学校の枠を超え、探究学習を深める。オンラインでつなぐ「放課後マイプロゼミ」の試み
総合的な探究の時間における小規模校の生徒同士の学び合いや教員間の交流の場をつくるために、カタリバでは2021年度より「学校横断型探究プロジェクト」を始動。生徒や教員がオンラインでつながりながら、それぞれの探究学習を深めるサポートをしてきました。4年目を迎える今年度は、参加校は32校に拡大。離島の高校も加わるなど、顔ぶれはより一層多様になっています。
今年度、新たに開講したのが「放課後マイプロゼミ」。授業の枠を超えて探究学習に取り組みたい有志の高校生(学校横断型探究プロジェクト参加校の生徒)を対象に、1学期に全5回、実施しました。今回の記事では、その様子についてご紹介します。
なお、参加した生徒や先生から好評だったことなどを受け、2学期からは全国の高校生が参加可能なオープン・プログラムにリニューアルすることが決定しています。詳細は本記事の最後にお伝えします。
探究の進捗に関係なく、
安心して参加できるゼミに
「放課後マイプロゼミ」が立ち上がった経緯・背景について、本ゼミを担当するカタリバ・中川玄は次のように語ります。
中川:「『学校横断型探究プロジェクト』ではこれまで、近いテーマの生徒同士をつないだり、大学生や社会人のサポーターが生徒に伴走したりと、学校という枠を超えて学び合いの場をつくってきました。ただし、総合的な探究の時間などの授業時間を使った取り組みだったため、一部の先生方からは『参加したいが、カリキュラムや時間の関係で難しい』という声をいただいていました。
学校横断型探究プロジェクトに参加する生徒
加えて、『放課後なら参加できるかも』という声があったことから、放課後の自由参加プログラムとして試験的に1学期間やってみよう、企画段階から先生方に入っていただこうということになり、岩手県立大槌高等学校、三重県立飯南高等学校及び宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校の先生・コーディネーターの方々と意見を出し合いながら構成を考えていきました。」
大事にしたのは、探究のテーマが決まっている生徒もそうでない生徒も、進捗に関係なく参加できるプログラムにすることでした。
放課後マイプロゼミを担当する、カタリバ中川
中川:「誰かに相談したり、誰かの話を聞いたりするなかで、テーマが決まっていない生徒はテーマが見つかる、行き詰まっている生徒は前に進めるヒントが見つかる、そんな場にしたいというのが大前提としてありました。また、自分が思ったことを素直に言える、率直に意見交換ができる、安心・安全な場づくりも意識しました。」
テーマを決め、
ファースト・アクションを起こしてみる
こうして考案したプログラムは全5回。2週間に1回、放課後の時間帯(16:30〜17:50)に行いました。毎回、15名前後の生徒が参加し、カタリバのスタッフやサポーター(主に大学生)が伴走しました。
中川:「前半の第1〜3回は、高校時代にマイプロに取り組んだ大学生の講話や参加者同士のグループワークを通して、テーマや問いの立て方を学んだり、自分が何をやりたいのかを整理したりして、3回目の最後には具体的なファースト・アクションプランを考えました。そして、後半の第4〜5回は、アクションを起こすまでの具体的なプロセスの相談や、実際にアクションを起こしてみてどうだったかという振り返りを行いました。
「探究テーマの決め方」に関する大学生によるプレゼンテーション
生徒3人に対して1人のスタッフやサポーターが付き、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って個別に相談ができるようにしていました。また、Class CloudやMetalifeといったツールも使い、参加者同士がコメントを送り合ったりメタバース上で交流したりできるようにもしました。」
【参加者のテーマ例】
・所属している部活・サークル(畑部・應援團)に興味を持ってもらうには?
・茶道をすることの心理的効果とは?
・働くことについて、今の高校生は保護者とどのくらいコミュニケーションをとっているのか?
・宇宙はどのように誕生したのか?
・地域の幅広い世代の人と交流したい!
