「官民連携でのメタバース空間を活用した不登校支援とは?」連携自治体を招いた最前線セミナーレポート
カタリバでは2021年より、様々な理由から学校に行くことができない児童生徒とその家族に対して、メタバース空間を活用したオンライン不登校支援プログラムを届けています。また、自治体など公的セクターと協働することで、一人でも多くの子どもに学びの選択肢を届けることを目的に、自治体との連携も積極的に進めています。
2022年11月9日には、オンライン不登校支援プログラムの取り組みから見えてきたことをもとに、官民連携でのメタバース空間を活用した不登校支援施策の可能性を考えるセミナーをオンラインにて開催。ゲストには、カタリバが連携を進める自治体のなかから埼玉県戸田市教育委員会の戸ヶ﨑教育長と、岐阜県大垣市立東中学校の石橋校長をお招きし、総勢303名が参加するセミナーとなりました。
当日は最新の調査データから読み取れる不登校の子どもたちの現状やカタリバで行っている不登校支援に関する説明、ゲストを交えたトークセッションが行われました。本記事では、それぞれの内容をご紹介します。
増え続ける不登校の子どもたち。4割近くが
公的支援につながることのできていない現状も
文部科学省が2022年10月に公表した調査結果によると(※)、日本の小中学校における不登校の児童生徒をふくむ「長期欠席者」の数が、過去最多である約 41 万人(413,750 人、うち不登校児童生徒は約24万人)に上ることが明らかになりました。さらに、過去数年間は不登校の子どもの数が毎年およそ2万人ずつ増えていましたが、本年度は5万人増と、大きくその数を伸ばしています。
このような状況について、カタリバ代表理事の今村久美(以下、今村)は、「さらに着目すべきは、36.3%の不登校の児童生徒が誰にも相談できずに孤独な状態でいることだ」と話します。
「また文部科学省の調査によれば不登校の要因は、子ども本人の無気力、不安が49.7%と約半数を占めています。しかし、生まれてからずっと無気力の子どもはいません。何らかの環境的な原因の結果、無気力になっているのであって、『不登校の原因が無気力』というのは理由になりません。分析の余地のある調査結果だと感じています。」(今村)
カタリバでは不登校の子どもたちの増加という課題に対して2015年から取り組み始め、今はオンラインとリアルを掛け合わせたアプローチをしています。島根県雲南市から委託を受けて運営している「おんせんキャンパス」では、教育支援センターに訪れる子どもたちを待つだけではなく、スタッフが家庭や学校に訪問し、不登校や不登校傾向にある子どもたちと接点を持つことにも取り組んできました。
「おんせんキャンパスでは、スタッフが継続的な関係性を持ちながら関わっていく中で、7割ほどの子どもを学校に再接続することができました。適切に伴走していくことは、子どもたちが再び社会につながるうえで重要であるという手応えを得ていますが、カタリバだけで支援を広げていくには限界があります。そのため自治体との連携によって、オンライン不登校支援プログラムを子どもたちに届けていくことにチャレンジし始めています。」(今村)
※文部科学省「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
自治体間でリソースを共有し
より多くの不登校の子どもに学びを届ける
今村からの説明に続いて不登校支援プログラムの事業リーダーを務める瀬川から、自治体と連携したオンライン不登校支援プログラムの説明が行われました。
カタリバで2021年から開始したオンライン不登校支援プログラムでは、学校に行くことが難しい児童生徒とその家族を対象に、子どもそれぞれの状況に合わせた個別支援計画の作成や保護者・子どもそれぞれに対する定期的な個別面談、オンライン教材を活用した学習支援など様々な支援を行っています。1つの家庭に対して、「支援コーディネーター」という個別支援計画の作成を担うスタッフと、「メンター」と呼ばれる子どもたちが気兼ねなく話せるお兄さん、お姉さんのような存在の2種類のスタッフが伴走しながら支援に当たっています。
メタバース空間を活用したオンライン不登校支援の様子
「自治体の方々とお話していると、教育支援センターや各学校への別室の用意など不登校の子どもたちへの支援を拡充させようとしているものの、支援リソースの確保に課題を抱えているという声を多く耳にしてきました。カタリバでは、メタバース空間を活用したオンライン不登校支援プログラムを『シェア型のオンライン教育支援センター』と捉え、人材や学びの場といったリソースを自治体を超えて共有することによって、不登校の子どもたちを支援する状態を目指しています。」(瀬川)
シェア型オンライン教育支援センターの概要。「room-K」という名称で自治体への導入を行っている
2022年度は8つの自治体と連携して、不登校の子どもたちにオンラインを活用した学びの場を届けていますが、連携の形は自治体の行う不登校支援の内容に応じて様々です。
「例えば戸田市教育委員会との連携では、カタリバのオンライン不登校支援プログラムを複数ある不登校の子どもたち向けの支援策の一つに位置づけており、主に他の支援機関につながっておらず、家から出ることが難しい子どもたちが利用しています。子どもたちが在籍する学校や教育委員会とは定期的に情報交換の場を持ち、子どもたちの様子や支援状況を密に連携しています。
一方、広島県教育委員会では県独自でリアルとオンラインを併用した教育支援センターを用意し、スタッフも県で確保して支援を行っています 。そのため広島県とカタリバの連携では、子どもたちが県独自の教育支援センターで行われる学習プログラムだけでなくカタリバのオンライン不登校支援プログラムで開催されるプログラムに参加できるよう連携を行い、教育支援センターでの過ごし方の選択肢を増やすことにつなげています。」(瀬川)
校長や教育長の強いリーダーシップで
