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KATARIBA マガジン

未来をつくる高校生がこんなにいることを、大人にこそ知ってほしい──“アンバサダー”4人が語る地方の未来

vol.365Report

date

category #活動レポート

writer かきの木のりみ

カタリバが2013年より組んできた探究型学習プログラム「全国高校生マイプロジェクト」では、毎年2〜3月に「全国高校生マイプロジェクトアワード」を開催しています。これは、マイプロジェクトを実践した高校生が一堂に会して1年間の活動を発表する場で、日本各地で開催される「地域Summit」と、各地域から招待された高校生が集う「全国Summit」で構成されています。

「全国高校生マイプロジェクトアワード」に取り組んだ高校生の人数は2023年に9万8000人を超え、大きな盛り上がりを見せていますが、その一方で、規模が大きくなるほど「地域Summit」開催にかかる人手や費用が増え、各地域の負担が増しているという課題もみられるようになりました。

そこで、2024年から新たにスタートしたのが、「アンバサダー企業制度」という取り組みです。

アンバサダー企業制度がどのように生まれ、どんな活動をしているのか。そして、アンバサダーとして活動する方々が目指すものとは何か──。マイプロジェクト初のアンバサダー企業として宮城県で活動してくださっている株式会社マザーハウスと株式会社funbalanceのみなさまにその想いを語っていただきました。

マイプロジェクトアワードの
高校生の熱量は、

地元企業への刺激にもなるはず

──最初に、マザーハウスさんとfunbalanceさんが、「全国高校生マイプロジェクトアワード(以下、マイプロジェクトアワード)」に参加してくださるようになった経緯を教えてください。山崎さんは2013年の第1回目からずっと応援してくださっていますね?

山崎さん:実は私はカタリバの代表理事・今村久美さんの大学の後輩で、今村さんから「第1回マイプロジェクトアワードを開くから協力してほしい」という電話をいただいたのがきっかけなんです。私自身、奨学金で中学・高校を卒業したということもあり、教育は自分にとって大切なテーマの1つでもあったので参加させていただきました。

──初めてマイプロジェクトアワードを見た印象はいかがでしたか?

山崎さん:第1回目は参加した高校生がたった18人という小さな催しでしたが、とても感動しました。高校生たちは純粋に未来を見ていて、社会課題や地域課題に対してもしっかり考えていました。大人はつい目先のことに追われがちですが、マイプロジェクトアワードはそんな大人が未来を見据える視点を取り戻せる場だと感じました。これからもここに参加しなきゃダメだと強く感じたことを覚えています。

また、マザーハウスは途上国の人たちの可能性を、寄付や援助ではなくものづくりを通して引き出し、途上国のイメージを変えていきたいという思いからスタートした企業です。それは高校生の可能性を引き出すマイプロジェクトと共鳴する部分があるとも感じました。自社でマイプロジェクトの話をしたところ、「企業として関わるべきだ」という声が多く出て、2018年度のマイプロジェクトアワードから物品提供などを行う協力をしています。

18人の高校生が参加した「全国高校生マイプロジェクトアワード2013」(2013年12月、東京都にて)

──マザーハウス仙台パルコ2店 店舗統括責任者の吉田さんも、マイプロジェクトアワードにサポーター(※1)として参加してくださっていますね。

吉田さん:学生時代から地域や教育に関心があり、大学も教育学部でした。今の高校生の様子を知りたいと思い、参加させていただいたのが最初です。

彼らがマイプロジェクトアワードで「自分たちの地域や未来の話を大人たちに聞いてほしい」というまっすぐな気持ちで発表している姿を見たときは、未来をつくっていく高校生がこんなにたくさんいるということに心を打たれました

(※1)マイプロジェクトアワードに参加した高校生の学びを最大化するため、高校生に対する問いかけやアドバイスをする役割を持つ大人のこと

──funbalanceの関村さんと齋藤さんは、2023年に山崎さん、吉田さん、伊藤さん、カタリバ鈴木と食事会をされたのがきっかけだとか?

