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ふたば未来学園が、探究の先進校といわれるようになるまでの8年間

vol.291Report

2011年の東日本大震災を機に、福島県双葉郡に5校あった県立高校の伝統や教育内容を受け継ぐかたちで2015年に開校した福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(以下、ふたば未来学園)。「変革者たれ」の建学の精神を体現するべく高校では、自分たちの手で未来をつくりだす「未来創造探究」に開校当初から注力してきました。2017年からはカタリバが探究のコーディネーターとして参画し、先生方と一体となって探究の推進に取り組んでいます。

今や探究が学校の文化となり、高校では各学年で70前後の生徒プロジェクトが進行中のふたば未来学園ですが、「小さな取り組みがジワジワと漢方薬のように効いてきた結果」と同校で学校支援統括コーディネーターを務めるカタリバ・横山和毅は言います。

今回は、2018年に同校に赴任し、現在は企画研究開発部主任を務める林裕文先生とカタリバ・横山にインタビュー。探究をどう進めていいかわからない、教員間に理解が広がらない……といった声が教育現場から寄せられるなか、現在の学校の雰囲気やどのように文化が醸成されてきたのかについて、他校から赴任してきた林先生自身の体験も含めて、語っていただきました。

林 裕文(はやし ひろふみ)/福島県立ふたば未来学園高等学校教諭
1978年福島県生まれ、福島大学教育学部を卒業後、地理歴史・公民科の高校教員となる。教員歴23年目。2018年よりふたば未来学園高校へ異動し、2021年より企画研究開発部の主任となる。同校勤務6年目。高校『世界史探究』教科書(第一学習社)執筆者。
横山 和毅(よこやま まさき)/福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 学校支援統括コーディネーター、コラボ・スクール双葉みらいラボ拠点長
1988年東京都生まれ、神奈川県横浜市育ち。専修大学3年生の時に初めて「カタリ場プログラム」に参加。2011年、新卒で認定NPO法人カタリバに入職。首都圏を中心に全国の中学、高校、大学にて、出張授業「カタリ場」を届ける。2016年よりコラボ・スクール大槌臨学舎へ異動し、運営に従事。2019年からふたば未来学園支援を担当している。

わからないことばかりからのスタート。
1期生の変化で、探究の価値を実感

左から、林先生と横山

──まず、「未来創造探究」のねらいやコンセプトについて教えてください。

林先生:東日本大震災で地震、津波や原発事故といった複合災害にあったという原点から、前例のない状況に立ち向かう、新しい社会をつくる変革者を育てる……という学校としての教育目標があり、未来創造探究はその中心に据えられています。私自身、探究に取り組むなかで改めて実感しているのが、「未来創造」に込められた意味です。

「今ある社会課題をいかに解決するか」ではなく、「自分たちがどういう未来をつくりたいか」を起点に、そこからバックキャスティングして考え行動する。これが本校の未来創造探究であり、生徒にも「成り行きの未来ではなく、こういう未来をつくりたいと描くことが大事」と常々伝えています。

──開校当時の様子を、ご存知の範囲でお聞かせください。

横山:新しい学校をつくるんだという意気込みはあっても当時は「探究」という言葉も馴染みが薄く事例もなく、探究の指導経験が豊富な先生が赴任したわけでもないため、わからないことばかりの状態でのスタートだったと聞いています。当時は震災で傷つき心のケアが必要な生徒もいて、なかなか大変な状況だったと思います。探究について理解が広がった最初のきっかけは、1期生が卒業したこと。探究を頑張ってきた生徒たちが入学時からは想像できないほど成長し、その姿を見た先生方が探究の価値を実感したのだと思います。

──林先生が赴任された開校4年目はどのような状況でしたか? 

林先生:1期生が卒業して、探究のカリキュラムについても1周回ったところ。教員は3年間の見通しを掴み始めた時期だったと思います。1期生の指導を通しての気づきや反省を、2期生、3期生に活かしていこうと、外部との連携強化などに動き出した感じがありました。振り返ると、あの頃から化学反応が起き始めたなと思いますが、まだまだ校内に探究への理解が浸透しているとはいえませんでした。

──林先生ご自身は、赴任時にどのように感じていましたか?

林先生:当時の私は探究に懐疑的だったので、正直、身構えていましたね。以前の勤務校では、総合的な学習の時間は自分一人で設計するしかなく、誰にも相談できなくて苦しかったので……。

小規模なチームでのミーティングで、
「みんなで一緒に考える」を実践

──そこから、どのように探究の文化が醸成されていったのでしょうか?

林先生:赴任当時は、探究を担当する企画研究開発部の教員とそれ以外の教員の間にまだ温度差がありました。そこから、企画研究開発部の教員が探究における学びのステージや生徒の状況に応じた伴走の仕方などをモデルとして仮組みし、それを浸透させる取り組みなどがあり、少しずつ探究への理解が広がっていった感じです。企画研究開発部という組織があったことは、とても大きいと思います。

私自身は、教員によるゼミミーティングがクリエイティブな場になったことで、探究が加速したと感じています。未来創造探究には6つのゼミがあり、生徒はいずれかのゼミに属して自分のプロジェクトを進めます。担任や企画研究開発部以外の教員も、いずれかのゼミを担当します。

