「10代の子どもたちの居場所」が日本全国に広がるためには?スコットランドの事例から考える“コミュニティ”の重要性
10代のための居場所「ユースセンター」を立ち上げたい団体に伴走するユースセンター起業塾ではこの度、事業創造コース1期14団体を対象とした集合研修を開催しました。3年度目となる今回の研修のテーマは「コミュニティギャザリング」。3年間の支援期間終了を見据え、それぞれの団体が独立して居場所づくりを展開しながらも、ユース支援に取り組む団体によるコミュニティを創出していくことでどのようなことを実現していきたいかを語り合いました。
研修内では、スコットランドでユース支援団体間のネットワークを構築する「ユースリンクスコットランド」のティム氏と、そのネットワークに加盟する「ガールガイディング」デニス氏をゲストにオンライン講演を開催。ユース支援のネットワーク構築が進んでいるスコットランドの事例から、日本におけるユース支援に関するコミュニティづくりのヒントを得ることができました。本レポートではその様子の一部をお届けします。
スコットランドのユース支援
〜イギリスの歴史とスコットランドの事情〜
イギリス北部に位置するスコットランド。北海道とほぼ変わらない人口(約544万人)・面積(7.8万km²)を誇るその地には約90万人の若者(10〜24歳)が住んでおり、そのうち、50万人以上が「ユース支援(青少年や若者を対象に、健全な成長や社会参加を支援するための教育的・社会的活動)」を受けていると言われています。15の国家目標のうち3つは子どもや若者の成長に関わるテーマであることからも、ユース支援に対する関心度の高さがうかがえます。
イギリスにおけるユース支援の歴史は古く、1939年の通達(Circular 1486)に遡ります。当時は都市化や産業化に伴う若者の非行や社会不適応、戦時下での混乱や経済的困難に対応するため、若者の健全な発達と社会参加を促進するための支援を拡充する必要がありました。この通達により、イギリスではユースセンターと呼ばれる場所が古くから誕生し、1960年にユース支援のさらなる充実と質の向上を提言する「アルベマール報告」が発表されたことでその動きは加速化しました。
上記の動きの影響を受けながらも、スコットランドではイングランドほどの予算・施設整備が行われなかったことや、地域活動を重視する考え方が根強かったことなどから、ユース支援が「地域に根ざした草の根の活動」として推進された側面があります。1970年代には「コミュニティ教育支援」という新しい枠組みが提唱され、ユース支援は地域全体の教育や福祉を包括的に支援する取り組みとして捉えられるようになったのです。
その後、2013年にはスコットランド政府と民間団体が連携し、ユース支援の国家戦略(National Youth Work Strategy 2014-2019)を策定するまでになりました。現在、スコットランドではユース支援の担い手である「ユースワーカー」も公的な資格になっています(以上、カタリバ調べ)。
ユース支援に必要なリソースを集約するために、
私たちは連携している
ユースリンクスコットランドは多様な団体の声を集約する全国的な機関であり、約5.5万人のボランティアを含むユースワーカーが関わり、38.5万人の若者にサービスを提供してきました。今回講演でお話をしてくださったのは、CEOであるティム氏です。
ティム氏「スコットランドではユース支援の需要が高い一方で、資金や人材の不足が課題となっています。そのため弊団体では、すべての若者が質の高いユースワークにアクセスできるよう、ユース支援に関するネットワークの発展、ユース支援の必要性に関する理解促進、政策提言などを推進しています。ユース支援に関わるトレーニングやデジタル、健康、研究など、様々な専門分野を持つ120団体が自主的に参加しています。特定の分野における専門性を団体内に保有していなくても、多様な団体が協働し、知見を結集することで、ベストなユース支援を届けることができると感じます」
多様なプレイヤーが共に運動を推進していくために、どのような動きを進めたのでしょうか。
ユース支援の成果とスキルを示すフレームワーク
ティム氏「ユース支援の成果とスキルを示すフレームワークを、政府や学校関係者と連携して作成しました。多種の団体が多様なユース支援を実施しているため、それがもたらす成果や必要となるスキルが何なのかを明らかにするために一貫性のあるフレームワークが必要とされたのです。
フレームワークは、若者・ユースワーカー・一般の人々の3つの観点から成り立っており、ユース支援の意義を多方面に伝える上で役に立っています。若者にとっては、自分たちの経験を理解するための指針として、支援団体にとっては多様なプレイヤーが共にユース支援に取り組むための目標として機能しています。さらには一般の人々がユースワークの価値を体系的に理解するためにも役立っており、ユース支援に対する社会からの認識もポジティブに変わりつつあります。」
さまざまな若者の声を集約することが
ユース支援ネットワークの意義
ガールガイディングはユースリンクスコットランドのネットワークに加盟する団体の一つで、若者向けの野外活動や文化・芸術活動を推進しています。日本では「ガールスカウト」として知られるような、世界中に広がる取り組みの一部を担う本団体のCEO、デニス氏にも話を伺いました。
デニス氏「私たちは現在、ユース支援の将来的な課題について大学と連携した共同調査を進めています。これはいずれ政策や資金調達に影響を与えるエビデンスになると考えています」
