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子どもの不登校、家庭内暴力…無料チャット相談が保護者の悩みにもたらした変化

vol.345Report

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category #活動レポート

writer 有馬 ゆえ

カタリバでは2021年から、保護者の子育てに関する不安や悩みの相談を受け付ける「カタリバ相談チャット」を運営しています。

カタリバ相談チャットでは、子どもの生活や発達、不登校、経済的困窮、家庭内暴力などの相談に、子どもに関する専門知識を持つ相談員が対応。相談はLINEトークなどで行われ、無料で何度でも利用できます。

では、カタリバ相談チャットに相談を寄せた保護者たちは何に悩み、それは支援によってどのように変化したのでしょうか。約3年間の取り組みから見えてきた保護者たちの状況や、カタリバ相談チャットの課題について、相談チャット事業・責任者の藤井理夫に聞きました。

LINE、電話、Zoomを使い
無料で子育ての相談に対応

カタリバでは2021年から、保護者のための相談窓口、情報室として「カタリバ相談チャット」を運営。カタリバを含むNPOなどによる支援プログラム、奨学金情報、国の支援制度といった情報を届けるほか、子育ての悩み・不安に関する相談に個別で対応しています。

個別相談の方法はLINEトーク、電話、Zoomの3種類で、利用は何度でも無料。LINEトークの場合は相談が集中している場合を除いて中2日以内に相談員が回答する形で、電話、Zoomは事前に日時を決めて面談が行われます。

LINEトークによる相談のイメージ

相談員は、子育て経験があり、かつ教員経験者、心理・福祉系の有資格者、行政相談の経験者など子ども支援に関する専門性を持っているメンバーたち。1人の利用者に1人の相談員がつく担当制で相談に応じ、必要に応じて民間団体による支援や居場所の紹介、地域の行政窓口や教育・福祉の相談窓口、法テラスの利用案内など、適した窓口を紹介することもあります。

現在、カタリバ相談チャットのLINEアカウントの友達登録者数は2,668名(2024年8月末現在)。相談者数は年間で704人。カタリバ相談チャット事業・責任者の藤井理夫は「寄せられる相談は、不登校を中心とした子育ての悩み相談と、虐待や家庭内暴力といった緊急度の高い相談の2つに大別できる」と言います。

カタリバ相談チャットのやりとりで
相談者に訪れた気持ちと状況の変化

では、保護者から寄せられた相談にはどんなものがあるのか、具体例を見てみましょう。

1つ目のケースの相談者は、受験生の長男と、不登校から引きこもりになった次男のいるシングルマザー。兄弟間のいざこざのなかで長男の暴言や家庭内暴力がひどくなり、隣人の通報で児童相談所が家に来たこともあったといいます。

「家庭での困りごとのほか、ご自身もシングル家庭で育ったという事情もあり、最初の頃は、子どもたちや社会に対する憤り、周囲への劣等感、これ以上迷惑をかけられない苦しさなど、ネガティブな感情をどこかにぶつけずにはいられないといった様子でした」(藤井)

相談員は、安心して話ができる関係性を築くため、相談者の思いを否定せずに受け止めました。同時に、「相談者さんは家族のご飯を作っているし、仕事にも行っていて頑張っていますよね」などのポジティブなフィードバックも。

「こうしたやりとりを繰り返すうち、相談内容からネガティブな言葉が減り、自分の頑張りを褒めたり、生活の中のいい部分に目を向けられたりする様子が見られるようになりました。少しずつ自己開示もしてくれるようになり、最初は暗かったLINEアイコンの写真も明るい雰囲気に変わりました」(藤井)

家庭内でも、子どもたちに対する厳しい声かけが減ったり、子どもたちのよい面が目に入るように。現在は相談者と子どもたち、特に長男との関係がよくなったそうです。

2つ目のケースの相談者は、いじめと先生への不信感から適応障害、さらに不登校になってしまった子どもを持つ母親。学校を休んで子どもが元気になってきたため第3の居場所を探しているが、自治体が提供する不登校のサポートルームは自宅からの距離などの問題で通所が現実的でなく、地域にフリースクールもないため困っているという相談でした。

藤井は、このケースはお子さんに関する相談から始まったものの、本当に必要だったのは保護者が本音を吐き出せる環境だったのではと考えています。

相談者は、子どものいじめ被害を学校に訴えるも対応してもらえず、教育委員会にかけあって第三者委員会を立ち上げてもらうという大変な経験をしていました。学校で子どもが適応障害になったこともあり、相談者の学校への不信感や憤りは強いものでした。

「この相談者には、そうした感情に折り合いをつける作業が必要だったのだと思います。子育てをしていると、保護者は自分の感情を抑え、なかったことにしがち。しかし、実際にはその感情はあったものですから、きちんと味わって消化する作業が必要なのです」(藤井)

徐々に相談者の気持ちが落ち着きを見せた頃、相談者の住む地域の団体が週に一度、第3の居場所を開くようになるなど、環境的な変化も。相談内容にも前向きな発言が見られるようになっていきました。

