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「不登校×メタバース」開始から3年。空間を用意して終わりではない、支援で重要なポイントとは?自治体との二人三脚の軌跡

vol.357Report

date

category #活動レポート

writer 有馬 ゆえ

文部科学省の調査によると、小中学校において2023年度に30日以上欠席した長期欠席者数は49万人超(*1)で、昨年に引き続き増加傾向が見られています。

一方で、課題の一つとなっているのが、学校に行きづらさを感じる子どもの行き場所が不足していること。近年、文部科学省や各自治体が対策、支援に力を入れ始めているものの、全ての子どもたちに学びが届いているとは言い難いのが現状です。

こうした背景のもと、カタリバは2024年11月に「不登校支援フォーラム2024」を開催。2015年から取り組んできた不登校支援の実例から、どうしたらより多くの子どもに支援が行き届くのかについて考えました。

今回は、全3回のイベントから、11月14日に行われたオンラインイベント「メタバースを活用した不登校支援で重要なポイントとは?3年間の取り組みの軌跡とみえてきた可能性」をピックアップ。自治体や学校関係者、報道関係者などが参加したイベントの様子をレポートします。

既存支援が届かない、
オンラインだからこそ
つながれる子どもたちに
アプローチ

2023年度の小中学校における長期欠席者数は49万人超(*1)。また内閣府調査によると、全国で推計146万人が引きこもり状態にあると言われており、引きこもりになったきっかけの一つとして不登校が挙げられています(*2)。

さらに文部科学省の調査では不登校の子どものうち約4割が学びやつながりの機会を持てていないことが明らかになっており(*1)、その背景には、地域に教育支援センターが設置されていないなどの「地域的要因」や「家庭の経済的要因」、心身または発達上の障害があるなどの「身体・発達特性等の要因」といった様々な要因があります。

*1:令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
*2:
「ひきこもりVOICE STATION」ポータルサイト(厚生労働省)

カタリバでは「オンラインだからこそ」つながることのできる不登校の子どもたちがいるのでは、という思いから、2021年にメタバースを活用したオンラインの支援拠点「room-K」の取り組みをスタート。2022年から自治体連携を進めるなかで、自治体がもつ「既存の学びや支援が十分に行き届かない子どもたち」への課題、そしてroom-Kとして子どもたちの支援に向き合うなかで、オンライン支援につながる子どもたちが抱える困難やその実態がみえてきました。

イベント前半では、カタリバ不登校支援事業部の萬代奈保子と阿久津遊、研究チームの金子楓が、同事業について説明しました。

「不登校の子どものなかには、家庭以外の居場所や学びの場に自律的に参加できる子・難しい子、対人コミュニケーションに難しさがある子・ない子などがおり、一人ひとり状況が異なります。また、支援方法についても対面とオンラインの双方に強みがあります」(萬代)

このような背景を受け、room-Kでは既存の支援につながれていない、また支援が十分に行き届いていない不登校の子どもを主な利用対象層と位置付けています。

自治体との連携において大切にしているのは、自治体や学校、スクールソーシャルワーカー(SSW)など子どもと対面で向き合う支援者と連携しながら支援を届けることです。

「自治体と連携し、room-Kを公的な支援として位置付けていただくからこそ出会える子どもたちがおり、連携に加えてroom-Kの個別伴走を軸とした支援があるからこそ、1人ひとりの複合的な背景に寄り添いながらサポートすることができます。

さらに福祉や心理・医療面での専門的なサポートなど、子どもが学びにつながる以前に必要な支援を探ることができます。また、room-Kのオンラインプログラムで徐々に意欲と自信を取り戻した子どもに対しては、教育支援センターや学校とroom-Kの併用など、子どもの状態・希望に応じた次の一歩まで支援することが可能となります」(萬代)

また、room-Kでは「支援・事業の実態を数値的に裏付けて捉えること」も大切にしています。

「より良い支援実現のため、room-K利用開始時に子どもやご家庭の状況を理解するためのアンケートに回答いただき、さらに半年ごとに研究チームとともにアンケート調査を行っています。調査結果は今後の支援に生かすとともに、数値的な裏づけと実践事例をセットで発信することで、私たちが向き合う子どもたちの実態やオンライン支援の可能性をより多くの方に知っていただきたいと考えています」(萬代)

