「2023年 新年のご挨拶」代表理事 今村久美
明けましておめでとうございます。
NPOカタリバ代表理事の今村久美です。
カタリバの活動を応援いただき、ありがとうございます。
おかげさまで、2023年、カタリバは、創業21年目を迎えました。
2022年は、長引くコロナ禍の中で子どもたちが抱えてきたストレスや今の社会の問題が、顕在化した年でもありました。
多くの学校が黙食を見直しましたが、「おしゃべりしてもいいよ」と学校で言っても、しばらく喜んで話している様子が見られたものの、「しゃべることがない」「食事しながら人と話すことに慣れない」という声も。
一斉休校から2年半以上続いてきたコロナ禍は、子どもたち同士の人との関わり方を、大きく変えてしまいました。
長期欠席する小中学生の数も、令和3年度は約41万4千人にもなり、前年度の約29万人から大幅に増えました。1949年度の長期欠席の全国調査では中学生のうち約7.6%が長期欠席していたそうです。いま現在、中学生のうち約7.2%が長期欠席中。戦後の貧困などが背景にあって学校に行きたくても行けない環境で生きていた世代の70年以上前の数値に近づいているというのは、現代社会が大きく受け止めるべき事象だと思います。
家庭の経済力も愛情のかけ方も、地域ごとの教育資源の差も、子どもはどこで生まれ育つか、自分では選べません。全員にとって完璧ではないかもしれないけど、ベターな環境はみんなでつくっていける。そんな夢を掲げ、環境的にハンディを抱える子どもたちの支援活動に重点を置きつつ、誰でもアクセス出来る公教育を、もっと良くしていきたい。そんな想いで全国700名のメンバー(職員・パートナー等)とともに15のプロジェクトに取り組んできました。
自治体や学校との連携も進んでいます。2021年にはじめたオンライン不登校支援プログラム「room-k」も今は6自治体と連携しました。足立区で2016年より運営する困難を抱える子どもたちの安全基地「アダチベース」は、昨年に足立区立花保中学校と協働し、学校内の空き教室を活用した子どもたちのための居場所「リビングルーム」を始めました。
過疎地で教育資源不足の教育困難世帯で生きる子どもを支えるため、オンラインで親子を支えるキッカケプログラムは愛媛県の2市と連携を開始。また、ヤングケアラーの子どもを支援するため、茨城県とも連携を始めました。
自治体・学校とカタリバの関係が、パートナーとして対等であり、課題解決のための新しい事業をつくっていけていると感じられるのも嬉しいことです。国で実施が決まった事業を民間に下請けとして委託するような形ではなく、カタリバの柔軟性と行政の持つ供給力や平等性など、それぞれの強みを組み合わせて形にしていった年でもありました。
また、オルタナティブな選択肢をつくりながらも、公立の学校そのもののアップデートも大切だと考えています。
カタリバは岩手県大槌町で「コラボ・スクール」を運営し、2017年度からは町の教育委員会にも参画。2019年度、大槌高校は高等学校教育改革推進事業の指定校に選ばれ、カタリバスタッフは学校に常駐しながら、東京大学大気海洋研究所・国際沿岸海洋研究センターとともに高校生が研究活動を行う「はま研究会」をはじめ、学校内外での探究的な学びに取り組んできました。
昨年はそうした取り組みをさらに進化させ、新たに文部科学省より普通科改革支援事業の指定を受けました。地域住民との大槌高校魅力化構想会議を行いながら、新しい学科として地域社会学科(仮称)を設置し、これからの地域を支えるリーダーが育つようなカリキュラムを構築しています。
また、全国の中学・高校の校則やルールを対話的に見直す「みんなのルールメイキング」プロジェクトでは、校則見直しプロセスの全容、事例が詰まった書籍『校則が変わる、生徒が変わる、学校が変わる みんなのルールメイキングプロジェクト』(学事出版)が9月に発売となりました。
2019年は3校からはじまったルールメイキングも、2022年末には175校となり、各地で広がりを見せ始めています。
カタリバ設立20周年のチャレンジとして始めたインキュベーションプログラム「ユースセンター起業塾」では、1期生として北海道から鹿児島まで日本各地の14団体を採択して、NPO法人ETIC.と一緒に伴走を続けています。
2004年にETIC.の社会起業塾に参加した私が、今度は次の世代を応援する起業塾を開催する。プレイヤーとしてカタリバの成果をあげるだけでなく、土壌を耕す側に回っていく必要性も感じました。
地域の特性にあわせたユースセンターがあちこちに増えて、どの地域に住んでいる子どもたちも、居場所を見つけられる。そんな未来を夢見て、2期生の募集も行っています(2023年1月16日15時締切)。
現場での支援以外にも、昨年から力を入れ始めたことが3つあります。
1つが、政策提言です。
課題の多い社会の中で、カタリバに対して、意見を求めていただく機会もぐっと増えました。昨年2月には、参議院「国民生活・経済に関する調査会」に参与人として出席し、長期欠席の子どもが増える中で社会に必要とされる新制度について提案しました。
私以外のメンバーでも、菅野祐太がこども家庭庁の方針を検討する委員会で有識者に。富永みずきが総務省の青少年のICT活用のためのリテラシー向上に関する委員会の委員に。和田果樹が東京都のヤングケアラー支援検討委員会の委員になるなど、職員たちにも様々な機会をいただきました。
2つめは、研究者による現場の検証です。
研究者を組織内部に複数人迎えいれ、自分たちの事業の取り組みをちゃんと分析し始めました。これまで職員同士で振り返りをすることはあっても、研究者の方にレビューしていただきながら客観的に精査していくことはやりきれていませんでした。データに基づいた政策提言につなげていけるよう、2023年には研究所設立を構想しながら準備を進めています。
3つめは、動画での発信を実験しました。
カタリバでは、2020年から本格的に広報部を立ち上げ、なかなか伝えづらい現場を多くの方に発信していくチャレンジをはじめています。そんな中で、昨年は日テレで報道キャスターを務めていた加藤聡さんが、休職制度を活用し、カタリバへ参画してくれました。それを機に、あまり手をつけられていなかった動画で発信する取り組みも始めました。
現場にも力を入れながら、これまで積み重ねてきた知見を社会にもっともっと広げていく。そのための第一歩を踏み出し始めたような、そんな1年でした。
本年はさらに多くの様々なセクターと連携し、期待に応えていけるよう、身を引き締めていきたいと思います。各地に生まれている後輩たちや仲間たちを支えることで、点ではなく面として子どもたちを支えていける、そんな社会をつくりたいです。
カタリバの応援を続けてくださるみなさまのおかげで、活動を続けることができるありがたさを、この季節は毎年しみじみと感じます。
すべての子どもたちが意欲と創造性を持って生きるチャンスをつくるため、今年も取り組んでいきます。引き続き、本年も応援をどうぞよろしくおねがいします。