・海洋プラスチックゴミを減らしたい
・過去のプロ野球のスコアを覚える
ゼミに参加し、世界が広がる。
大学生との交流もプラスに
企画から携わった教員の一人、三重県立飯南高校の多賀秀徳先生は、参加の経緯についてこう振り返ります。
多賀先生:「本校では、『いいなんゼミ』(現在は、総合的な探究の時間)に20年以上取り組み、自分の興味・関心を進路や自己のあり方・生き方につなげることを大事にしてきました。一定の成果を上げてきた一方で、自分の興味・関心事について調べただけで終わってしまいがち、一歩を踏み出すのに時間がかかる……といった課題も。そうしたなか、学校横断型探究プロジェクトにお誘いいただき興味をもちました。
探究学習に前向きな生徒や熱心な教員が多い学校が参加していて、うちも参加して刺激を受けたりヒントをもらったりできたらいいな、生徒の心に火がつけばいいなと思っていたものの、日程が合わずに当初は参加を断念していました。それが今回、放課後に開講するということで、ぜひうちの生徒にも参加してほしいと考え、数名に声をかけました。」
多賀先生の呼びかけに応じて、飯南高校からは3名の生徒が参加しました。「想定外の部分も含めて、三人三様に変化があった」と多賀先生は振り返ります。
三重県立飯南高校の多賀秀徳先生
多賀先生:「蓋を開けてみたら、こちらが思っていたのとは違うテーマを選んだ生徒もいて、驚くと同時に、想定通りにはいかない面白さを感じましたね。一番印象的だったのは、『宇宙』をテーマにした生徒。人とコミュニケーションを取るのが得意ではない生徒だったんですが、他の生徒の発言に積極的にコメントを返していて、そういうことができるんだと意外な一面を見ました。感想にも『(他の生徒が)自分の話に興味をもってくれてうれしかった』『自分では思いつかなかった考えを知れて、自分の考えがまとまっていくのが楽しかった』と書いてくれていて、ゼミに参加したことで彼の世界が広がったようで、うれしく思いました。
また、生徒にとって歳の近い大学生の話が聞けるのもよかったですね。普段の授業では、社会人の方の話を聞く機会は意識的に設けているのですが、うちは近隣に大学がないので、大学生との交流は難しいんです。」
集え、高校生!今秋からは、
全国の高校生が参加可能に
学校横断型探究プロジェクト参加校の生徒を対象にスタートした「放課後マイプロゼミ」ですが、2学期からは対象を広げ、全国の高校生が参加可能になります。なかでも、探究学習を進めるうえでの人的リソースや出会いの機会が不足している「地方在住の高校生に場を提供したい」と中川は訴えます。
中川:「これまでは『カタリバオンライン for Teens』というオンラインプラットフォームで複数のプログラムを提供してきましたが、開講時間が20時以降ということもあり、探究したいことが明確にない生徒には、ややハードルの高いものになっていました。探究のテーマが決まらない、探究をどう進めたらいいかわからない、探究に意味が見いだせない……というモヤモヤした状態の生徒も気軽に参加できるプログラムへのニーズを感じており、今回、『放課後マイプロゼミ』として誰でも参加できるプログラムを提供することになりました。
スタッフ、他校の高校生とのグループワークの中で、探究テーマやアクションプランを考えていく
もちろん、他の学校の生徒とつながりたい、意見・情報交換がしたい、大学生からのアドバイスが欲しいなど、参加のきっかけや目的はいろいろあっていいと思っていますし、都市部の高校生もウェルカムです!」
飯南高校の多賀先生も、こう続けます。
多賀先生:「今回、本校から参加した生徒たちは1年次生なのですが、『これからも参加したい』と言ってくれています。他校の生徒から肯定してもらえたり、一歩踏み込んでアクションを起こしたりすることで、『自分がやりたいことって、やっていいんだ』と思える。この気づきは、2年次以降の学びや3年次の『いいなんゼミ』、さらには進路選択にもつながると期待しています。」
リフレクションを強化し、
探究を意味ある活動にする
具体的なゼミの内容は目下検討中ですが、1学期の放課後マイプロゼミをベースに、「2学期はリフレクションをより強化したい」と中川は言います。
中川:「アクションを起こす前と起こした後で、自分の気持ちや考え・見方がどう変わったかを深掘りする、振り返りの機会を増やしたいと考えています。ただアクションをするだけで終わらせず、自分の探究を意味のある活動にしていくことが大事だと思うんです。生徒によって状況が異なるなか、それぞれがネクスト・アクションを見出せるよう伴走するプログラムにしたいと考えていますので、『もうひと押ししたら伸びそう』『少し違う角度から刺激を与えたい』という生徒を、ぜひ送り出していただければと思います。」
2学期の放課後マイプロゼミは、10月開講予定ですので、以下の概要・申込方法をぜひ、ご確認ください。
「放課後マイプロゼミ(2024年秋クラス)」
開催概要・申込方法
■内容
マイプロジェクトに取り組む高校生がオンラインで集まり、他校の生徒や大学生・スタッフに相談しながら、アクションをより具体化していきます。
■開催日程
10/9、10/23、11/6、11/20、12/4
※全5回のプログラムとなります
■開催時間:16:30~17:50 ※16:15開室
■参加方法:オンライン(Zoom)
■申込方法
参加を希望する生徒ご本人が、以下のURLよりお申込みください。
https://katariba-teens.online/mypro2410/
また、学校横断型探究プロジェクトでは、小規模高校の先生方を対象としたオンライン説明会を9月~11月に実施します。9月以降、生徒が探究を進める上で必要となるノウハウ・リソース不足でお悩みの先生方が活用できる、探究を前に進めていく様々なサポートをご提供しています。ご関心のある方、まずは話を聞いてみたい方もお気軽に申込ください。
「学校横断型探究プロジェクト」
参加校募集説明会 日程・申込方法
■説明会日程
・9月5日 (木)17:30~18:30
・9月11日(水)17:30~18:30
・9月17日(火)17:30~18:30
※10月以降は日程を順次追加します
■説明会詳細
https://www.katariba.or.jp/event/45485/
■申込方法
以下のURLよりお申込みください。
https://forms.gle/g54ou3FED8DPFdQE7
笹原 風花 ライター・編集者
ライター・編集者。奈良県出身、東京在住。第2の故郷はオランダ・ライデン。高校生向けの大学受験情報誌の編集部に4年間勤めたのち、制作会社勤務を経て2014年に独立。取材・執筆分野は教育や学びを中心に多岐にわたり、企業の社内報や広告制作などにも携わる。
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