「不登校傾向」が5年間で8万人増。カタリバ独自調査と支援現場の声で考える不登校の課題とこれから
2023年10月、文部科学省が「日本の小中学校における不登校の児童生徒を含む長期欠席者の数は約46万人(うち不登校児童生徒は約30万人)」とのデータを発表。これを受けて11月、カタリバでは不登校傾向の当事者を含めた子どもと保護者2万5953人を対象に実態調査を実施しました。
12月11日には、オンラインイベント「不登校支援最前線ラウンドテーブル2023」を開催。調査結果を報告するとともに、学校教員やスクールカウンセラー、教育支援センター職員を交えて不登校の現場における課題やこれからについて考えました。テレビや新聞など報道関係者約23名が参加したイベントの様子をレポートします。
不登校、不登校傾向が全国で増加
「形だけ登校」の存在も明らかに
2023年10月、文部科学省が発表した「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、小中学校における不登校の児童生徒数は29万9048人で過去最多。病気などによる長期欠席者を含むと、46万648人(全体の約5%)の小中学生が年度内に30日以上、学校に行っていないと明らかになりました。
他方で同調査からは、コロナ禍以降、自宅におけるICTを活用した学習の出席認定が増加しているというよい傾向も見られました。
カタリバでは11月、数字に表れにくい不登校の現状を知るため、不登校傾向の当事者を含めた全国の中学生5953人と保護者2万人を対象に実態調査を実施しました。中学生には2018年に日本財団が実施した「不登校傾向にある子どもの実態調査」とほぼ同じ設計で調査を実施し2018年時点と現状を比較するとともに、保護者には子どもと家庭の現状について調査。イベント前半では、実態調査の結果をカタリバ代表理事の今村久美が報告しました。
「今回の実態調査では、中学生のうち部分登校や教室外登校など『不登校傾向』の子どもが13.2%(推計41万9097人)いることが判明しました。不登校傾向の中学生の数を5年前と比較すると、推計8万人増加。今や、中学生の5人に1人が不登校、あるいは不登校傾向にあります」(今村)
また今回の実態調査では、毎日学校には行くものの「学校に行きたくない」「学校がつらい、嫌だ」と思いながら登校している子ども(イベントでは便宜上「形だけ登校」と呼ぶ)が、中学生全体の4.4%いるとわかりました。
「『あなたにとって学校とはどのようなところですか?』という問いに『行かねばならないところ』と回答した割合は、通常登校の子ども(33.7%)より形だけ登校の子ども(47.5%)に多い。形だけ登校の子どもがより強く『学校に行かねばならない』と感じていることが伺い知れます」(今村)
一方で「(学校が)安心できるところ」と回答した割合は、通常登校が9.1%、形だけ登校が5.4%とともに低い数字。そもそも学校は、子どもに安心できる場所だと認識されていないとも言えるのかもしれません。
「悲しいのは、双方の幸福度の違いに大きな差が出たこと。現在の幸せ度合いについて、通常登校の子どもの73.4%が『幸せである』と回答したのに対し、『形だけ登校』の子どもは39.6%にとどまったのです」(今村)
不登校支援は充実する傾向に。
しかし認知率と利用率には差が
今回の実態調査で、不登校傾向の子どもたちに「学校に行きたくない/行けない要因」を複数回答で調査したところ、1人が約6つほどの理由を選択するという傾向が。ここからは、子どもたちが抱えている課題は複合的なのではないかと推測されます。今村は、「何か一つの要因を探すのではなく、構造を把握していく必要があるのではないでしょうか」と問いかけました。
「近年、スクールカウンセラーの配置や学校内フリースクールの設置、教育支援センターの設置など、国や自治体の不登校支援自体は少しずつ充実してきています。しかし保護者調査からは、それらの支援が知られている一方、利用されていないという実態が見えてきました。利用するのにハードルがあるのであれば、それを促すための工夫がまだ必要なのでしょう」(今村)
保護者に対する実態調査では、子どもの不登校が保護者自身の雇用環境に影響することも明らかになりました。不登校は、心が大病をしたような状態。体の病気と同様、保護者は子どもを放置して仕事に行くことできません。なかには、「離職、退職した」(6.6%)、「雇用形態が変化した」(4.4%)という人も。
また、不登校の子どもを持つ世帯の52.2%と実に半数以上が、収入、障がい、言語、保護者自身の不登校経験など何らかの困難を抱えているという現状も見えてきました。
不登校専任の教員が
子どもと支援とをつなげる鍵に
イベント後半では、今回の実態調査を踏まえ、現場の支援者を交えたトークセッションを実施。大阪府公立小学校教員の梅川尚彦先生、カタリバスタッフ(島根県雲南市「おんせんキャンパス」)で公立学校のスクールカウンセラーでもある西留太郎、同じくカタリバスタッフ(都内の困難を抱える子どもたちのための居場所)で公立学校のスクールカウンセラーでもある渡邊雄大が登壇しました。