オンラインならではの
“ナナメの関係”が強み。

room-Kの個別伴走支援

room-Kでは、家庭全体への個別伴走と、メタバース空間を活用した集団型プログラムの二軸で、一人ひとりの子どもに合う学び方を届けています

「個別伴走では、ひと家庭に対して支援計画コーディネーターとメンターが一人ずつ専属で付き、子どもと保護者をサポート。個別支援計画を作成し、その計画をもとに月に1度の保護者面談と、週1で子どもとの『作戦会議』と呼ばれる個別面談をオンラインで行います」(阿久津)

「分析の性質上room-K以外の影響も考えれますが、room-Kを利用する子どもへのアンケートでは入会後半年の変化として、ストレス反応(抑うつ・身体反応)のスコアが減少し、本来感(自分らしくある感覚)や自尊感情などのスコアが増加することがわかっています。特に、定期的に作戦会議を行いメンターと一緒に協同活動をした子どもは、心のエネルギー状態のスコアに大きな変化が見られました。」(金子)

学校やスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなど子どもたちに対面で接する支援者とも連携しており、定期的に支援会議を実施し、各家庭に最適な支援体制や役割分担を検討しています。また、連携自治体に毎月送付している月次報告レポートにはroom-Kの出席状況やその月のこどもの様子を記載しており、学校の出席扱いの認定根拠にもなっています。」(阿久津)

3年間の取り組みを経て、オンライン支援の役割や可能性も見えてきました。

まず、オンラインならではの柔軟性を生かして、既存の支援に接続できていない子どもたちにアプローチできること。また、学校教員やソーシャルワーカーなど、子どもと対面で向き合う支援者との連携により相乗効果を生む可能性があるが挙げられると言います。

「人には、現実で接点がないからこそ言える本音もあります。ご近所さんではない“ナナメの関係”だからこそ、発見できる課題やニーズがあるとも実感しています。誰にも言えなかった悩みを相談してくれる家庭も少なくなく、それをきっかけにリアルの支援者につなげられるケースもあります。」(阿久津)

とはいえ、オンライン支援にはオンラインゆえの限界も。気軽につながれる一方で、いざという時でも、子どもたちに直接会うことはできません。オンライン上のコミュニケーションで得られる情報だけでは足りず、子どもの様子の見立てに限界を感じる場面もあります。

「せっかく家庭のニーズや課題を発見できても、オンラインだけではその全てに対応することが難しいこともあります。だからこそ、オンラインとオフラインが有機的に連携することの意味があると考えています。今後も、子どもと対面で向き合う支援者の皆さんと手を取り合い、個々のケースに根気よく取り組んでいきたいです」(阿久津)

room-Kを導入した自治体担当者が語る
オンライン不登校支援のポイントと可能性

イベントの後半では、実際に連携いただいている埼玉県入間市学校教育課の小椋良太氏と、愛知県春日井市教育委員会事務局の仲野高弘氏をゲストに迎え、メタバースを活用した不登校支援のポイントや可能性について考えました。

最初に萬代が、自治体連携の様子を紹介しました。

「room-Kの案内をスタートする前に、不登校の子どもやご家庭への継続的な支援のための連携体制について、自治体と協議します。そのうえで、room-Kが適していると思われる家庭に対して自治体や学校、教育支援センターなどの子どもと対面で向き合う支援者からroom-Kを紹介し我々につないでいただくことで個別支援がスタートします。

支援開始後に見えてくる課題もあり、関係者ととともにより良い支援体制のあり方をアップデートし続けています」(萬代)

入間市では、コロナ禍以降、不登校児童生徒数が増加。教育・福祉・保健の連携による0歳から18歳までの切れ目ない支援に取り組む中で、2022年から不登校支援の一環としてroom-Kの実証を開始し、2024年度から正式導入しました。

「2022年のスタート当時は学校や教育委員会など教育関係者への周知や理解を得るために一定の時間がかかり、保護者間の口コミが一人目の利用者につながりました。私も教員なので、そのような気持ちもよくわかるのですが、教育関係者からは『不登校の子が全員オンラインに流れるのでは?』という不安も聞かれました。不安な気持ちに寄り添いつつ、選択肢の一つであると根気強く説明を続けました」(小椋さん)

