「2020年 新年のご挨拶」代表理事 今村久美
明けましておめでとうございます。NPOカタリバ代表理事の今村久美です。
カタリバの活動をいつも応援いただき、ありがとうございます。
去る2019年も、カタリバはすべての10代が「どんな環境に生まれ育っても”未来は創り出せる”と信じられる社会」の実現を目指し活動してきました。台風15・19号をはじめとした自然災害やますます深刻化する子どもの貧困など、大人でも困惑するような社会の状況の中、日本の10代を取り巻く環境は厳しさを増していると言わざるを得ません。
昨年11月末、日本財団のサイトで「18歳意識調査」が発表されました。
この調査は、日本をはじめとしたインド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツの17~19歳の若者各1,000人に対し、社会や国についての意識調査を行ったものを日本財団がまとめたものです。
他国との数値比較において、国民性や国の成熟度合いを考慮したとしても、「自分の国の将来が良くなる」と答えた日本の若者が全体のたった9.6%と先進国・途上国を含めた9カ国の中で最下位であったことは、多くの日本の若者が自分たちが暮らす国への希望をもてていないことを証明する結果でした。
日本財団「18歳意識調査」より
また、他の設問では「自分で国や社会を変えられると思う」という問に対して肯定できた若者は18.3%。お隣韓国の39.6%の半分にも満たない結果でした。数年後には成人、社会人として日本の未来をつくっていくこの年齢の子どもたちが希望をもって生きていけるような国にするために、私たち大人ができることは何なのでしょうか。
カタリバを立ち上げてから18年、すべての10代に未来を自分で創り出す「意欲」と「創造性」を届けることをビジョン・ミッションに掲げ活動してきました。日々模索し、その時々、「最善」と思う選択を重ねてきました。しかし、この調査結果を見ると、まだまだ「すべての10代」が未来は自分たちがどう動くかによって創り出せると思えている状態には及ばない、と身が引き締まりました。
そんな目に見えにくい10代の内面を踏まえつつ、全国の各現場では、子どもたちの安心・安全な居場所づくりや学びのきっかけづくりなど、私たちが今できることに必死に向き合い、愚直に手や足を動かしてきました。
昨年は元号が平成から令和へと変わり、新たな時代の幕開けもありました。カタリバでもこれまで築いてきた関係から新たな事業に発展したり、これまでの活動を更にアップデートするなど、全スタッフが現状の課題を分析し、よりよい子ども支援を模索してきました。
組織としては、度重なる自然災害後の子どもたちの支援を迅速に行うため、平時から企業や自治体などと連携し備える、「災害時子ども支援アライアンスsonaeru」の設立や、「外国ルーツの高校生支援事業」など、これまで課題意識はありつつも形にできていなかった子どもたちへの支援を、様々なつながりを丁寧かつ強固にしながら実現に向けて一歩を踏み出すことができました。
*災害時子ども支援アライアンスsonaeruについての記事はこちら
*外国ルーツの高校生支援事業についての記事はこちら
「sonaeru」の設立もあり迅速な支援が可能となった台風19号支援
冒頭の日本財団の調査には落胆しましたが、データを更に見ていくと、希望も見えました。
「自分で国や社会を変えられると思う」という設問に肯定的だった若者のうち8割以上が「将来の夢」を持ち、「自分の国に対し解決したい社会課題がある」と答えています。安心・安全な場やコミュニティの中で自己肯定感や自己有用感を見出した子どもたちが主体的に課題に取り組み自信を持っていく。そのような若者が増えることによって、日本の未来も変わっていくかも知れない。そんな可能性も感じました。
また、昨年は嬉しい報告もありました。2011年の東日本大震災後、岩手県大槌町にカタリバが開いた子どもたちの放課後の学びの場と居場所「コラボ・スクール大槌臨学舎」。そこに中高生の時通っていた桜子さんが大学生となり、現在大学を休学して大槌臨学舎のスタッフとして活動を始めてくれたのです。桜子さんは、大槌町や岩手県内で復興や大槌町の人のためになる仕事がしたいと思っていました。けれども大学の中では地元の現状を知る機会は乏しく、「大槌町に関わりを深める機会がほしい」と1年間の休学を決意。大槌臨学舎にスタッフとして戻ってきてくれました。
スタッフとしてコラボ・スクール大槌臨学舎で活動する卒業生の桜子さん
彼女は大槌臨学舎に通っていた当時、スタッフとの出会いから、様々な進路選択を考えることができたり、憧れの存在ができて目標を持って日々頑張ることができたと語っていました。そんな桜子さんが今は後輩に自分の震災経験や大学生になってからの留学経験を話し、「大槌町出身の人もこんな経験してるんだ。私も頑張ってみよう!」と勇気や希望を与えている。卒業生が戻ってきて活動してくれるということは、とても価値のあることだと、彼女の活躍を大変うれしく思っています。
(桜子さんへのインタビュー記事はこちら)
他にも、私たちが寄り添った子どもたちは成長し、カタリバに支えてもらった側から、支える側になるケースもあります。同じく大槌臨学舎出身で今年成人式を迎える亜美さんは、「自分のように辛い経験をしている子どもたちの力に少しでもなれたら」と、今やサポーターとして寄付で、カタリバを支えてくれています。
(亜美さんへのインタビュー記事はこちら)
「自分で自分の道を切り開く力を身につけてほしい」という思いで接してきた一人ひとりの子どもたちが、確かに自分の人生を歩んでいる。そんな成長を見つめ続けてこれたことこそ、カタリバを継続してきた意義にも感じます。彼女たちの成長を目にして私は、「地道なことしかできないけれど、やらないよりはやったほうが良い。やり続けることが大事なんだ」と勇気をもらっています。
変化のスピードの速い現代社会において、私たちが柔軟に子どもたちの状況や意欲に寄り添うことができているのは、ひとえに日頃から関心を寄せ、支援してくださっている皆様のおかげです。
この場を借りて、改めて感謝申し上げます。
引き続き、本年も応援よろしくお願い致します。