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外国ルーツの高校生がコーチ(COACH)で1Dayインターン!ファッションを通して “私らしさ” について大人と共に考えた1日

vol.310Report

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category #活動レポート

writer 森田 晴香

カタリバは、両親またはどちらか一方が外国出身である “外国ルーツの子どもたち” を支援する「Rootsプロジェクト」を2019年より始動。これまでの取り組みの中で、違いを認め合う教室づくりは、外国ルーツの若者だけでなく、日本の生徒にとっても意欲や社会参画の意識を高める兆しがみえてきました。

外国ルーツの子どもの中退率は公立高校生全体と比較し5倍、非正規就職率は12倍にものぼるなど、日本でキャリアを重ねていくには高い壁があります。国籍や生い立ちに関係なく日本にいるすべての人に「社会に居場所がある状態をつくる」こと、社会参画が当たり前である未来を目指し、2022年からキャリア支援『Rootsインターン』を開始。

今回は、グローバルファッションブランド「COACH(コーチ)」の社会貢献活動を担う組織「コーチ財団」と連携し、外国ルーツの子どもたちへのプログラムを実施しました。この日のゴールは、異文化下での生活の中でこれまでの自分を否定しがちな外国ルーツの子どもたちが、ファッションを通して社会とつながるきっかけを得ること、そして自己表現していいんだという自信を取り戻すことです。

この記事では、外国ルーツの高校生と企業の大人たちが交流する様子や、体験を通して高校生が感じたこと、そしてコーチのみなさんが得た次世代の視点について紹介します。

自分が自分らしくいるために。
コーチの服やかばんでコーディネート

今回インターンに参加した高校生たちのルーツは、ネパールや中国、アメリカ、エチオピアなど様々。参加した目的も、「デザインに興味があり、デザインが仕事になるとはどういうことなのか知りたいから」「働いているときに何を考えているかを知りたいから」「進路や仕事についてヒントをもち帰りたい」など、一人ひとりいろんな期待を抱いていました。

実は会社にたどり着くまでに、かなり緊張していた高校生たち。普段からイラスト制作やメイクの研究、自分のブランドを立ち上げたくてグッズ制作にチャレンジしている生徒もいます。「母国の景色や経験をデザインにしてみました。プロの人に見てもらいたいけど、否定されたらショックかも……」

そんな不安は、インターン開始と同時にあった、コーチの社員・綿引さんからのオープニングトークでやわらぎます。

綿引さん:「私たちは、多様性が輝きを生むと信じています。コーチでもいろんな国の人が一緒に仕事をしていますが、違う経験をしてきた人が集まっているからこそ、新しいアイデアを生み出すことができる。今日ここにいるみなさんも、年齢・言葉・経験すべて違いますが、間違いはないので、自分が思ったことを自由に伝え合っていきましょう」

その言葉をきいた生徒たちは、まだプログラム開始前にもかかわらず、自分の作品を社員のみなさんに見てもらうなど、積極的な交流がありました。

午前中は “自分らしさを表現するコーディネートを提案する” プログラムに取り組みます。参加者の前には、99人の知らない人の顔写真が。

机の上に並べられた99人の知らない人の顔写真

綿引さん:「99枚の写真の中からひとつだけ、『自分らしく生きている』と感じる人を選んでください。かっこいいなあ、あこがれるなあ、この人と友達になりたいなあという感覚でOKです」

写真をひとつ選んだ後、そこに写っている人の名前や仕事、趣味、どうしてその人が自分らしく生きているように見えるのかについて考え、グループになって紹介し合います。実際に高校生たちからは、こんな話が出ていました。

自分が選んだ写真に写る人について説明する高校生

・名前はイムラン。自分のことを最初はよくわからなかったけど、どんどんわかっていって、強く、かっこよくなっていったように見える。弱い人に優しいと思う
・名前はアンナ。顔を手で覆っていて、写真に写るのが恥ずかしそうに見える。メイクやネイルが好きだと思うから、仕事はメイクアップアーティスト。この写真は友達に撮ってもらったんだと思う

人物像が浮かび上がってきたら、その人に似合う服やかばんをコーディネート。机に並べられた画像の商品は、すべて現在コーチで販売されているものとのこと。
学校へ行く用と遊びに行く用の2パターンのコーディネートを作っている子や、「このハンドバッグには、財布と携帯とメイク用品が入ってる」など、具体的な使い道まで想像を膨らませている子もいました。