赴任2年目に、横山さんと教員2名と私の4名で「メディア・コミュニケーション探究ゼミ」を担当したのですが、そこで週1回ミーティングを行うことにしたのです。行き詰まっている生徒のことを相談したり、アイデアを求めたりして、自分だけで抱えなくていい、みんなで一緒に考えるというのが、すごくありがたく、またうれしくて。それまではゼミによっては生徒任せになってしまっているところもあったのですが、うちのゼミの取り組みが他のゼミにも広がっていきました。

ゼミの方針について議論する先生とカタリバスタッフ

横山:ふたば未来学園では、ゼミミーティング、学年ミーティング、ゼミ横断の月次会など、あらゆる階層で小規模なチームでのミーティングを行っています。先生同士が悩みを吐露する場、議論や対話の場をデザインできているのが、うまく回りだした要因のひとつだと思います。学校は、先生が個業化しやすい職場だといわれています。授業も学級経営も面談も一人で、なかなか他の先生に相談できない。さらに探究は、教科書も単元もなく、特に担当初年度は悩むし戸惑います。だからこそ、こういう場があることは、とても大事だと思います。 

──会議が増えて大変そう……という声が聞こえてきそうですが、そのあたりはいかがでしょうか?

林先生:意見を交わし合える創造的な小さな会議を増やすぶん、伝達・共有が目的の全体会議は減らしていいと思います。会議に時間をとられるのは事実ですが、自分一人でなんとかしないといけないというプレッシャーに比べると、一緒に取り組む仲間がいるので、負担度や疲労度はまったく違います。

横山:ポイントは教員間で対話が生まれるチームを作っていくことだと考えています。会議はあくまでも、チームづくりのためのひとつの手段。教員同士が遠慮なく意見を交わすことができ、挑戦のためにリスクを取ることも許容し合えるチームを、本校では目指しています。

探究に打ち込む先輩の姿が、
生徒の主体性を引き出す

高3の秋に行われる未来創造探究最終発表会には、全校生徒が参加し先輩の発表に耳を傾ける

──先生方の間に当事者意識が芽生えるだけでなく、生徒たちが主体的に探究に取り組むようになった背景には、どのようなきっかけや要因がありますか?

横山:2期生、3期生で探究の質がグッと高まったのは、1期生の姿を見たからだと思います。本校では、未来創造探究の時間を全学年同じ枠にしています。3年生のプロジェクトに2年生が混じる、先輩の発表を聞くといったシーンが日常的にあり、下級生のなかには上級生を見て「自分もあんなふうになりたい」「探究を頑張りたい」と憧れを抱く生徒が増えてきました。このように“探究を学校の文化にしていく”ことが、主体的な探究が生まれ続ける鍵であり、未来創造探究の時間割を全学年で揃えることは、文化にするための仕掛けのひとつになっていたのだと思います。

林先生:生徒が自分の取り組みを振り返る機会も大事にしています。生徒には本校の育てたい生徒像を定義したルーブリックによる自己評価をしてもらっているのですが、やりっぱなしではなく、教員と面談をしてどこが伸びたかなどを一緒に振り返っています。これは最初からやっていたわけではなくて、改善を重ねるなかで始めたことです。

横山:一度、3年間の指導計画を作ったらそれを踏襲しがちですが、本校では毎年改善を続けてきました。定期的に他校に視察に行くなど、私たち自身が学び続けながら未来創造探究をよりよいものにしていこうという気運があります。まずはやってみる、やりながら考える、進める……というのは、生徒も私たちも同じです。

──今後はどのようなことに取り組まれていきたいとお考えですか?

横山:探究でやっている指導法やスタンスを、授業や特別活動といった探究以外のシーンに転用している先生の姿を見て、すごいなと思っています。探究で得たものを教科指導に活かしたり、教科と探究を融合したり、そういう視点や実践が、今後ますます増えていくのではないかと期待しています。また、今年度から文部科学省の「ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コンソーシアム支援構築事業」の事業拠点校に指定されたので、未来創造探究においてはより学術分野との結びつきを強化したいと考えています。

―最後に、現場で奮闘する高校の先生方に向けて、メッセージをお願いします。

林先生:赴任当初は探究に懐疑的だった私ですが、今ではその可能性にワクワクしています。それは、探究に取り組んだことで大きく変わった生徒をたくさん見てきたから。生徒のポテンシャルを引き出すチャンスのひとつなので、ぜひ多くの先生方にも生徒の変化を体験していただきたいと思います。そして、教員一人の力で探究を進めることは不可能です。いろんな先生、いろんな外部の人たちと協力しながら、チームで、仲間と、一緒に取り組んでいただきたいと思います。探究は、苦しいものではなく楽しいものですから!


 

「学ぶことは、何かと出会うこと。人と出会い、その人の考えに触れ、心を動かされる経験って、すごく大事。生徒たちには、出会うために探究をしてほしい」と語ってくれた林先生。「だからこそ、その先に答えがあるかどうか、効率的なやり方かどうかは置いておいて、まずはやってみてほしい。走りながら、考えてほしい」と一歩踏み出すことの大切さを訴える姿が印象的でした。

カタリバは今後も、ふたば未来学園の先生や生徒とともに新しい学びを創っていきます。

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Writer

笹原 風花 ライター・編集者

ライター・編集者。奈良県出身、東京在住。第2の故郷はオランダ・ライデン。高校生向けの大学受験情報誌の編集部に4年間勤めたのち、制作会社勤務を経て2014年に独立。取材・執筆分野は教育や学びを中心に多岐にわたり、企業の社内報や広告制作などにも携わる。

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