齋藤さん:以前から知り合いだった吉田さんから、山崎さんが宮城にいらっしゃるとお聞きして食事会に参加し、マイプロジェクトアワードのことを知りました。

funbalanceは地域の中小企業さんの組織開発や営業支援などをしているのですが、高校生たちの熱量は企業の方たちへの刺激にもなるのではないかとの思いもあり、参加したいと思いました。

関村さん:食事会の翌年、マイプロジェクトアワードを初めて見に行ったのですが、発表内容のレベルの高さに驚きました。そのときは地元の企業さんを誘う際に「きっと良いと思いますよ」としか言えなかったのですが、2回目以降は「皆さんの期待をいい意味で裏切りますから、ぜひ来てください!」と自信を持って誘うことができています

働きかけにより地元大手企業が協賛。
地元メディアも取材に

── 2024年から新しい取り組みとして「アンバサダー企業制度(※2)」が始まりました。そのきっかけが、山崎さんの「『全国高校生マイプロジェクト』の活動を応援してくださる寄付・協賛企業を、都道府県ごとに募ることができないかの検討を本気でやってみようよ」というご提案です。なぜこうした提案をしてくださったのでしょう?

山崎さん:理由は2つあって、1つはマイプロジェクトアワードの地域Summit(地方大会)をもっと盛り上げたいと思ったからです。東京で開催される全国Summit(全国大会)は、それはそれですばらしいのですが、全国Summitを支えているのはやはり地域の高校生たちの存在だと思うんです。

地域Summitは、高校生にとって大きな意味がありますし、大人も大きな刺激をもらえる大切な場です。しかし、開催には多くの費用がかかるのも事実。これからはその対策が必要だと思ったんです。

(※2)アンバサダー企業とは、その企業が持つ地域でのネットワークを生かしつつ、マイプロジェクトを協賛や寄付の形で支援してくださる企業を開拓してくださる企業のこと

アンバサダー企業による活動の概要

── もう1つの理由とは何でしょう?

山崎さん:地域で頑張っている高校生たちを、地域の大人たちにもっと知ってほしいと思いました。地域の課題と一番向き合う必要があるのは地元の企業で、彼らがマイプロジェクトアワードを見たらきっと響くものがあるはずだと思いました。それによって企業が触発され、「自分もやろう」「高校生と一緒に何かできるんじゃないか」と想いや行動が広がっていけば、という思いもあり提案しました。

鈴木:実はマイプロジェクト事務局でも、少し前からマイプロジェクトアワードを各地域で応援してくださる方々と協働する形を模索していたところでした。そんなとき、山崎さんからご提案いただき、2024年度はそれを1つのテーマにしてみようと踏み出すことに。

関村さん、齋藤さんにも相談させていただき、2024年度に宮城県で行われた地域Summitでは、興味を持ってくださる地元企業の方々にマイプロジェクトの取り組みを紹介する「企業ツアー」を実施することができました。

地域Summitで実施した企業ツアーのひとこま

──地元の企業に働きかけをしているなかで、企業の方々の反応はいかがでしょう?

吉田さん:仙台パルコ2店で開催した「未来をつくるnight」というトークイベントで、伊藤さんにマイプロジェクトの取り組みを話していただいていたところ、今年度からパルコさん(株式会社パルコ 仙台店)が宮城県で開催される地域Summitの協賛企業として加わってくださることになりました。コツコツやってきて良かったですし、企業さんにさらに地域に目を向けていただくことにもつながったと感じています。

鈴木:これまで、マイプロジェクトアワードを地元のメディアさんに取り上げていただきたくてもつながりがなかったのですが、2024年度はパルコさんのご協力で、5社もの報道機関が取材に来てくださいました。地元の企業さんたちとこれから協働を進めていこうとしている中で広く発信することができ、とても大きな力になっています。

山崎さん:一方で、マイプロジェクトが良い活動だと感じても、協賛や寄付の形で応援することは企業にとって簡単なことではありません。だからこそ、マイプロジェクトアワードを実際に見てもらい、その価値を肌で感じてもらうことを、これからも続ける必要があると思います。

関村さん:今年度のマイプロジェクトアワードに来てくださった企業さんは熱量がある方たちばかりで、来年度以降はその方々が、他の企業さんにも声をかけてくださると期待しています。

