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子どもたちが直面する「長期休みの体験格差」への取り組み。企業との協働で実施した、特別体験プログラムレポート

vol.344Report

カタリバでは2020年から、家庭環境や育つ地域による教育格差を埋めるオンライン支援プログラム「キッカケプログラム」を実施しています。活動の一環としてこれまでも民間企業と連携し、キッカケプログラムを利用する子どもたちに体験機会を提供するイベントを開催してきました。

背景には、「経済的に困難な家庭では、物価高騰により長期休みに旅行や観光に行ける機会が少ない」「体験や学習の機会が限られる」「多様な大人と関わる機会が少なくロールモデルを見つけるのが難しい」といった課題があります。

本活動レポートでは、2024年8月に開催したイベント当日の様子や子どもたちの反応・変化、さらに見えてきた課題と今後の展望について、キッカケプログラムの担当者(戸田奈央子・以下 戸田と、渡辺隼斗・以下 渡辺)のコメントとともにお伝えします。

興味関心のあることを見つけ、
深める体験機会が不足している

カタリバがキッカケプログラム利用者に行った調査で、経済的に困難な家庭では、夏休みのお出かけ予定が「ない」と回答した人が約7割にのぼりました。

調査データ詳細:【調査レポート】経済的に困難な家庭の約7割「物価上昇で夏休みのお出かけ機会が減った」

戸田は「経済的な困難を抱える家庭の子どもたちは、そうでない子どもたちに比べて、学びや体験の機会が不足していると感じています」と語ります。

そして、子どもたちの学びと体験には2つのフェーズがあると指摘します。1つ目は、そもそも興味関心を顕在化させるための体験と機会。2つ目は、興味関心のあることを学びに発展させていく機会です。

1つ目の機会が不足していると感じるケースについて、渡辺は、自宅周辺にお店も何もなく図書館にも車でないと行けない地域に住んでいるものの、保護者も送迎は難しい家庭のケースを挙げながら「そのような環境に暮らしている子どもは、興味関心を持てる何かと出合うための機会が非常に限られていると感じます」と話します。

このようなケースの場合、保護者から「興味関心のあることを見つけられる機会に子どもをつなげてほしい」という相談が寄せられることも。また、保護者自身も体験機会が少ない環境で育った場合、体験を得ることが子どもにどのような影響をもたらすのか想像しにくいこともあると言います。

渡辺:「興味関心のあることを学びに発展させていく機会が少ないケースでは、周囲の大人から理解を得られず、一歩を踏み出せずにいる子どももいます。大学進学や英検の受験など、さまざまな勉強をしてみたいと高い意欲のある子どもがいても、周囲の大人がそういった経験をしたことがないために、否定されてしまったり、具体的なアクションを提示してもらえなかったりして、子どもが興味を深められずにいる現状もあります」

このように、子どもたちの「やってみたい」という気持ちを受け止め、具体的な行動に移せるよう後押ししてくれる大人の不在や、ロールモデルがいないことで、興味関心を学びに発展させられずにいる子どもたちがいることが、キッカケプログラムを通して分かってきました。

企業と連携した体験プログラムで、
子どもたちの選択肢を広げる

子どもたちの視野を広げ、興味関心の選択肢を増やし、さらにはその興味関心を深める機会を提供するため、キッカケプログラムでは、企業と連携した体験プログラムを2024年8月、2回にわたって実施しました。

1回目は、英語や海外に興味を持つ中高生向けに、海外経験がある社員や、外国にルーツのある社員によるパネルディスカッションが中心のイベント。子どもたちにとっては、社長が「たくさん恥をかくことで成長できる」という言葉が深く心に刻まれた様子でした。この言葉を受けて質疑応答では積極的に質問が飛び交い、「仕事をする中で文化の違いはあるか」、「海外の人との仕事がうまく進まない時にはどうしているのか」、といった鋭い質問も出ていました。

戸田:「開催前には、なんとなく海外に興味があったり、英語が好きだったりする子どもが多いのかなと思っていましたが、将来、社会に出た時のことを踏まえた質問が出てきたのは印象深かったです」

渡辺:「『海外の人と比較すると、日本人は真面目できっちりしている。それはとても誇らしいことだ』という話も、子どもたちにとっては印象に残ったようでした」

保護者からも「積極的に質問する姿を初めて見た」「一番最初に手を挙げて質問した我が子が誇らしい」といった感想が聞かれ、このイベントが子どもたちにとって刺激になった様子でした。

2回目のプログラムは、プログラミングに興味のある小中学生を対象に、企業内のエンジニア社員がマンツーマンでプログラミングを教えるワークショップ。子どもたちは保護者がすぐそばで見守る中、社員のサポートを受けながらゲームを作り、プログラミングの基礎を学びました。ワークショップ後のオフィスツアーでは、グローバルに事業を展開する企業ならではのオフィス環境を体験しました。

