3.11からの学びを今に。その喪失感の次に、何ができるか。
春休みまでの全国一斉休校要請ー。
日本中が慌ただしく対応に追われる数週間。カタリバも、オンラインでの子どもと家族支援など新たな方法に挑戦中だ。幸か不幸か、社会全体がしくみや制度を根本的に見直す機会にもなっているようにも見える。
とはいえ、子どもたちにとっても、親や家族にとっても今年の「3月」は一生に一度しかない。わが息子も保育園を卒園し、4月から新生活を迎える。延期された卒園式も、開催未定の入学式も、節目の機会として与えてあげたいと思うのは、わがままかも知れないけど親の本音だ。
9年前、東日本大震災が起きた3月11日も、そんな時期だった。
壊滅的被害を受けた被災地はもちろん、全国で自粛ムードになり、卒業式や入学式といった儀式的な行事が中止・延期、もしくは規模を縮小して実施された。
災害や感染症は、「なぜ今」と思うようなタイミングで私たちの日常を奪っていく。その喪失感の次に、何ができるか。その影響をもろに受け、その先にある長い人生を「そのこと」とともに歩いていかねばならない子どもたちが、少しでも多くの希望をもち、未来を歩いていく力をもてるように私達に何ができるか。発生してしまったなら、少しでも笑顔が取り戻せるように、代案をつくるしかない。
震災から9年。はじめて出会った東北の瓦礫の町の中で、本当に一歩ずつ、一歩ずつ、地元の人たちとともに自分たちにできることを進めてきた。いろんなことがうまくいかず、みんなで泣いた日もあった。「あの時があったから、こんな今がある」と、10年後に思えていたらいいなと、苦しいときは声を掛け合った。
震災から9年経つ今も子どもたちが集まる場所になったコラボ・スクール大槌臨学舎(岩手県大槌町)
こういう時、不思議なものでものすごいエネルギーが生まれるように私には見える。地道に、愚直に、必死に日々に取り組む中で、「被災」と「それまで町が抱えていた課題」というふたつの大きな壁をいっぺんに乗り越えるようなミラクルも起きる。地元の方々からすれば、「よそ者」である私たちNPOと協働する道は、簡単ではなかったはずだ。時間をかけ、ゆっくりと溶かしてきたこの「よそ者」と「地元民」の関係性が、既存の概念にとらわれない新しい教育の形を創り出している。この地に足ついた信頼関係の上に立つ力強さがあるからこそ、東北の次の10年をどう描くか、まちの人たち、スタッフ同士の対話に熱がこもる。
2019年は、東北・熊本・西日本豪雨の被災地支援を続けながらも、新しいチャレンジをはじめた。平時から災害への備えを行う「災害時子ども支援アライアンスsonaeru」を昨年9月に設立。都道府県や、ずっと東北の応援を続けてくださってきた支援企業の方々と平時から共にシミュレーションをし「備え」た。
最初の活動は昨年10月の台風被害。私を含めたsonaeruチーム(カタリバ×株式会社WILLグループ様)は、発災3日後に現地調査に入り、その場で対応策を構築した。今までにない心強さとスピード感、取り組みやすさを感じた。
長野県長野市で開設した子どもの居場所「コラボ・スクールながの」の様子
また、東北でも台風被害があり、やっとのことで開通した三陸鉄道もまた運休。学校も休校。カタリバの宮城県女川町チームは即座に支援にかけつけた。東日本大震災以降、地域でつないできた「縁」がつながり、他団体や行政とスムーズに連絡をとり、週末の子どもたちの居場所も速攻で立ち上がった。
そして、今回の一斉休校。カタリバの各拠点は、受験生と課題を抱えた子どもたちを一人も取りこぼすまいと、オンラインでどこまでできるか、悪戦苦闘している。外出を自粛するということは、家庭で過ごす時間が増えるということ。家族に課題を抱えている子どもたちが、家族との関係性に閉じ込められるということは、そこに留まることが苦しくて、ネット上のリスクある関係性とつながってしまう可能性も上がるかもしれない。スタッフたちは知恵を出し合ってオンラインで自習室や授業をしたり、SNSで見守り活動をしたり、心配な子たちには家庭訪問をしたりと、日々工夫しながら子どもたちの支援にあたっている。
また、カタリバの拠点がない地域の子どもたちも含めて、「子どもたちのオンライン居場所支援」となるオンラインプラットホームの運営を始めた。
2020年3月4日にサービス提供をスタートした子どもたちのweb上の居場所「カタリバオンライン」
災害はこれからも起きる。「経験」ある人たちがどう動き、知恵を出し合いながら協力していくか、そして平時からどう備えていくか。尊い犠牲を払った上で私たちが学び次の世代につないでいくバトンは何か。
東日本大震災から9年。あの時、卒園式と小学校の入学式を、いつものような晴れ着姿で迎えさせてあげられなかった子どもたちは今年、中学の卒業式を、またもそれぞれ制限をされた形で迎えた。4月には、笑顔で高校の入学式を迎えられることを祈りながら。