コーチの商品画像を切り抜いて、コーディネートする様子

綿引さん:「もし自分自身が、自分らしくいられるためにコーチの商品を身につけるとしたらどれを選びますか?」

ここからはA4用紙を使って個人ワーク。

「自分らしいと感じるときってどういう状態だろう?単純にわくわくする!」「同じ恰好でも、場面や一緒にいる人によって感じることが違う。友だちにはあまり見せないけど、実はこういうテイストも好き」「自分のいつも使っているスカーフをここに合わせられたら素敵なのに……!」など、高校生たちの普段のこだわりや、自分らしさにつながるルーツがどんどんあふれ出てきます。

時間を若干オーバーしながら、自分が自分らしくいるためのコーディネートが完成!お互いに、コーディネートに込めた意図をシェアします。

・体のラインを見せたくないからバギーパンツを、肌を見せたくないからハイネックを選びました
・ひとりで遊ぶときと、友だちと遊ぶときの2パターン作りました。どっちのスタイルも自分らしいと感じます
・普段は学校にしか行かないから、学校に行くときのスタイルを作った。どんなときも(フットワークを軽くしたいから)動きやすい靴を選びました

自分らしくいるためのコーディネートについて発表

高校生たちの発表に対して、コーチのみなさんからはこんなフィードバックがありました。

・個人のバックボーンや大事にしたいもの、好きなもの、日頃どんな風に過ごしているのかがコーディネートから感じ取れました
・普段はバイヤーの仕事をしているので、何をポイントにしているかなどを知って、仕事に活かせそうだと思いました。また、改めてファッションでモチベーションが上がったりするなど、ファッションはエネルギーを秘めているなと思いました
・「仕事のときは……」「デートのときは……」と、シチュエーションを分けて考えている子もいれば、「自分はずっとこのスタイルなんです」と貫いている子も。みんな自分らしさをもっているから、自信をもってほしいです

プログラム開始時は「これで合っているのかな?」と、どこか不安そうだった子たちも、コーチのみなさんの「それいいね!」「こうしたらもっと良くなりそうだよね」というような声掛けによって、さらに心を解放させている様子でした。

「あなたらしく、美しく」
Z世代に響くInstagramの投稿とは

お昼にはみんなでハラルフードを食べ、午後の部がスタート。実は昼食のメニューは、「みんなで楽しめるメニューって何だろう?」と、社員さんが考えてくれました。給食を友人と食べることが叶わなかった高校生からは、「一緒に食べられる!」と満面の笑みが。

お昼にみんなで食べたハラルフード

午後はInstagramにフォーカスして、Generation Z(以下、Gen Z)にとっての魅力的な発信方法についてみんなで考えました。

Gen Zは現在14〜25歳くらいまでなので、まさに今日参加している高校生たちが対象。「自分はどんな投稿だったら見るかな?刺さるかな?」と、それぞれの視点から思いを巡らせている様子でした。

Instagramで投稿をするとしたら、どんな服装で、どんな場所で、どんなポーズで撮るのか。音楽はつける?キャプションは?ハッシュタグは?など、細かいところまで考えて発表。実際に高校生たちからは、こんなアイデアが出てきました。

・服がシャープに見えるようにナナメから写真を撮りたい。場所は川崎のラゾーナ(解放感がある)で、音楽はRAP
・テーマは居心地がいいファッションなので、音楽はピースフルなリラックスできる曲
・人や商品にピントをあわせて、背景はぼかす。僕が服を買うとき、『似合うかな?』と考えるので、着ているイメージが伝わるように、人や商品はしっかり写したいと思ってる

自分が考えたInstagramでの投稿について発表する高校生

特に個性が出ていたのはキャプション。

「他の人が何を自分のファッションについて言ってきたとしても、自分が馴染むものを着るように。自分の人生・未来も他の人ではなく、自分が考えるもの」
「あなたらしく、美しく」
「ファッションは人生の態度の一種類である」