一団体としても精力的に活動するガールガイディングですが、ユースリンクスコットランドや他の連携団体と協働する背景について、以下のように話しました。
デニス氏「参加団体の活動は多様ですが、ティム氏が示したフレームワークからもわかるように、私たちが若者と関わる上での価値観や生み出している価値には共通点があります。
また、スコットランドでは青少年に特化した省庁がなく、テーマに応じてその担い手が様々な部署に分散しています。様々な部署と折衝していかなければならない状況の中で、ユース支援に関わる団体が連携し多様な若者の声を集約して届けることが、ユース支援の必要性を効果的に伝える有効な手段になっているのです」
ユース支援に関わる団体のネットワーク構築に関しては、参加者からも質問が投げかけられました。
参加者「共通言語のない多様な人々がネットワークに参画する中で、フレームワークをどのように作ったのでしょうか」
ティム氏「フレームワークづくりは、ボトムアップでの活動でした。最初は数人のユースワーカーが集まって議論を始めたのです。これはその時のメモ書きです。
開発にあたっては様々なステークホルダーが参画することを重視しましたが、それぞれが異なる利害関係や目的を持って参画してきたため、困難な過程でもありました。ユース支援は経済や社会情勢に影響を受けやすく、それによっても何を重視するかが揺れ動きます。そういった状況下でも、ユース支援とは教育的なアプローチを体現していることである、という原則を宣言文やフレームワークに盛り込みました。ネットワークに加入する団体は様々な分野で活動していますが、コアメンバーの資格はその原則を活動に取り入れている人たちにのみ与えられています」
デニス氏「プロセスのなかで共通言語を作っていくことが大事です。なぜユース支援をやっているのか、どんなアウトカムを目指すのか。それらを明確にするために、3年間をかけて議論を重ねました」
日本のユースセンターはどうあるべきか
日本では2023年にこども家庭庁が設置され、居場所づくりも一つのテーマに掲げられています。しかし、公設のユースセンターが存在するのは一部都市に限られており、地方にはほとんどありません。その状況は、ユース支援の予算や施設が潤沢ではなかったスコットランドの状況に重なります。
ユースセンター起業塾は、そんな地方でユースセンターを立ち上げたい起業家を支援するために始まった取り組みでした。起業家の皆さんとともに仮説検証を繰り返すなかで、特に地方においては、活動が地域に根ざした包括的支援となることを求められるという感覚を得ています。それもまた、スコットランドと類似する点のように思います。
起業塾では参加団体らと協力し、ユース支援やユースセンターの価値を明らかにするための調査を始めたところです。最近では、団体同士が協力して研修や白書をつくる動きなども出てきました。まだまだ道半ばではありますが、社会全体でユース支援に取り組むための動きを進めていきたいと考えています。
講演はゲストからのメッセージで締めくくられました。
ティム氏「様々な国で講演をしていると、ユース支援には国を超えて共通点があると感じます。異なる状況にあるように見えるのは、国によって別のステージにいるだけなのではないかと思うのです。今後も一緒に活動を広げていきましょう。応援しています」
デニス氏「日本でもユースセンターに関するネットワークができていることに驚いています。ユースセンターごとに異なる方法やリソースを試しているというのが面白いと感じました。それぞれの団体で行われているベストプラクティスが広がっていくことを願います」
ユースセンター起業塾では、日本全国にユースセンターを広げていく仲間を募集します。思い入れのある地域で10代の子どもたちの居場所を立ち上げたいと考えている方は、ぜひご応募ください。まずは公募説明会へのご参加をお待ちしております!
ユースセンター起業塾 事業創造コース4期 公募説明会の概要
■日時
①2024年12月11日(水)12:00~13:00
②2024年12月12日(木)20:00~21:00
※いずれの日程もご都合が合わない場合は、アーカイブ動画視聴をお申し込みいただくことも可能です。
■参加方法
・オンライン(web会議システム「Zoom」ウェビナー)
■プログラム
・事業趣旨・公募要領に関する説明、質疑応答など
▼公募説明会及びアーカイブ動画視聴のお申込みはこちら
https://forms.gle/v5LraQRebWAkV8258
公募の詳細は下記ページからご覧いただけます(公募要領等は12月10日に掲載予定)。
https://www.katariba-kigyojuku.com/course-1
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吉田 愛美 ユースセンター起業塾
1991年福島県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。地元の力になりたいと、転職を経て地元選出の国会議員秘書を勤めた後、2016年1月より現職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当した後に、全国高校生マイプロジェクト事務局にて学校支援や広報を担当。現在は、「ユースセンター起業塾」事業責任者として、10代のための居場所を立ち上げたいという団体や個人を支援している。
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