齋藤さん:マイプロジェクトアワードを見た企業の方々は、私たちと同じように「高校生がこんな視点でここまでやってるんだ!」と驚かれる方が多いです。マイプロジェクトアワードや高校生をどのような形で応援できるか、そして企業にもプラスになる協働の形ををどうつくっていくかを、皆で議論しながら進めていければと思います。 

マイプロジェクトアワードで発表する高校生

高校生が地元で輝ける場をつくるのは
大人の責任。

その母数を増やしていきたい

──マザーハウスさんとfunbalanceさんがアンバサダー企業になったことで、地域パートナーの活動に影響や変化はありましたか? 

伊藤さん:影響力も規模も全然違うと肌で感じています。「マザーハウスさんが応援しているマイプロジェクトだから」「funbalanceさんがすごくいいと言っているから」と足を運んでくださる方がたくさんいて、とても大きなパワーになっていると感じていますし、私自身も企業側の視点を知ることができて勉強になっています。 

──企業が参加してくださることは、高校生にとっても張り合いになるのでは?

伊藤さん:そうなんです。学校の先生や教育関係の人間以外の多くの大人が「その活動いいね」「頑張っていてすごいね」と言ってくれることは、 高校生にとって大きな手応えですし、「こういう大人がたくさんいるなら、卒業後もこの地域で頑張れる」という思いにもつながると感じます。

──アンバサダー企業制度はまだ始まったばかりです。最後に、これから取り組んでいきたいことや目指すところなどを教えてください。

山崎さん:私はアンバサダーの活動を通して1つの大きな学びがありました。それは、マイプロジェクトを支援しようと集まってくれる大人には、本当に素敵な人が多いということ。教育は目先のお金になりにくい分野なので、そこに集まってくれるのは、本当に地域や未来、若い人たちへの思いがある企業さんばかりなんです。

今までバラバラだったそういう方々が、1年に1回マイプロジェクトアワードで集まることで、協業が起こったり新たなつながりが生まれたりすること、その結果、教育に資金が集まり、地域の経済も回る形をつくることが大切だと思います。

齋藤さん:今までは頑張っている高校生と、地元企業の中で頑張っている大人の架け橋になる存在がいなかったと思うので、まずは私たちがその役目を担えればと思っています。 たとえば、地元の企業が高校生と一緒に地域課題の解決方法を考えるといった座組みを提案できると、企業側にも協賛するメリットが生まれます。そういった形もつくっていきたいです。

関村さん:私たちは「地元を良くしていきたい」という思いを強くもっています。高校生が地元で輝ける場をつくっていくのが大人の責任だと思うので、そこに関わる母数を増やしていきたいですね。

吉田さん:私たちの店舗では、私を通してマイプロジェクトを知ったスタッフたちが、少しずつ地域や教育に目を向けてくれ始めています。働くことを通して地元の未来をつくることができるということが、スタッフに伝わり始めていて、他の企業でもスタッフの方々がそう感じられるきっかけに、マイプロジェクトアワードがなっていくといいなと思います。

山崎さん:マイプロジェクトアワードもアンバサダー企業制度も宮城県がスタート地点ですから、まずは宮城から頑張らないと、ですね。


2024年に宮城県からスタートしたアンバサダー企業制度は、現在、岩手、新潟、広島、沖縄など、少しずつ他県にも広がり始めています。

アンバサダー企業が増え、マイプロジェクトを協賛や寄付の形で応援してくださる地元企業が増えることで、高校生に新たな学びを届けることができると思います。

たとえば、現在のマイプロジェクトアワードは高校生によるプロジェクト発表会の側面が強いですが、アワードの時間の一部を使って、活動を応援してくださる企業と高校生が直接交流する時間をつくることで、高校生が新たなプロジェクトテーマを見つけたり、企業と一緒に課題に取り組んだりといった風に、新しい展開が生まれるという可能性はあり得ますし、ぜひやってみたいと思っています」(鈴木)

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Writer

かきの木のりみ 編集者/ライター

東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。

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