安心感を持って話せる場を作るには?
運営や相談者への関わり方の工夫

カタリバ相談チャットの利用者アンケートでは、約9割が「相談に満足した」、8割以上が「利用後は孤独感が減少した」と回答しています。相談者に前向きな変化をもたらすため、運営するうえでどのような工夫をしているのでしょうか。

長期支援を目指しているため、数カ月、中には1~2年にわたって相談関係が継続していることが一番大きなポイントだと思っています。長期的な関係を築くために、こちらから会話を閉じず、いつでも話を聞く姿勢を大切にしています。」(藤井)

相談者に対しては、安心感を持って話したいことを話してもらえるような関わり方を心がけています。

「『話を聞いてもらえている』と実感してもらうため、相談者の言葉を否定せず受け止め、LINEチャットでは相談者から送られてきた内容の2割増しぐらいの量のメッセージを返しています。『死にたい』など極端な言葉でSOSを出してくる場合でも、『死にたいほど苦しいお気持ちなんですね。どんなことがあったのか、差し支えなければお聞かせいただけますか?』など、何があっても聞くというサインを出します」(藤井)

相談チャット事業・責任者の藤井理夫

LINEチャットでは文章のみのやりとりなので、相手のバックグラウンドが読み取りにくい場合もあります。それでも、できるだけ書いてあるままを捉え、あまり想像はしないようにすると藤井は話します。

「相談者が話したい事柄とは限らないため、相談員は余計な質問をしないようにもしています。相談員に必要なのは、問題の渦中にいて自分の状況をつかみづらくなっている相談者に、客観的な立場から見える姿を伝えること。自分という存在を消し、相談者の合わせ鏡であろうと意識するのが大事です」(藤井)

相手が触れてほしくない話題を避けるためには、相談者が「意図的に触れなかったこと」「質問したけれどスルーしたこと」がヒントになるそう。

「相談員に不登校の子どもがいるなど当事者性が強い相談内容を担当する場合には、無意識に相談員自身の話をしてしまいがち。それが相談者に劣等感を抱かせてしまう場合もありますから、相談員には当事者性に引っ張られないよう気をつけてもらっています」(藤井)

保護者からの相談を分析し
社会課題の掘り起こしにつなげたい

2021年から3年間の運営の中で、わかったことが2つあると藤井は語ります。1点目は、相談チャットで見せる顔と他の場所で見せる顔は、違う場合もあるということ。

「2つ目のケースの相談がいったん終了した後、偶然にカタリバスタッフが、相談者の方と直接話す機会がありました。スタッフはそのとき、相談者の方が不登校支援の団体を立ち上げ、ほかの保護者さんたちの力になっている話を聞き、情熱的でアクティブな人だと感じたといいます」(藤井)

しかしその印象は、行政や学校に対して憤り、困りごとや不安に疲弊している相談チャットで見せる姿とは対照的なものでした。

「人は、社会に溶け込んで見えても吐き出せていない深い悩みを持っていることもある、ということなのでしょう。人間は社会的な生き物で、母親、父親、妻、夫、保護者といったロール(役割)を持っているもの。ママ友など保護者同士でも、立場や環境が違えば共感や理解を得られなかったりもします。相談チャットは、相談者がロールから解き放たれて自分の内面を吐露できる場所になっているのだと思います」(藤井)

2点目は、相談を寄せてくる保護者の多くが「悩みを解決して前に進みたい」と考えているということ。事実、カタリバ相談チャットの利用者アンケートでも、多くが「アドバイスが欲しい」「悩みについて一緒に考えて欲しい」という目的でアクセスしてくるとわかっています。

「日々沸き起こる小さな不安は、誰かに話すわけにはいかないもの。ただ、不安や心配は、自分の子どもの可能性や成長を信じる力を弱めてしまう。カタリバ相談チャットで不安や心配を降ろしてもらい、その力を取り戻してほしいと思っています」(藤井)

即時返信の類似サービスとは異なり、子育てにじっくり伴走することを目的とするカタリバ相談チャット。これからも目指すのは、数より質を重んじた丁寧な運営です。最後に藤井は、今後の抱負について語りました。

「目の前の相談への丁寧な対応に加えて、保護者から寄せられる相談内容を分析して社会が抱える課題を見つけて発信・提言することや、相談者の状況に応じた相談員の関わり方を整理して、より的確な対応につなげていくことにチャレンジしたいですね」(藤井)

困っている子どもと保護者を、誰一人取り残さないために。カタリバではこれからも、ときどきの困りごとに目をこらし、社会課題の発見と解決に取り組んでいきます。

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Writer

有馬 ゆえ ライター

ライター。1978年東京生まれ。大学、大学院では近代国文学を専攻。2007年からコンテンツメーカーで雑誌やウェブメディア、広告などの制作に携わり、2012年に独立。現在は、家族、女性の生き方、ジェンダー、教育、不登校などのテーマで執筆している。人の自我形成と人間関係構築に強い関心がある。妻で母でフェミニストです。

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