「不登校のいま」を知る。オンラインを活用した不登校支援の試みとは?不登校支援DXプログラム活動報告会
不登校の児童生徒数が過去最多(※1)となるなか、カタリバでは2021年よりオンラインで一人ひとりに合わせた学びの形を提案する不登校支援プログラムをスタートしました。
プログラムに取り組んで見えてきたことや、課題について語る活動報告会を2022年4月18日(月)にオンラインで開催。ゲストには、本プログラムの協働パートナーであるアルスクール株式会社代表取締役の村野さん、株式会社math channel取締役の才津さんを招きました。
本レポートでは、不登校の子ども一人ひとりに合わせた新しい学びの形について考えた活動報告会の様子をお伝えします。
増え続ける不登校の児童生徒数。
家庭での対応には限界も……
文部科学省の調査(※1)によると、不登校の定義にあてはまる子どもの数は約19万人。それ以外にも、様々な理由で学校に通えない子どもの数も合わせると、長期欠席者の数は29万人ほどと過去最高を記録しました。登校するものの教室には行けない、保健室登校で出席扱いにしているといった不登校傾向にある子どもの数を入れると、その数はさらに数十万人も増えるという調査報告もあります(※2)。
このような現状を踏まえて、カタリバ代表理事の今村久美(以下、今村)より不登校の実態や取り巻く環境、課題について報告しました。
「コロナ禍以降、不登校・不登校傾向にある子どもの数がさらに増えているのではないかともいわれていますが、現時点では国による具体的な分析、調査はされていません。不登校になった理由として文科省の調査では、学校起因によるものが最多数。カタリバが三菱 UFJリサーチ&コンサルティングと協働で実施したプログラム利用者への調査(※3)でも、学校で起きたことが原因で不登校になったという子どもが最も多い結果となっています」(今村)
また、10代の子どもの自死数は、緊急事態宣言や夏休みなどの長期休み明けに増加するという調査結果もあります(※4)。
「この数字が不登校と直接因果関係があるかどうかは明らかではありませんが、日本の子どもの自殺件数も増え続けています。G7各国の中で、子どもの死因の第一位が自死であるのは日本だけです(※5)」(今村)
課題が深刻化する一方で、支援はほぼ家庭に委ねられており、不登校の児童生徒に対する公的支援は不十分と今村は話します。自治体の教育支援センターが設置されていても遠方のため通うのが難しかったり、民間のフリースクールがあっても授業料が高額で通学を諦めざるを得なかったりする家庭も多いといいます。
「不登校が家庭の貧困につながるケースも増えています。とくにひとり親世帯で、子どもを家に置いて仕事に行くのは困難です。業務時間を調整する必要に迫られ、収入が減る。また、場合によっては仕事自体を失うといった影響が出るケースも報告されています」(今村)
カタリバが実施したアンケートによると、子どもが不登校になったことで保護者のうち32%の就労形態が変化し、25%は年収が下がったという結果が出ています。
「憲法で義務教育は無料と定められています。本来であれば無償で本人の能力に応じた教育が受けられるはずですが、現状ではそれがかなわないことも往々にしてあります。不登校は一部の子どもだけの課題とはいえません。もはや、いつ誰が抱えてもおかしくない状況であることを前提に、全ての子どもを学びにつなぐ具体的な仕掛けを実装する必要があると考えています」(今村)
「教育支援センターなどオフラインへの橋渡しを」カタリバ独自のオンライン不登校支援とは
不登校の子どもや家庭を取り巻く現状を受け、カタリバでは昨年より、不登校の子どもを持つ保護者向け相談窓口「カタリバ相談チャット」や「オンラインお話し会」の定期開催や、不登校の子どもたちの学びの場「room-K」の運営を開始。room-Kは経済産業省の「未来の教育実証事業」に採択されています。
room-Kでは具体的にどのようにして不登校支援を行っているのか、room-Kのプロジェクトリーダーを務めるカタリバの瀬川知孝(以下、瀬川)が報告しました。
「room-Kは、自治体が運営する不登校の子どものための教育支援センターをオンライン上でも実現し、その場を自治体を越えてシェアしようとする取り組みです。子どものための安心安全な居場所や、オフラインに近い学びの場を提供し、同時にroom-Kに集う人と人との関係性を作っていくことを目指しています」(瀬川)