最初の話題は、学校外の不登校支援の認知率と利用率の差について。校内の不登校担当者をしていた梅川先生は、当時の苦悩について語りました。
「子どもに教育支援センターを勧めようにも、私自身がそこにどんな人がいて何をしているのか把握し切れていないため、うまく言葉が見つからず苦しみました。手元のパンフレットだけを見せて勧めても子どもに響きませんから」(梅川先生)
現場では、まだまだ教育支援センターの理解度自体は低いそう。多くの学校では不登校担当の教員が配置されていないため、いじめなど他に対応すべき問題がある中で、教員たちが教育支援センターに足を運び、十分なリサーチをするのは難しいと指摘します。
「もし教育支援センターにも行けず、子どもが『また行けなかった』と失敗体験を積んでしまったらと、勧めることにより慎重になっていたところもありました」(梅川先生)
それでは、不登校になった子どもが支援につながるにはどうしたらよいのでしょうか。
「多忙な教員に不登校の対応の研修などをするのは難しく、やはり不登校専任の教員がいるとベター。また、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーは常勤が理想です。週1~2回の勤務では、教員や保護者との関係作りが難しいですから」(梅川先生)
「スクールカウンセラーとしても、不登校専任の先生がいたらありがたいです。管理職の先生が学校全体を詳細に把握することは難しく、担任の先生も日々の業務で多忙です。不登校の子どもの情報を把握している専任の先生がいれば、その方と支援の方向性を検討したり、保護者との間に立って面談予約の調整をしていただいたりできますよね」(渡邊)
次に話題に挙がったのは、形だけ登校の子どもたちについて。西留は「形だけ登校で頑張っている子が、スクールカウンセラーとして一番会いたい子」だと言います。
「ただし『学校がつらい』と訴えることができていない形だけ登校の子たちに、スクールカウンセラーが直接つながるのは困難。不登校担当の先生や養護の先生などがその子の抱えているつらさに気づき、僕たちにつないでいただく必要があります」(西留)
教育だけでなく福祉の視点からも
誰一人取りこぼさない不登校支援を
最後に、報道関係各社との質疑応答が行われました。まず今村に問われたのは、国の政策や自治体の取り組みに対して感じること。
「現在の国の政策や自治体の取り組みは、設置主義、配置主義になっていると感じます。スクールカウンセラーを配置したり、教育支援センターや学びの多様化学校を作ったりしたことで満足していないか、今一度問い直したいところです」(今村)
今村が現在の取り組みに足りないと指摘するのは、「子どもと支援者をコーディネートする」という視点です。
「カタリバが提供するオンライン教育支援センターでは、参加している子どもと居住地域の支援センター職員とをオンライン上でつなぎ、交流を深めてもらった結果、子どもが地域の支援センターを実際に利用するに至ったケースなどもあります。オンライン、オフラインを超えて、学校や支援員同士がつながり合うための工夫が必要なのではないでしょうか」(今村)
オンライン教育支援センター room-K
2つ目の問いは、家庭に対する必要なサポートについて。これには、島根県雲南市で不登校児の保護者と接する機会の多い西留が考えを述べました。
「地方では『学校に行く/行かない』の二つしか選択肢がなく、不登校の子を持つ保護者が孤立しがちだと感じています。周囲に子どもの不登校を打ち明けられず、PTAや保護者のコミュニティから次第にフェードアウトしてしまうケースも少なくありません。保護者が孤立してしまわないサポートは、他の地域でも必要なのではと感じます」(西留)
もっとも問題なのは、子どもが不登校になって学校とのつながりをなくすことで、貧困などの課題を抱えた家庭が福祉のセーフティーネットからこぼれ落ちてしまうケースもあること。
「学校は、学びの機会だけでなく福祉的なつながりも得られる場。義務教育との接点は、福祉との接点でもあるのです」(今村)
誰一人取りこぼさない不登校支援を。カタリバではこれからも、不登校の子どもと家庭の声を拾い、支援につなげる活動を続けていきます。
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有馬 ゆえ ライター
ライター。1978年東京生まれ。大学、大学院では近代国文学を専攻。2007年からコンテンツメーカーで雑誌やウェブメディア、広告などの制作に携わり、2012年に独立。現在は、家族、女性の生き方、ジェンダー、教育、不登校などのテーマで執筆している。人の自我形成と人間関係構築に強い関心がある。妻で母でフェミニストです。
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