コロナ禍が始まって2年、生活困窮世帯の子どもたちを支えるには?キッカケプログラム活動報告会
コロナ禍がいつ収束するのかは未だ見えないまま、2年が経過しています。いま、困難を抱える子どもたちや家庭の様子はどんなもので、どのように支えていけるのでしょうか。
カタリバでは2020年より、経済的困難を抱える家庭へオンラインで伴走と学びの機会を届ける「キッカケプログラム」を実施してきました。
3月8日に開催したキッカケプログラム活動報告会では、事業責任者の加賀 大資(かが だいすけ)と、スタッフの中島 典子(なかしま のりこ)がこれまでの活動を発表しました。100名以上の方にお申し込みいただき、質問も活発に飛び交った報告会のレポートをお届けします。
文化資本や社会関係資本も、
コロナ禍で格差が
カタリバでは、2020年3月2日に始まったコロナ対策のための一斉休校要請を受け、その2日後となる3月4日からZoom上にオンラインの無料の居場所「カタリバオンライン」をオープンしてきました。
しかしその中で出会ったのは、「オンラインに居場所やプログラムがあっても、パソコンがないから使えない」という家庭や子どもたち。カタリバではすぐさま”奨学パソコン”として、パソコンとWi-Fiの無償貸与とオンラインでの伴走型支援を行うことを決定。それが「キッカケプログラム」です。
キッカケプログラムで提供している支援体制
経済的困難を抱える家庭への社会的な影響と、カタリバで行った支援について、「キッカケプログラム 」の事業責任者である加賀 大資(かが だいすけ)より説明しました。
「コロナによって、もともと経済的に困窮していた家庭が、より困窮している現状があります。キッカケプログラムの参加者の中でも、保護者に持病や障害のある世帯は、失業や休業になった人の割合が約2倍。家が保護者の仕事の場になって子どもがくつろげない状況になったり、保護者の就労環境の変化によるストレスが子どもに向いてしまうなど、家庭内の環境変化も子どもたちに影響していると思います」(加賀)
給食の時に誰とも喋ってはいけなくなり、感染予防のために学校や地域のイベントが中止になるなど、子どもたちに我慢を強いる状況は日本全国で起きています。しかしそうした制約が、困窮世帯ではより大きく成長や発達に影響すると加賀は話します。
「コロナ禍による制約は、文化資本や社会関係資本の貧困にもつながります。本に触れたり美術館に行ったり、近所の人に挨拶するようなマナーも、文化資本のひとつです。これまでは家庭環境に差があっても、学校のイベントや教員の関わり等によってそうした点が補われていました。しかしコロナ禍の中で家庭のみが担わざるを得なくなり、ひとり親で朝から夜まで仕事で、子どもをサポートできない家庭には苦しい状態です。もともとの環境による格差が、コロナ禍で開いています」(加賀)
子どものファーストプレイスである
保護者支援の重要性
キッカケプログラムはそうした生活困窮世帯の子どもたちの現状を見据えて、新しい形の支援を始めました。それが、保護者の支援です。
「子ども達にとって、家庭はファーストプレイスです。学校というセカンドプレイスや地域の別の居場所などのサードプレイスに子どもが繋がれなくなったときに、家庭の果たす役割や影響は、非常に大きい。困っている子どもは、その子どもだけが困っているのでなく、保護者が孤立していたり、家庭全体が困っていることも多いのです」(加賀)
”子ども支援”というと、子ども本人への支援を考えがちですが、本質的な問題にアプローチするには、保護者を支えることが重要。これまではサードプレイス(家庭でも学校でもない第三の居場所)づくりに力を入れてきたカタリバですが、コロナ禍によってファーストプレイスを支える価値に改めて向き合いました。
「キッカケプログラムの子どもたちも、コロナで収入が減少した家庭の子たちは、そうでない子たちに比べて自尊感情が低くなっています。家庭の環境や状態がどうなっているかは、子どもたちが自分自身を肯定できるかに影響しています。キッカケでは家庭環境が少しでも安定することを目指して、親御さんが抱えている悩みを定期的に聞きながら困りごとの解決に伴走しています」(加賀)
デバイスを配布するだけでは、
自己肯定感や意欲はあがらない
また、スタッフの中島 典子(なかしま のりこ)は、2年間の取り組みをデータで発表しました。
2020年5月に15台のパソコンを配送することから始まったキッカケプログラムは、クラウドファンディングによる資金などを用いて現在では計325名にプログラムを届けています。参加者は、経済的困難以外にも複数の困難を抱えているケースが多くあります。利用者の84%はシングルマザー世帯、発達障害を抱えている子どもの割合も32%にのぼります。
パソコン発送作業の様子。大切に使ってもらえるよう、1台ずつケースに入れて送付している。
「2021年から国の施策として1人1台の学習用端末の配備がうたわれているものの、キッカケプログラムに参加している半数近くの子ども達には、現在まだ機器が配布されていない状況があります。また配布されている子どもも、『学校内でだけ使えて、自宅では使えない』『学校としかつなぐことができず、他のアプリは使用できない』というケースが多い現状があります」(中島)