room-Kでは、インターネット上のバーチャル空間を使って居場所・学習支援を行うため、実際に施設に集まっているような感覚で子どもたちが参加できる工夫も。必要に応じて精神科医や臨床心理士に相談ができる体制や、外部パートナーと連携してデジタルツールを活用した学びを提供していることも特徴のひとつ。子どもの興味関心を引き出すプログラム設計を意識しています。
バーチャル空間を用いたroom-Kの様子。子どもたちやスタッフが、それぞれアバター(バーチャル空間上のキャラクター)に扮して思い思いに過ごすことができる
また、room-Kというオンラインの場から、自治体の教育支援センターなどオフラインの場への橋渡しの可能性も見えてきています。
「オンラインで関係性を築くことが、教育支援センターや学校などオフラインの場にもう一度行くきっかけになる。そういった可能性もあるのではないかと感じています。例えば、room-Kで行う子どもとメンターの面談に、教育支援センターのスタッフにも同席いただき関係性を築く試みを進めた結果、1年以上来所がなかった子どもが教育支援センターに足を運ぶようになったという事例もあります。自治体と連携するからこそ、本当に支援が必要な人に行き届くという側面があるということも実感しているところです」(瀬川)
「現在は、全国で6つの自治体と連携をしながら不登校支援を行っています。カタリバでは今年度も様々な自治体の皆さんとの連携を通じて、不登校の子どもと保護者への支援を進めていきます」(瀬川)
保護者からのリアルな声
「room-K」利用後、子どもに起こった変化とは
報告会の後半では、実際に不登校の子どもがroom-Kを利用しているという保護者に、room-K利用のきっかけや感想を伺いました。今回登壇いただいたのは、かんのさん(子ども・小5)とゆみママさん(子ども・小3)。お二人の子どもは小学校低学年の頃から学校に行けない日が増えたといいます。
「学校で起きた様々な出来事を打ち明けられて、これ以上通わせるのは無理だと感じ、本人の意思を尊重することにしました。不登校になってからも学校以外ではいたって元気で、友だちと出かけることも多いのですが、自発的に何かを始めるという機会は限られていました。room-Kを知って、学校に行かなくても、全国の友だちと集える場所があれば心の支えになるのではないかと思いました」(かんのさん)
「スクールカウンセラーにも相談しましたが、不登校の理由を何度も聞かれ、登校を促すような雰囲気に本人が心を閉ざしてしまいました。学校以外の場所を模索したものの、フリースクールは授業料が高額です。room-Kの利用を始めた当初は低学年だったこともあり、オンラインの場を有効活用できるのか半信半疑でしたが、子どもが楽しそうに参加している姿を見て、『探していた場所が見つかった』と涙が出ました」(ゆみママさん)
また、room-Kが子どもに与えた影響についてはこんな声が。
「room-Kが自己肯定感を高めるきっかけになったのは間違いありません。オンラインを足がかりにして、リアルの場に出ていくエネルギーを蓄えていく場所になっているようです。力を溜めたら自ら羽ばたいていくはず。今は本人の意思に任せようと思っています」(ゆみママさん)
「高校進学などの進路選択にあたって、家庭の中だけで考えるとどうしても視野が狭くなりがちです。room-Kは本人が将来の進路について考え、情報交換するきっかけにもなっているようです。私自身、この半年で見えている世界が変わったかのような実感があります」(かんのさん)
「子どもの自己肯定感を高めるには」
支援の現場から新たに見えてきたこと
報告会の終盤では、運営に携わるスタッフや教材を提供いただいている協働パートナーを交えたパネルディスカッションも。room-Kで子ども一人ひとりに合わせた支援計画の策定に携わる、支援企画コーディネーターの鶴岡ゆりと、子どもメンターとして関わる鍬崎たくみは、保護者や子どもたちと関わるうえで意識していることについて、以下のように語ります。
鶴岡ゆり(カタリバ 支援企画コーディネーター)
