大槌町の夜空[代表のつぶやき]
三陸鉄道に乗って岩手県の沿岸部の地、大槌町に向かっている。
今年の三月、津波で流された駅が再建された。東日本大震災から八年。大槌駅で降りられることがとてもうれしい。
私は昔から猪突猛進と言われてきた。東日本大震災のあと、テレビの片隅に映る子どもたちのことで頭がいっぱいになった。この幼い子どもたちは突然、失った大切な人の記憶をどう受け止めていくんだろう。
居ても立ってもいられなかった。大槌町に空き家を買って、仲間たちと移住し、子どもたちが毎日、通える「居場所」を神社とお寺に開設し、コラボ・スクールと名付けた。被災地の子どもたちの教育を支援するコラボ・スクールは今も多くの子どもたちが利用する。
二〇一二年のある日、大槌町から東京に招いた高校二年生のYさんが東京の空を見つめて、ポツリと言った。「なにもなくなった大槌にあって、東京にないものを見つけた」。「なに?」と聞くと、夜空だと言う。大槌では街灯もないから、星がよく見える。前と下ばかり向いていた私は、東京では星が見えないことに気づいていなかった。大槌に戻り、彼女は高校を卒業するまで夜空のガイドをした。支援される側にいるよりも、ずっと彼女の顔が輝いて見え、私はハッとした。
このまちに関わって八年。いつも大切なことを気付かされる。
(2019年9月12日中日新聞夕刊掲載)