など、それぞれがファッションにどんなイメージを抱いていて、どう表現したいと思っているのかが伝わってきました。

高校生たちが考えたInstagramでの投稿案

また、発表を聞いたコーチのみなさんからは、こんなコメントがありました。

・実際にコーチのInstagramアカウントで投稿してみたいと思いました
・自然体で、カメラを意識しないで撮るという意見もあり、驚きました。Gen Zのセルフブランディングのすごさを知ったし、あんなにキャプションがすぐに出てくるのはすごい
・伝えたいことがたくさんあって、発表時間が1〜2分でおさまらないのが素敵でした。これからも、自分の想いをいろんな場所で伝えていってほしいです

見えている部分がすべてじゃない。
高校生と大人、どちらにとっても刺激的な一日に

インターンシップの最後には、机の上に「My Dream is〇〇」と書いた紙が。高校生だけでなく大人も含め、今日の体験を振り返りながら今の想いを書きます。

紙には、「学習障害や発達障害のある子どもたちを助けたい」「ビジネスで成功したい」「最高の自分になって目標を叶えたい」など、それぞれの “夢” が。

午前と午後の2部にわたって実施された1Dayインターン。インターンシップを終えた高校生たちからとても前向きな言葉があったので、一部ご紹介します。

・コーチの社員さんに質問をしたら、今後の人生の助けになりそうな話をしてくれた。会社に入ったときに、どんなことが大切なのか、よくわかった
・コーチの社員さんたちを見ていたら、私もこんな仕事がしたいと思ったし、みんなやさしくて親切で、こんな環境で仕事がしたいと思った

「会社で働くこと」を身近で感じ、みんな刺激を受けている様子でした。また、高校生だけではなく、大人にも学びや気づきがあったようです。今回参加したタペストリー・ジャパン(※)の社員・小池さんは、インターンを迎えるにあたって抱いていた想いについて語ってくださいました。

※タペストリー・ジャパン:コーチ、ケイト・スペード、スチュアート・ワイツマン ブランドを擁するタペストリー・インクの日本法人

小池さん:「私は日本生まれですが、父の仕事の関係でベルギーとアメリカに合わせて14年ほど住んでいました。そのとき、『日本人って何なんだろう?』とたくさん考えさせられて……。日本や日本人について自分なりに調べ始めると、日本人としての誇りが芽生え、『日本と海外をつなぐ橋渡しのような仕事がしたい』という夢もできました。

幼少期の私のように、自分のルーツについて悩んでいる子に対して自分を探すきっかけを与えられたらいいなと思っているときに、今回のインターンシップと出会いました。コーチ財団としても、自分らしさを表現できるきっかけになるような場をいかに提供できるのか常に考えているので、個人の想いと会社の価値観が交わり、『絶対やるしかない』と決めたのです。

実際に高校生たちと話していると、コミュニケーションが難しいと感じることはまったくなく、すごくエネルギーをもらいました。インターンを終えて、『まだ帰りたくない』『もっとひとり一人のストーリーを聞きたい』と心から思いました」

その他の社員さんからも、こんな素敵なコメントが。

・個人個人のもつ課題を少しだけ感じる事ができました。目に見えていない多様な現実があるのだと実感しました
・会社から参加者に与えるもの以上に、私たちが参加者から様々な刺激を受けることができると実感し、今後の会社内の取り組みに取り入れられることが多くありました

Rootsインターンでは、外国ルーツの高校生たちが日本社会とのつながりを実感するだけでなく、企業のみなさんにも高校生とのかかわりを通してDE&Iを体感してほしいと願っています。

今後も、外国ルーツの若者のキャリア形成における課題に共感し、ともに若者育成を担ってくださる企業と一緒にインターンシッププログラムを実施していきたいと考えていますので、興味をもっていただけた企業の方は、ぜひお声がけください。

▼お問い合わせ
roots@katariba.net

▼「Rootsプロジェクト」公式note
https://note.com/kataribaroots

Writer

森田 晴香 カタリバマガジン編集担当

1992年生まれ、石川県能登半島出身。中央大学を卒業後、新卒でファンコミュニケーションズに入社し、営業・マーケティング・新規事業の立ち上げ・オウンドメディア運営など様々な業務に携わる。社会課題に向き合い、未来をほんの少しでも明るくできればと思いカタリバへ転職。現在は広報チームにて、コーポレートサイト・カタリバマガジン・メルマガ・noteを担当している。

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