機器があればいろいろなことにチャレンジできると思われがちですが、ただ機器を渡すだけでは”失敗体験”になってしまい、むしろ自己肯定感が下がってしまうという結果も出たと中島は話します。
「『機器を配布すればそれでいい』と思われがちですが、そもそもご家庭にWi-Fiがなく家から利用できないという子は多くいます。また、普段の仕事等でも機器に接したことがなく、ただ機器を配ってもらっただけではうまく使えないという保護者の声もあります。電源の入れ方やネットへのつなぎ方など、初歩的な操作のつまづきが意欲を奪ったりもするので、キッカケプログラムではいつでも相談ができるパソコンの操作サポートスタッフを配置していました」(中島)
信頼できる大人との出会いが、
夢や目標につながる
またパソコン操作のサポートだけでなく、子どもたちの学びに定期的に伴走する伴走支援の重要性も、このプログラムから見えてきました。
「プログラムを始めたばかりの当初は、人的なリソースも限られており、機器を渡した全員には伴走支援を実施できませんでした。伴走支援の有無で子どもの様子を比較すると、子どもの自己肯定感、授業理解度、学習時間などに影響していることがわかります。伴走支援によって、信頼できる大人の数が増え、夢や目標を持てるようになることもわかりました」(中島)
子どもたちと毎週1対1で話すキッズメンターは、全国から公募。オンラインだからこそ国内外から多様な人材が確保できており、子どもたちとナナメの関係を築いています。特に、多様な人々に出会う機会が限られやすい地方在住の子どもたちにとっては、同じ趣味を持った同世代や憧れられる大人に出会えるようになったという、オンラインならではの価値があるようです。
「参加者の中に、勉強のスイッチがなかなか入らず、『ここで学んでも何につながるのかわからないし…』という子がいました。オンラインでメンターが伴走し、メンターと学習時間を設定するようになって、1日30分、45分、1時間と、少しずつ勉強時間を延ばせるようになってきたんです。意欲がないように見えていた子どもでも、丁寧に伴走して関わり続けることで変われるのではないかと思います」(加賀)
「メンターは子どもたちからも好評で、『親や先生・友達に相談しがたいモヤモヤが晴れて、気分がすっきりします。お姉さん的存在で話しやすく、メンターさんの留学経験をうかがって、私も留学してみたくなりました』という高校生からの声や、『学校であったことや趣味を話すのが楽しいです。将来のことや、受験に向けての不安など相談できて助かります』という中学生からの声もありました」(中島)
自治体とも連携しながら、
どこにも繋がれていない子どもたちとつながる
来月にはさらに受け入れ枠を増やし、計430名へのプログラム提供を目指しているというキッカケプログラム。しかし、現在でもキッカケプログラムの応募倍率は4〜5倍。需要が多くある中で、広く届けるための試行錯誤が続いています。
「今後は自治体とも連携しながら、キッカケプログラムで型が見えてきたオンラインでの困窮世帯の支援をより広く届けていけたらと考えています。特に地方在住などで、拠点型での支援が難しい場合でも、オンラインであれば支援できるケースもあると思います。これまでに蓄積したデータを、政策提言にも活用できたらと思っています」(加賀)
また、これまで支援につながったことのない人にプログラムを届けることも、カタリバの大事なテーマとなっています。
「地域の支援団体から『こういう困った子がいるよ』とご家庭を紹介いただくケースもありますが、そういった子どもや家庭は、すでに誰かとつながる力がある方たちです。また生活が困窮している家庭では、保護者の方も仕事で忙しく、機器へログインするなどのサポートを子どもの横でできない場合も多くあります。そういう家庭の子どもたちやどこにも繋がれていない子どもたちも来れるプログラムにしたいと思っています」(加賀)
「このプログラムを通して『困ったら誰かに頼ってもいいんだ』『話を聞いてくれる大人がいるんだ』という成功体験ができて、地域団体につながることができた子どももいます。オンラインでの関わりをキッカケにしながら、そうやって他の地域の居場所にもつながっていってくれるといいなと感じます」(加賀)
たくさんの人が気にかけていることが、子どもたちに少しでも伝わればと考えて、パソコン送付時に添えているメッセージカード。
2人による報告の後は、参加者からさまざまな質問もいただき、オンラインを活用した支援への関心の高さを感じました。会の最後には、加賀から、「子どもを支える人は、多すぎて困ることはありません。関心が広がれば広がるほど、支えられる子どもは増えます。さまざまな大人と一緒に、これからも実践を続けていきたいです」と話がありました。
カタリバでは引き続き、他の団体や地方自治体とも連携しながら、経済的困難を抱えた家庭の子どもたちへの支援を続けていきます。
ーTEXT:田村 真菜