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「子どもの居場所」を卒業したらどこへ行く?切れ目ない支援を目指すカタリバの挑戦

vol.294Report

カタリバでは2016年から、10代の子どもたち向けに第3の居場所を開設し、居場所支援に加えて学習支援や体験支援、食事支援などを行ってきました。

そして自身ではどうすることもできない家庭環境などの課題を抱える子どもたちが、泣いたり笑ったり、そのままの自分を受け入れられるように。困難な環境で育つ子どもたちの、貧困の連鎖を断ち切ることも一つの目標として、活動してきました。

7年間の活動を通して見えてきた新たな課題に対し、2022年からは、中高生の地域活動への参加を促す「地域接続」を始めています。本記事では、子どもの居場所を運営する中で見えてきた課題、そして地域接続の成果と意義についてお伝えします。

子どもの居場所を運営する中で見えてきた
2つの「新たな課題」とは?

近年、子どもの居場所の価値に対する関心が社会的に集まっています。
こども家庭庁の「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」では、「全てのこどもが、安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、様々な学びや、社会で生き抜く力を得るための糧となる多様な体験活動や外遊びの機会に接することができ、自己肯定感や自己有用感を高め、幸せな状態(Well-being)で成長し、社会で活躍していけるようにすることが重要である」と明記されました。

また、同庁の「こどもの居場所づくりに関する調査研究」では、「居場所がほしい」と回答した子どものうち、「居場所がない」と回答する子どもが一定数存在しています。

そうした中でカタリバは2016年8月に行政から事業を受託し、困難な環境で育つ子どもたちがそのままの自分を受け入れ、安心して過ごせるように第3の居場所を開設。小学生から高校生までを迎え入れてきました。

カタリバスタッフの原 久美子は、開設から6年が経ち、2つの課題が見えてきたと言います。

原:「1つは、カタリバが運営する居場所を卒業していく子の中には、進学した先の学校をすぐに中退してしまったり、新たな居場所を見つけられず孤立に陥ってしまったりする子がいること。もう1つは、カタリバでできること、支援できる子どもの数には限界があることです。

『子どもたちが第3の居場所にいる間に、少しずつ外の世界と溶け合う時間を作った方が良いのではないか』『中高生を支援する団体が増えれば、支援を必要としている子に、より多くの福祉的支援を届けられるのではないか』そんな想いから、地域接続はスタートしました。

具体的には、地域の活動に参加したい中高生と、活動に参加してもらいたい地域団体をつなぐことで、中高生の居場所が増える。また、中高生が社会に目を向ける機会にもなるのではないかという期待から、始まりました

「外の世界で認められた」
地域で役割を担い、成功した体験が “自信” につながる

中高生と地域団体を接続する全体図

地域接続では、まずはカタリバが運営する施設に通う子の中で、地域活動への参加の意志があるかどうかを確認します。対象は施設以外に居場所がない子、アルバイト経験がなかったり続かなかったりする子、地域活動への参加が挑戦機会になり得る子など様々です。子ども自身から「やりたい」と言う場合もあれば、スタッフから呼びかけをすることも。

地域団体の活動に参加する子が決定した後は、活動先の地域団体との打ち合わせを通して、有償 /無償ボランティアの情報を中高生に提供。中高生は活動して終わりではなく、活動後にカタリバスタッフと面談を行い、活動を振り返る機会を設けることで、意欲的に継続して活動できる状況を目指します。

2022年から地域団体と中高生の接続をトライアルスタートし、現在カタリバの想いに賛同し、中高生たちを受け入れてくださっているのは約10団体。これまでに地域で活動した子の中には、少しずつですが変化が見え始めている子もいます。

原:「ある生徒は教師を目指し、もともとカタリバが運営する施設内で中学生向けの学習伴走を半年ほど行っていました。より多くの子どもたちの学習伴走をしたいという本人の希望があり、区内の中学校での活動が決定。週1回、同校生徒向けの学習伴走を始めたことで、外の社会でもやっていける自信がついたとともに、より多くの人と接したことで、大学進学後に挑戦してみたいことも新たに見つかりました

区内の中学校で学習伴走をする様子

別の生徒は、将来就きたい職業はあるものの自分に自信がなく、また、カタリバが運営する施設への依存度が高く『知らない人の中に入るのは疲れるから嫌だ』と、地域接続に対してはじめは後ろ向きでした。それに対し、カタリバスタッフが本人のためになるということを繰り返し伝えた結果、まずは1度だけ、飲食店での有償ボランティアに参加することに。

