいと感じます。例えば、向学館に友達がいない子がいたんですが、どうすればその子が楽しく過ごせるか試行錯誤した結果、今は友達と一緒にフリースペースに来られるようになりました。
思春期の中高生は、精神状態が変化し続けます。良い方向になったら嬉しいけど、悩みを持っている子たちに対してアプローチを考えることが楽しいし、それによってポジティブな変化が現れた時はやりがいを感じます。
岩本:僕は日々、自己肯定感が低い生徒と関わることが多いです。例えば中学2年生の生徒で、最初はペンも持たない、授業中に寝る、僕の声がけも無視するという子がいました。最初はどうコミュニケーションしていいかわかりませんでしたが、少しでも自己肯定感を上げるために何ができるかを考え続けました。例えばプリントに問題が1問だったら、正解しても普通丸は1個ですけど、途中の式を書いたらもう一個丸つけるとかしていたら、だんだん話しかけてくれるようになりました。自分や大人、社会に対して心を開いてくれるようになるのを見るのは嬉しいです。
ー関わっている生徒の変化が感じられるのは、1年間という長期で関わるメリットだね。じゃあ、自分自身の変化は感じてる?
佐藤:目の前の生徒が今を幸せに過ごせて、かつどうなったら将来幸せになれるかな、という二つの時間軸を持って生徒と接することができるようになりました。こうなって欲しい、と押し付けるのはエゴでしかないので、バックグラウンドや震災の影響なども考え、行動の裏に何があるのかな、と考えた上で、アプローチはこれが適切なのかな、と考えることができるようになりました。
岩本:僕は、自分にしかできない声掛けってなんだろうと考えながら生徒に接するうちに、自分に何ができて何ができないか、自分の得意不得意が何か自分自身でよくわかるようになりました。嘘偽りなく、自分らしく生徒と接することができるようになってきたと感じます。
今は良い悪い、などの判断をするための心の中の物差しを作っている時期なのかなと思っています。エゴを押し付けるのでもなく、責任を放棄するわけでもない関わり方ってなんだっけ、とジレンマを抱えながら考えているところです。
「教育格差が」と言葉で言っても、生徒の顔が浮かんでいるかどうかで全然違う
岩本:僕は今、この1年間の経験を今後どう活かしていくか考えているところなんだけど、まーくん(佐藤)はどう考えてる?
佐藤:自分もすごく悩んでいたところで、結論は出てない。ただ中高生と関わるのはすごく楽しいから、カタリバ以外の団体でも中高生に関わる活動がしたいと思ってる。民間なのか公教育なのかはまだわからないけど、教育には携わっていきたい。がんちゃん(岩本)は?
岩本:僕が実践型教育インターンを始めたのは自分自身の教育環境とかが理由だけど、一番関心があるのは、世の中をより良くしたいっていうことだな、と考え始めてて。そのための手段を今、いろいろ考えてるんだよね。僕自身の得意分野って何なのかなって。
大槌には臨学舎があるけど、他の地域すべてにそういう場所があるわけじゃない。社会の仕組みとして届けたいことを届けるためにはどうしたら良いか考えていて、直接生徒と関わるだけではないスキルを身につけたいと思ってる。マーケティングなのか広報なのか、まだ見えてはいないんだけど。大企業や調査会社で入るとかもやってみたい、とか…。
ー現場に立ったからこそ、考えるようになったっていうことだよね。
佐藤:僕からも聞いてみたいんだけど、8ヶ月経ってみて、改めて実践型教育インターンをやって良かったと思う?
岩本:すごく思ってる。もし、インターンを始める前みたいに「できること軸」だけで人生を選んでいたら、子どもと接する現場に立つことはなかったと思うんだけど、実際の教育現場に立ったことがあって、生徒の顔がイメージできることって、現場から離れた時にこそ価値を持つんじゃないかと思ってる。「教育格差が」と言葉で言っても、生徒の顔が浮かんでいるかどうかで全然違うと思うから。
佐藤:僕も、すごくやって良かった。単純に生徒と関わるのがすごく楽しくて、毎日楽しませてもらってる。同じ日常がない。がんちゃんとは逆に、自分はずっと現場に立ってプレイヤーとして子どもと接していきたいと思ってて。プレイヤーってこんなに楽しいんだって知ることができたな。自分自身が成長できたかどうかは、終わった後にわかるのかも。
ーでは最後に、インターンをやろうかどうか迷っている人に伝えたいメッセージをお願いします。
佐藤:実践型教育インターンってすげえ、教育やってきた人じゃないとできないのかな、と応募する前はハードルが高く感じたんですが、単純に「楽しそうなところに1年間行ってみたい」という気持ちで応募してもらっても良いんじゃないかと思っています。
岩本:僕も、始める前は自分にできるとは思っていなかったです。生徒と関わるイメージがそこまで持てていなかったんですが、ただ教育に携わってみたいという気持ちが最初にありました。僕みたいな原体験を持っていなくても、「やってみたい」というその瞬間の気持ちを大事にしたら良いんじゃないかな、と思います。
4月からの実践型教育インターン説明会開催中!
二人が、取り組んでいることは共通する部分が多いのに、これからの将来については対照的な考えを持っていることが興味深かったです。どんな道を歩んでいったとしても、きっとこのインターンの経験が二人を支えていくんだろうな、と思いました。
現在、2019年4月から活動するインターンのオンライン説明会を随時開催中です。現役メンバーやOBから話を聞くことができるので、ご興味を持った方はぜひご参加ください!
>>実践型教育インターンの詳細・お申し込みはこちらから
菊地麻子
2013年NPOカタリバに転職し、広報・ファンドレイジング部を経て職員採用、実践型教育インターンの募集や研修を担当。応募を迷っている方はお気軽にご相談ください!
電話:03-5327-5667
Email:katariba-practical-info@ml.katariba.net