その後、利用人数の増加や、カタリバスタッフと学校関係者とのコミュニケーションの深まりにより、状況は変わっていきました。

一方の春日井市では、不登校者数の増加傾向を背景に、小中学校内での居場所づくり、教育支援センターの運営など不登校の子どもたちの学びの場を整備。それでも支援の手が届きづらい子どもにアプローチする手段として、2023年度にroom-Kの実証を開始、2024年度に正式導入しました。

「春日井市では、年間の登校日数10日以下の子どもをroom-Kの対象として定め、各学校で対象となる子どもを見立ててもらっています。そのため、最初に先生方への説明会を実施。春日井市教員委員会では2022年よりフリースクールなど学校外での活動を出席認定することを推奨していますが、room-Kもその対象とし、利用促進を図りました」(仲野さん)

ここでの運営で、お二人はオンライン支援にどんなメリットがあると考えているのでしょうか。

「room-Kで家族以外の人と関わったことで『自分は人と話す力があるんだ』と自信を持った子どもが学校復帰につながったときは、オンラインでの支援がオフラインの学びの場につながるステップになるのだと実感しましたね。カタリバから提出された月次報告レポートを読み、『オフラインとは切り離された関係性だからこそ話せることがあるのだと感じた』と話していた教頭先生もいました」(小椋さん)

その言葉を受け、阿久津は支援者同士がつながり合うことにもメリットがあると話します。

「オンラインの支援者だけでは、子どもや家庭の実態をつかみきれない課題を抱えることがあります。複数の支援者が連携することで見立てを深めたり、支援者自身の孤独感や悩みを解消できる可能性があると感じています」(阿久津)

入間市と春日井市が今後取り組みたいのも、まさに「人」にフォーカスしたつながり作りです。

「今後は支援者同士のつながりも意識した体制作りをしていきたいです」(小椋さん)

支援するのは『メタバース』ではなく『人』。空間を用意して終わりではなく、子どもたちが人と、そして社会とつながることを目指して取り組んでいきます」(仲野さん)

イベント最後の質疑応答で初めに問われたのは、子どもが支援につながるために大切にしていることについて。小椋さんと中野さんはともに、積極的に説明の機会を作ることを挙げました。

「広報誌やホームページにただ載せるだけでは不十分。自分の言葉で伝える機会を作らないと伝わらないこともあります」(小椋さん)

「目に留めてもらわないと利用も増えないので、初期は教育委員会から直接、該当する家庭に声をかけました」(仲野さん)

他にも、学校に復帰したケースの具体事例に関する質問も。これには阿久津が「不登校支援は学校復帰だけを目指すものではない」と前置きしつつ回答しました。

「部分登校をしながらroom-Kを併用するケース、しばらく学校とroom-Kを併用したのちにroom-Kを卒業して完全に学校に戻るケースなど、さまざまです。新しいステップを踏み出してからも、本人や保護者が不安を抱えているケースは珍しくないため、必要な限りはサポートを続けます」(阿久津)


「メタバースはあくまでも場所であり、支援するのは人」
「メタバースはあくまでオンライン上の居場所であって、支援の担い手である学校関係者たちが主体である」

最後に自治体のお二方から重要なメッセージを発信いただきました。

またイベント参加者からは、
「不登校の子どもをオンライン支援につなぐことが全てではない。次のステップとしてどこに導くのかも合わせて考える必要がある」
「運営体制と内部の意思統一がどれだけ大事なのか、考えさせられた」
など、メタバースによる不登校支援に対する気づきが多く寄せられました。

学校に通うことに難しさを感じている子どもや相談先を求めているご家庭に、学びとつながりを。カタリバでは、官と民の垣根を越えて子どもたちに必要な支援を届ける活動を続けていきます。

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Writer

有馬 ゆえ ライター

ライター。1978年東京生まれ。大学、大学院では近代国文学を専攻。2007年からコンテンツメーカーで雑誌やウェブメディア、広告などの制作に携わり、2012年に独立。現在は、家族、女性の生き方、ジェンダー、教育、不登校などのテーマで執筆している。人の自我形成と人間関係構築に強い関心がある。妻で母でフェミニストです。

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