お客さんに優しく声をかけていただいたり、そのお店で任されたことをやり切ったりしたことが自信につながったようで、振り返りの際に『次も頑張る!』と前向きになっていました。さらに数回継続したのち、自ら応募しアルバイトも始めたのです。仕事の中での成功体験や、外の社会で認められたことから大きな変化が生まれたケースだったと考えています」

一方、受け入れ先の地域団体からはこのような声をいただきました。

大変な作業でも、大人と仲良く話しながらこなしてくれて、立派な一戦力だった
・当活動で支援している小学生以下の子どもたちは普段、大人のスタッフに囲まれている。でも中高生は年齢の近いお兄さんお姉さんなので、打ち解けると一緒に走り回って遊んでいた
・「区内にこんなに素敵な中高生がいるのか」と嬉しい気持ちになった

中高生一人ひとりが自立し、地域の一員として役割を担っていることがわかります。

目標は大きくなくてもいい。
それを一緒に言語化することが大切

地域で活動することによって生徒自身に前向きな変化が生まれ、また、地域の中でも担える役割が十分にあることがわかった一方で、多くの課題も見えてきたと原は言います。

原:「1つは、カタリバが運営する施設に通っていない中高生を地域に接続することの難しさです。今までは施設に来ている子たちを中心に地域活動への参加を促してきましたが、今後はさらに対象を広げ、施設に来ているかどうかに関わらず、幅広く呼びかけをしていこうと考えています。

ただ、そもそも施設に来ていない中高生との接点が少なく、なかなか地域活動への参加を促すことができませんでした。一方、施設内の生徒は、施設に絶対的安心感を寄せているがゆえに、外へ出ることに強いアレルギーをもっている場合が多いので、いかにして初回の参加につなげるかという点に難しさがあります。

そしてもう1つ課題だと思っているのは、どの中高生にも言えることですが、本人が地域での活動に参加する意味を見出し、納得感がある状態でスタートしなければ、すぐに参加しなくなってしまうということです。『(とりあえず)やってみない?』『やってみます』というような簡素なコミュニケーションだけでは、継続参加にはつながりません」

現在、より多くの中高生とつながるため、高校のボランティア部との連携や、都立高校に設置されているユースソーシャルワーカーから中高生に取り組みを紹介してもらえるよう関係構築を進めています。また、納得感をもって初回の活動に参加してもらうために工夫を凝らしているとのこと。

原:中高生たちが活動に参加するうえで、その子のニーズや想いを一緒に言語化することを大事にしています。ニーズとは、人生の目的など大きなものでなくていいんです。例えば、友達がいないからこういう友達が欲しい。カフェに行ったことがないから行ってみたい。アルバイトがしたいけどいきなりアルバイトに応募するのは怖いから練習したいなど、どんなことでも良い。

まずは外の社会へ一歩踏み出すことが大切だと思っているので、『どうしてアルバイトしたいの?』『踏みとどまっている要因はなに?』と、何度も対話を繰り返し、目標を達成するための手段の一つとして地域接続を提案しています。活動に一度参加してもらうために2ヶ月対話し続けたこともありましたね。その子の立場になって、優しく背中を押してあげることが大切なんだと思います」

中高生への福祉的支援を拡充させ、
貧困の連鎖を断ち切れるように

これまではトライアルとして進めてきたので、地域に送り出した生徒はまだ数名。しかし成果は着実に出てきているため、今後はカタリバが運営する施設内から年間20名ほど、施設外から年間10名ほどの中高生を地域に接続していくことを目標にしています。

原たちが運営する子どもの居場所の基本理念は、困窮世帯に対して切れ目のない支援を社会の仕組みとして作っていき、貧困の連鎖を断ち切ること。そのため、施設を卒業するタイミングで生徒が自立できている状態を作りたいと考えています。地域接続はその状態を作り出すための有効な手段になり得るかもしれません。

また、事業委託元の行政担当者からも「子どもたちが親や家庭の状況に左右されず、自らの力で未来を切り拓いていけるようになるため、私たちにとっても貴重な協創のパートナーと考えている」と、これまでのカタリバの活動に対してお声をいただいています。

中高生への福祉的支援は、全国的に見てもまだ発展途上の分野。地域接続の取り組みが1つのモデルケースとなり、中高生支援に参入する団体が増え、それらの団体と中高生をつなぐ仕組みづくりのヒントになれば……そのために、居場所を安定的に運営していくことはもちろん、カタリバで得たノウハウを他団体や他事業に展開していくことに注力していきます。

Writer

北森 悦 ライター

2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。

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