大人社会のひずみ[代表のつぶやき]
この秋、カタリバの中高生の拠点に通って来るようになった中学三年のA君。
小学生の頃からもうずっと学校に行っていない。利用登録に来た際、「子どものことで何かあっても、自宅には一切、電話しないでください」と母親が強く重ねた。A君はここに自分の「居場所」を見つけたようで、週に二度はやってくる。スタッフに心を開くようになり、悩みを話すようになった。
働けない母は父に依存している。土木現場で働く父はとても怖い。人とうまくやれず、学校に行けなくなった小学四年くらいから、自分が自宅にいるのがバレると、母子は殴られる。夜勤明けで、自宅に父がいる時は、押し入れに隠れて動画を見る。父の目を盗んで、母がこっそり呼びに来て外に行く。それが何年も繰り返してきた彼の生活だ。中学三年だけど、正負の数の概念が分からない。
来年二月公開の映画「子どもたちをよろしく」を試写会で観た。描かれていたのは、子どもたちのいじめと、一人ひとりの家庭の様子だ。
低学力、不登校、いじめなど、現代の子どもたちの闇として語られることの多くは、子どもの問題だけで起きることは少ない。大人社会のひずみの玉突きで、弱い立場の子どもたちのところで表に出てくる。この映画では、それを代弁するかのように、そのリアリティーがこれでもかというほど描かれていた。
(2019年12月19日中日新聞掲載)