「夜間中学」という不登校支援の新しい選択肢。生徒や保護者の声から考える、その可能性
文部科学省の調査によると、小中学校において2023年度に30日以上欠席した長期欠席者数は49万人超(*1)で、昨年に引き続き増加傾向が見られています。
一方で、課題の一つとなっているのが、学校に行きづらさを感じる子どもの行き場所が不足していること。近年、文部科学省や各自治体が対策、支援に力を入れ始めているものの、すべての子どもたちに学びが届いているとは言い難いのが現状です。
こうした背景のもと、カタリバは2024年11月に「不登校支援フォーラム2024」を開催。教育支援センターの運営、メタバースの活用、自治体への提言など、カタリバが2015年から取り組んできた不登校支援の実例から、どうしたらより多くの子どもに支援が行き届くのかについて考えました。
今回は、全3回のイベントから、11月6日に行われたオンラインイベント「不登校支援の新たな選択肢。生徒や保護者の声から知る、夜間中学との協働と可能性」をピックアップ。報道関係者など46名が参加したイベントの様子をレポートします。
*1:令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
長期欠席の児童生徒が全国で49万人超
課題は学校に行きづらい子の居場所不足
カタリバは2022年、文部科学省の実証事業として、夜間中学を活用した不登校生徒の支援を開始。不登校生徒が夜間中学に通うサポート、コーディネート、夜間中学についての広報に取り組んできました。イベント前半では、カタリバ不登校支援事業部の渡邊雄大と内藤沙織が、不登校の実情と実証事業の成果を報告しました。
文部科学省によれば、2023年度学校を30日以上欠席した長期欠席の児童生徒は49万3440人。中でも伸びているのが小学生と中学3年生の不登校の数です。
このことから推測されるのは、不登校が長期化していること、中学校に通わずに形式的に卒業した「形式卒業者」も少なくないこと。現状のままでは、子どもの将来的な社会参加や自立が困難になる可能性、そして進路の選択肢に制約を与える可能性もあるでしょう。
一方で、専門的な支援につながっていない不登校の児童生徒数も増加。その背景の把握が急がれますが、支援が行き届かないがゆえに子どもが学校復帰のきっかけをつかめず、不登校の長期化を招いているのではとも考えられます。
カタリバが不登校支援の実証を行った夜間中学は、戦後の混乱期に、生活困窮などから昼間に学校へ通えない学齢生徒(*2)の義務教育保障から始まりました。
現在は、教育機会確保法により不登校の学齢生徒を本人の希望を尊重した上で受け入れられる場所とされていますが、その実例はごく少数。生徒の構成は、外国籍の人が6割以上、中学を形式的に卒業した形式卒業者が2割というのが実情です。
(*2)義務教育を受けることが適切とされる年齢の子ども。
現在、教育振興基本計画のもとで夜間中学の設置が促進されており、2024年4月時点で全国に53校あります。今後も学校数は増加する見込みですが、生徒の入学数が伸び悩んでいるという課題もあります。
「カタリバでは、夜間中学が不登校生徒の選択肢の一つになれば、不登校、夜間中学の課題がともに解決に近づくのではと考えています」(渡邊)
夜間中学を活用した支援は、大きく分けて2つ。不登校の生徒が夜間中学に通級して学ぶパターンと、不登校等によって義務教育を受けられなかった若年層が夜間中学で学び直すパターンです。
東京都と千葉県松戸市の事例から見る
夜間中学という選択肢の可能性
カタリバでは現在、不登校生徒が教育支援センターのように夜間中学に通級して学ぶ「通級モデル」(以下資料の「C」のパターン)での支援を行っています。まず渡邊は、2022年度に始まった東京都内の夜間中学での実践例を紹介しました。
民間コーディネーターとして関わった本ケースでは、教育委員会、教育支援センター、在籍中学校、夜間中学、生徒・保護者の間にカタリバが立ち、対象となる生徒が夜間中学にスムーズに通級できるよう調整を行いました。
コーディネーターは、生徒本人、保護者とともに個別支援計画を作成し、通級時の指導方針の参考資料として夜間中学の先生方に共有。
「コーディネーターは授業にも一緒に参加して、生徒に伴走します。学校に行っていない期間が長いほど環境への適応に時間がかかるケースが多いため、先生からの指示理解、休み時間の過ごし方、授業準備などについてサポートしました。生徒が慣れてきたら、徐々にサポートする場面を減らしていきました」(渡邊)
夜間中学での様子、出席状況などは、教育委員会を通じて在籍校に報告。夜間中学への通級を出席扱いにするために、教育委員会や在籍校との調整も行いました。
「学び直しだけでなく、給食、初めての定期テスト、学校行事などを通して、さまざまな年齢、国籍の生徒の皆さんとの交流も生まれました」(渡邊)
このケースで夜間中学に通った4人中、3人は20日以上参加。次年度から定期的に在籍中学校に通った生徒、在籍中学校を卒業後に夜間中学に入学した生徒など、全員が次のステップに進みはじめました。
一方、千葉県松戸市での実践例では、コーディネーターは教育委員会の指導主事が務め、カタリバは教育支援センターと連携してサポート役を担いました。