渡辺:「オフィスに、国ごとに時間が異なる時計が4つもあったり、海外スタッフが多く、社員が英語で会話していたりする様子を見られたのは、子どもたちにとって新鮮な体験だったようです。

また、子どもと2人で出かけて非日常を体験する機会を作りづらい保護者にとって、普段見られない子どもの生き生きとした姿は、その子の将来に思いをはせるきっかけになったようでした。保護者が社員の方と話す機会もあり、新たな気づきも得られたのだと思います」

今回は、地方に暮らす子どもたちにも体験機会を届けたいとの考えから、交通費を全額支給しました。そのため両イベントで半数以上の参加者が、地方から新幹線や飛行機に乗って参加しました。東京に来ること自体が初めての子どももいて、多くの子どもたちにとって、東京駅をはじめとする大都会の風景が刺激的でもあったようです。「東京で働いてみたいと思った」といった感想も寄せられました。

「英語で話しかけに行けた」
子どもたちの変化、
そして周りの大人にできること

今回のイベントに参加した子どもたちからは、選択肢が増えた、視野が広がった、将来のビジョンが明確になったなどの声が寄せられており、前向きな変化が見られている子どももいます。

戸田:これまで家庭の事情で『諦める』ことが多かった子どもが、「自分にもそのような選択肢があるんだ」「いろんなことをやってみてもよいんだ」と気づき、新たなアクションを考え始めていました。このように、自分の将来に期待感を持てるようになったり、アクションを考えられるようになったりする、大きなきっかけになったと思います」

渡辺:「ある保護者からはイベント参加後に見られた子どもの変化として、学校で海外の生徒が来て交流する機会があった際に『以前は海外の生徒にしゃべりかけられなかったけど、今年は自分から英語で話しかけに行けた』と、帰宅後に嬉しそうに話してくれた、と連絡がありました。イベントを通じて一歩踏み出す勇気を得られたのだと感じています

他にも、ロールモデルに出会えたと感想を寄せていた子どももいました。第一線で活躍されている各企業の社員の方と話すことができ、選択肢や視野を広げられる機会となったのは大きな価値だったのではないかと考えています。

一方で今回の取り組みを通して、解決すべき課題も見えてきました。

1つは、イベントを通して選択肢が広がったり、ビジョンが明確になったりした子どもに対し、さらなる学びや挑戦をサポートするための機会が少ないということ。例えば、プログラミングが楽しいと思った子どもに対し、プログラミングをより深く学んでいく機会をどのように提供していくか——特に地方では保護者の送迎なしには実現が難しいケースもありますし、金銭面が課題となる場合もあります。

また、そもそも興味関心があるものに出合えていない子どもたちに対し、どのように子どもたちの視野や興味関心を広げ、参加を促していくかという点も、引き続き課題です。今回は、東京へ行けることが、子どもたちの興味関心を惹きつけることにもなり、参加につながったケースもあります。機会への参加を促す仕掛けをどれだけ増やせるか、また、学びやイベント自体の種類や数もどのように増やしていくかという点も課題です。

渡辺:「ただ、地方でも子ども向けに新たな体験を促すイベントなどは、意外と用意されています。しかし、一緒に行こうよと誘ってくれる大人やお兄さんお姉さんがいないために、参加につながっていない子どももいるのではないでしょうか。

反対に、信頼できたり一緒に楽しんでくれたりする大人がいれば『ちょっと行ってみようかな』と、自発的に動こうとする意欲が少しは芽生えるのではないかと思います。やはり、子どもたちが暮らす地域に、子どもたちを承認して受け止め、子どもたちが信頼できる大人が増えることが最初の重要なステップだと思います

今回の体験イベントは小学生も対象だったため保護者同伴を必須にしていました。しかし、仕事などの理由で同伴できない保護者も大勢います。「一番の理想は、私たちが地域の方々を巻き込みながら、子どもたちの体験につながる機会を創出していくこと。そうすればどの地域に暮らしている子どもにも体験の機会を届けられます。ですから、私たちがいかに地域に入り込んでいくかという点も大きな課題です」と戸田は語りました。

学びや新しい体験に意欲的ではない子どもたちに、まずはオンラインを通してきっかけを届けていくこと。そして地方で暮らす場合の地理的な制限を解決するために、地域の方々を巻き込み、子どもたちが日常の中で参加できる体験をいかに増やしていくか。この2点を中心に、今後も課題に向き合い解決策を考えていきたいと思います。

※プライバシーに配慮し、写真の一部を加工しています。

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Writer

北森 悦 ライター

2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。

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