夏休みの憂鬱ー中日新聞コラム「紙つぶて」より[代表のつぶやき]
東京都北部の某区に住む中学二年生のKさんは毎回の長期休暇の終わりが近づいてくると、困ることがある。
宿題の「夏の思い出」の絵に描くことが思いつかない。 病院で働くひとり親の母親は夜勤が多い。週に一、二度、アパートの部屋で会うことはあっても、疲れて不機嫌なことも多く、 話しかけると、もめることになる。朝も夜も、もう何年も孤食が基本。家族で遠出をした記憶は遠く、絵を描くために遠出をすることもできない。
お小遣いは携帯代に消えるため、同級生が連れ立っていくような場にもなかなか行けない。ディズニーランドやUSJ、海など、絵日記映えするような場所に行った友人たちの絵が学校の壁に掲示されるのが恐怖だそうだ。
家庭に事情がある中高生が行政・学校からの紹介で放課後や休日に利用するカタリバの拠点には、Kさん同様、「多様な経験機会」に恵まれない子は少なくない。 親に余裕がないと、余暇時間の充実にまで頭がまわらない。
先日、子どもたちに呼びかけて、みんなで浅草の花やしきに出かけた。「楽しみ?」と聞いても「別に…」と感情をうまく表に出さない思春期だけど、みんなで照れ笑いしながらバスに乗った。
相対的貧困状態の子どもの数は全体の3.9%。夏の終わりに憂鬱になる子どもが約280万人いるということになる。
(2019年8月22日中日新聞夕刊掲載)