松戸市では、2024年度から夜間中学を不登校支援メニューの一つに位置づけ、起立性調節障害のある生徒を中心に夜間中学への通級を提案。中3の生徒がコーディネーターの伴走のもと8回の体験を行い、6月から正式登録して週2回ほど定期的に通級しています。
「松戸市では不登校支援と夜間中学の担当部署が同じであること、教育支援センターに夜間中学が併設されていることから、各所の連携がスムーズであると感じました。教育支援センターがハブになり、適切な支援につなげやすい環境でもあります」(内藤)
東京都や千葉県松戸市での事例を踏まえ、不登校の生徒が継続的に夜間中学に通級できたのは、ほかの不登校支援機関にはない特徴のおかげだとカタリバでは分析しています。
一つめは、年齢、背景などが多様な生徒たちとアットホームな雰囲気で共同作業ができること。二つ目は、少人数、習熟度別指導のきめ細やかな学びの環境があること。最後に、起立性調節障害のある生徒などにとって通いやすい時間帯であること。つまり夜間中学は、さまざまな個性をもつ人が共存しやすい多様性に富んだ環境なのです。
現在不登校の状態にある生徒が通級するだけでなく、形式卒業者が入学できる場所でもあることから、不登校を経験した若年層の学び直しの選択肢としても期待されます。
「友達ができました」「高校に進学したい」
夜間中学で学び直した生徒の成長
イベント後半は、現在夜間中学に通っているTくんとその保護者、夜間中学の副校長、主幹教諭によるトークセッションです。
小学校から不登校だったTくんが夜間中学を選択することになったきっかけは、カタリバのスタッフから夜間中学での学び直しを提案されたこと。親子で居場所を探してはいたものの、当初はその選択に親子ともども戸惑いがありました。
「夜間中学のことはテレビなどで知っていましたが、ほかの生徒さんのことを考えると、気軽には通わせられないと思いました。不登校の経験から『学校という場所でまた嫌な思いをしたら』とためらう気持ちもありました」(Tくんの保護者)
Tくん自身も最初は通い続ける自信がなかったそう。しかし、何度か見学、体験を繰り返すうち、「夜間中学なら通える。学び直してから高校に進学したい」と考えるようになりました。
「夜間中学で、数学が好きになりました。数学を熱心に教えてくれる先生がいて、やったら褒めてくれるから頑張りたいなと取り組んでいるうちに、得意になったんです」(Tくん)
人生で初めての100点を取ったり、運動会、文化祭などの学校行事を体験したり、生徒会長を務めたりもしました。そんなTくんがもっとも頑張ったと振り返るのが、友達作りです。
「特にクラスの違う人と交流できる体育の授業では、みんなと仲良くなれるようにと意識していました。初めての修学旅行も、自分からゲームをしようと提案したりして、すごく楽しめました。周りは全員外国人でしたが、いい友達ができました」(Tくん)
「卒業後は、高校に行きたい。バイトをして母の手助けをしたい」と語るTくん。そのために現在、高校進学の準備に励んでいます。
「個々のペース、習熟度で学び直しができる夜間中学は、勉強が苦手で不登校になってしまった人にとって、将来に向けた自立の力を育むのに最適。校則が厳しくないため個性を発揮しやすいですし、起立性調節障害などがあれば時間帯も魅力でしょう」(渡邊)
渡邊がコーディネートした中には「実は普通の学校生活を送りたかった」と喜ぶ生徒も少なくないそう。ただし、この選択肢に課題があるのも事実です。
「中学生が通級する場合、授業の時間帯が遅いため、伴走者がいない場合には通級自体にハードルがあります。中学を形式的に卒業した若年層が入学する場合は、夜間中学を挟むことで、同じ年齢の人から高校入学が1、2学年遅れるのがネックかもしれません」(副校長先生)
これからますます不登校生徒を受け入れるため、同校ではチラシを区内の駅に置いたり、区のホームページで紹介してもらったり、副校長会、校長会など区内の中学校管理職が集まる場に赴いて説明したり、区内の中学校の進路指導教諭を訪問したり、認知度を上げようと努めています。
「見学も常に受け付けており、夜間中学がフィットする可能性のある生徒を中学校から紹介してもらったり、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなどの見学を積極的に受け入れたりしています」(副校長先生)
実例は少ないながらも、成果を上げ始めている夜間中学という選択肢。最後に、同じ立場の人へ向けたTくんからのメッセージをご紹介します。
「不登校の人は、教育相談には絶対に行った方がいい。学校が嫌いでも、支援を得て勉強した方がいい。そして、学び直しにはとてつもなく時間が必要なので、親御さんには(子どもを)根気強く支えてあげてほしいです」(Tくん)
カタリバはこれからも、一人でも多くの不登校の子どもと家庭を支援につなげる活動を続けていきます。
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有馬 ゆえ ライター
ライター。1978年東京生まれ。大学、大学院では近代国文学を専攻。2007年からコンテンツメーカーで雑誌やウェブメディア、広告などの制作に携わり、2012年に独立。現在は、家族、女性の生き方、ジェンダー、教育、不登校などのテーマで執筆している。人の自我形成と人間関係構築に強い関心がある。妻で母でフェミニストです。
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