民間団体との連携を実現
続いて行われたトークセッションでは、「官民連携でのメタバース空間を活用した不登校支援の可能性」をテーマに、石橋校長、戸ヶ﨑教育長、今村が登壇。最初にそれぞれの学校、自治体での不登校支援の取り組みについて共有いただきました。
大垣東中学校では、「居場所は教室だけではない。どこにだって居場所はあるんだよ」というメッセージを発信しながら不登校の生徒に対する支援にあたっているといいます。
「大垣東中学校では全国平均に対して不登校生徒数が多いこともあり、校内フリースペースの他に個別教室を設置するなどの対応を進めてきました。学校に登校することが可能な生徒に対してはこのような支援を届けることが可能ですが、家から出ることの難しい子ども達に対しては支援の手がどうしても届かない。そこでオンライン不登校支援プログラムの導入を決めました。」(石橋校長)
大垣東中学校の不登校支援について紹介する石橋校長
また、導入までのポイントの一つに教育委員会との調整があったといいます。
「教育委員会からはリスクという観点で、カタリバという民間団体と連携する点に心配の声が上がりました。カタリバのオンライン不登校支援プログラムが経済産業省の行う『未来の教室』実証事業に採択されていること、カタリバが本校が昨年度から取り組んできた『みんなのルールメイキングプロジェクト』を主催している団体であるという実績を説明することで、導入まで至ることができました。」(石橋校長)
戸田市教育委員会の戸ヶ﨑教育長も教育委員会として用意している複数の不登校支援策にオンライン不登校支援プログラムが加わったことで「学びの選択肢を大きく拡充することができた」と語ります。
さらに戸田市教育委員会では、エビデンスを重視した教育現場づくりにも取り組んでいます。
「本来教育は科学的であるべきだと考えています。現在戸田市では、デジタル庁からの採択を受けて生徒児童の教育データをデータベース化することにも取り組み始めています。不登校支援においてもデータサイエンスをできるだけ導入し、これまで主に保護者や教師の勘に基づいて対応してきた状態から、データによる兆候の早期発見や予知につなげていくことを目指しています。」(戸ヶ﨑教育長)
戸田市教育委員会が推進する教育改革について紹介する戸ヶ﨑教育長
メタバース空間のメリットや出席認定など、
参加者からは具体的な質問も
トークセッション後には、石橋校長・戸ヶ﨑教育長・今村の3つのブレイクアウトルームに分かれて参加者からの質問に答える時間が設けられました。ここでは、質疑応答の一部をご紹介します。
■メタバース空間やアバターを活用していることのメリットは何ですか。
「当初はオンラインテレビ会議システムのみを活用していましたが、メタバース空間では子どもたちの食いつきが圧倒的に違います。またアバターがメタバース空間を走り回っている様子などから、子どもの心の動きまで感じ取ることができると感じています。」(カタリバ事業担当者)
■オンライン不登校支援プログラムのカタリバ内の体制を教えてください。
「職員のほかメンターや支援計画コーディネーター、学習面の指導にあたる外部委託スタッフなど、90名近いスタッフで運営しています。なかには海外から参加しているメンバーや、育児中でフルタイムの仕事に戻ることは難しいけれども自分に合った時間帯で働けるならということで関わっているメンバーもいます。自分が住んでいる地域の子どもに限らずいろんな地域の子どもたちを支援できるというのは、オンラインならではの良さだと感じています。」(今村、カタリバ事業担当者)
■大垣東中学校では、不登校支援に対する教員配置をどのように行なっていますか。
「加配教員を1名配置しています。ただし今年度は年度途中に1人退職者が出て加配教員も不登校支援以外の授業を受け持つことになったため、不登校生徒のための別室を開けられない時間も出てしまっています。このようにできない理由はいくらでも出てくるのですが別室を開室できる時間帯は極力開けるなど、どうにかできる方法を模索しながらやっています。」(石橋校長)
■オンライン不登校支援プログラムを導入したことで、登校する生徒は増えましたか。
「オンライン不登校支援プログラムに参加している生徒の1人が、学校外に設けているサテライト教室に登校するようになりました。また昼間はオンライン不登校支援プログラムに参加し、放課後になると学校にやってくるというリズムができ始めている生徒もいます。」(石橋校長、不登校支援担当の先生)
■オンライン不登校支援プログラムへの参加を出席扱いすることに、通常登校をしている生徒や保護者からの不満の声はありませんか。
「特に不満は出ていません。今日のセミナー内では出席認定について何度か質問が出ていますが、令和元年10月に出された文部科学省からの通達では、不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談や指導を受けている場合の出席認定の要件が示されています。そちらもぜひご覧ください。」(戸ヶ﨑教育長)
■これからの教育のあるべき姿について、戸ヶ﨑教育長の意見を伺いたいです。
「これまでの日本型教育は『できないことをできるようにする』ことにエネルギーを注いできました。今後は『できること』の方に目を向けて、その子どもの良さを伸ばす教育にシフトしていく必要があるのではないでしょうか。日本の学校制度が始まって150年を迎えるいま、多くの方々とともに考えていきたいテーマです。」(戸ヶ﨑教育長)
限られた時間ではありましたが、教員、自治体関係者、保護者、支援者などさまざまな立場からの質問が続き、不登校支援に対する現在地とこれからについて議論する場になりました。
カタリバでは今後も自治体との連携を加速しながら、一人一人の子どもたちが自分らしく学べる環境づくりを目指していきます。
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