「room-Kに参加する子ども・保護者と面談し、支援計画を作成しています。計画を立てるにあたって大事にしているのは、『将来の行動につながるような学びを作る』ということ。本人の意欲や興味があることを引き出し、苦手分野をサポートすることを心がけています。例えば、算数・数学講座を担当するmath channelさんの授業は子どもにとっても、保護者の方にとっても、『算数を学べる!』という自信や安心につながっているようです」
鍬崎たくみ(カタリバ 大学生ボランティア・子どもメンター)
「room-Kでは子どもたちと一緒に一人ひとりの時間割を作ったり、その後の振り返りをしたりと、子どものメンター的な役割を担っています。初めての場所に行くのは抵抗があり、オンラインで話すのが苦手という子どもも、心のどこかでは誰かと関わりたい、友だちを作りたいと思っていることが多いようです。そんな子どもたちにとってアルスクールさんのプログラミング講座は、ゲーム作りを通して友だちができるきっかけになっているようでした。また、私の方から普段の学生生活や就活の悩みを話すなど自己開示することで、子どもたちがリアクションしやすい雰囲気を作るよう心がけています」
協働パートナーであるアルスクール株式会社 代表取締役CEOの村野智浩さんと、株式会社math channel取締役COOの才津葵さんは、room-Kでの感触について以下のように語ります。
村野智浩さん(アルスクール株式会社 代表取締役CEO)
「room-Kに参加する子どもたちの様子を見ていると、正解不正解のあるドリル的な学習は受けつけないという子も多いようです。私たちが提供しているプログラミング講座では、自由創作を通じて主体的に学ぶので、ひとことで言ってしまえば、子どもはめちゃくちゃ伸びます。僕もかなわないなと思うような作品を作る小学生が何人もいるんですよ。授業では、実際に作ったゲーム作品で遊び、子どもたち同士で積極的にコメントしあう中で、自分に自信がつく子が多いように感じています」
才津葵さん(株式会社math channel 取締役COO)
「私自身もかつて不登校の経験があり、高卒認定を取得し大学進学しました。そういった経緯から多様な学びの機会をつくり、多くの人の人生の可能性を広げたいと考えています。room-Kでは、オンライン算数・数学講座を担当。不登校になると、わからない・できないと感じる経験が少なくなりがちです。あえて少し難しい課題にも挑戦し、『できた!』という成功体験を積み重ねる機会を作るようにしています。今後は進度に合わせた個別の学習支援にも重点を置きたいですね」
これからの不登校支援に向けて
注力するのは “仲間づくり”
本イベント後には、導入を検討している自治体と一般参加者それぞれのグループに分かれ、質疑応答が行われました。
現在、カタリバでは実証パートナーとなる自治体を募集中です。また報告会実施後の5月11日には、すでに提携を開始している広島県教育委員会との連携協定締結も発表されました。カタリバでは、今後も子どもたちの多様な学びを支えていくために自治体との連携も強めながら、不登校の子どもやその家庭に対する支援を続けていきます。
※1 文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf
※2 日本財団「不登校傾向にある子どもの実態調査(2018年)」
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/information/2018/20181212-6917.html
※3 三菱UFJリサーチ&コンサルティングによるカタリバのオンライン支援プログラム利用者(保護者)に対するアンケート結果
※4 NHKスペシャル「若者たちに死を選ばせない」
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/p9Dr8MOm16/
※5 文部科学省令和2年 児童生徒の自殺者数に関する基礎資料集
−文:高田 翔子
▼カタリバのオンライン不登校支援プログラム
https://www.katariba.or.jp/activity/project/futoko/
▼オンライン不登校支援プログラム「room-K」
https://futoko.katariba.online/
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