探究学習における「協働」の意義。全国の実践校×元文部科学副大臣が語る「学校横断型探究プロジェクト」の未来とは?
今年4月から高等学校で実施される新学習指導要領の中心に位置付けられた「総合的な探究の時間」。“生徒ひとりひとりの生き方・あり方と深く結びついたテーマを立て、主体的・対話的に探究活動をしていく学び”が目指されています。
この趣旨を実現するためには、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が必要であるとされています(※1)が、1校あたりの生徒数が少ない学校、いわゆる「小規模校」では、指導にあたる教員の数が少ないなど、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を実現するためのリソースが不足している現状もあります。
カタリバでは2020年度から、「総合的な探究の時間」の実施に困難を抱える小規模校において、学校同士が横断することで幅広い興味・関心からはじまる探究的な学びを支援し、高校生たちの主体的な探究活動に伴走する試みを「学校横断型探究プロジェクト」として実験的に続けてきました。
去る2/22(火)には、本プロジェクトに参加する実践校3校の先生方とともに「探究×学校間連携による個別最適化された学びを考える 〜学校横断型探究プロジェクト報告&トークセッション〜」を開催。「総合的な探究の時間」必修化の立役者の一人でもある元文部科学省副大臣の鈴木寛さんをゲストに、これまでの取り組みの成果と、来年度から本格的に実施をしていく上での課題について議論しました。本レポートでは、そのトークセッションの様子をお伝えします。
この30年で約500校が統廃合の対象に。
探究活動において小規模校が抱える教育課題とは
日本では、1990年代後半から高等学校の再編整備が進み、1989年に5,523校あった公立高校は2016年に5,029校まで約1割(494校)減少(※2)しています。このような学校の多くは、いわゆる「小規模校」と呼ばれる、生徒数が少ない学校です。
本プロジェクトを担当するカタリバの起塚は、小規模校の1つに数えられる岩手県立大槌高校のコーディネーターとして1年前まで勤務。同校での実感も踏まえ、探究活動における課題を次のように話しました。
「小規模校は先生と生徒の距離が近くて目配りがしやすいという利点もあります。一方で、少人数ゆえに自分と同じような興味関心を持つ同級生や先生と出会える確率は低く、探究活動を深めるチャンスが少ないとも言えます。また、教員にとっても人材リソースが限られているために、学校外部との連携のハードルが高かったり、探究活動に関する知見を共有する機会が限られていたりと推進していく上での課題があります」(起塚)
そのような課題があるなかでの、本プロジェクトの位置付けをこのように語ります。
「学校横断型探究プロジェクトでは、学校合同で探究授業を行うことで、興味関心の近い生徒たちが学校をまたいで出会い、先生たちも専門性に応じて関わります。いわば擬似的な中規模〜大規模校をつくるようなイメージです」(起塚)
本プロジェクトの一環として行われた年4回の合同授業では、探究活動の進捗に応じて「アイスブレイク」、「ゲスト交流会」、「探究テーマ交流会」、「合同振り返り会」を実施。さらに、より交流を深めたいという生徒に向けては、放課後にも機会を設けました。同時に、教員同士が探究活動における知見を共有するために、具体的なケースを持ち寄っての交流会なども実施しました。
「同じ地域ではどうしても課題感や考え方が似通ってしまうなか、交流することで新たな視点を得られたという生徒もいました。また、第三者である他校の生徒に探究活動の内容を説明することで、それまで見えていなかった感情や想いが言語化されたという声もありました。すべてがこのプロジェクトの成果だとは言い切れないとは思いますが、事前事後のアンケート結果では、他者とのコミュニケーションに対する前向きな気持ちや、多様な価値観の人との関係性づくりへの自信というものが高まったということも見て取れます」(起塚)
各校で探究活動を推進するための「最高の補助輪だった」。
教員が語る小規模校の課題と取り組みの価値
セッション第2部では、今年度本プロジェクトに参加した全国6校の小規模校のうち、取り組み2年目となる山形県立小国高校、熊本県立小国高校、岩手県立大槌高校の先生方3名が登壇し実施報告が行われました。
イベントに登壇した3名の先生方と鈴木寛さん、本プロジェクト責任者のカタリバ菅野
1人目は山形県立小国高校の長岡先生。山形県立小国高校は人口約7,000人の中山間地域に位置し、各学年1クラス、全校生徒65人という超小規模校ながら、東北初のコミュニティスクールの設置や小規模校サミットの主催など、地域とともに学校づくりを進めてきた高校です。
「9割が町内出身でほとんどが保育園から一緒。仲が良い一方、人間関係が固定化しやすいというのが課題でした。ずっと一緒にいるから張り合いみたいなものがなくて。
このプログラムには、切磋琢磨に必要な適度な緊張感やストレスがあります。授業が始まる前には『嫌だな』と言っている生徒もいるのですが、終わってみたら楽しいと言っている生徒がほとんどでした。
興味関心が重なる生徒に会えるのも大きいですね。興味関心があるからこそ、深堀りしながら聞き合えるという側面もあり、夢中になって話している生徒もいます。一方で小国という地域だけで調べていても一様になる答えが、地域の違いによって多様性が生まれるようなこともあって、調査に他校を巻き込んだ生徒もいました」(山形小国・長岡先生)
プロジェクトに参加したことによる生徒の変化は他にも見られたそうです。
「他校の生徒や先生に褒めてもらえるのも嬉しいようです。実はそういう機会に飢えていたんだなと気づきました。意欲の高い生徒にとっては、全体司会などの役割を持って挑戦する機会にもなっています。
他校と共同で授業を進行するのは正直大変でもありますが、たくさんの子どもたちの輝きに触れられて、教員の醍醐味を感じる場になっています。他校の生徒もかわいいんですよね」(山形小国・長岡先生)
取り組みを話す長岡先生
2校目となる熊本県立小国高校は、阿蘇北部に位置する令和4年度に創立100周年を迎える伝統校。2、3年生は2クラスですが、1年生は1クラスで、小国郷(小国町、南小国町)から通う生徒が大半を占めます。また小国郷にある2つの中学校との連携型中高一貫教育校でもあります。
「緊張したり、面倒くさがったりすることも多い生徒なのですが、(事後に取得した)アンケートで98.1%もの生徒が取り組みが『とてもよかった』『よかった』と答えていたのが印象的でした。先日最後の授業が終わりましたが、これで終わりなのは寂しいと言っている生徒もいます。
取り組み当初、本校はネットワーク環境や端末が整っておらず、ハード面の整備から入るような状況でしたが、ICT支援員にも積極的にサポートしてもらって整備することができました。今回の取り組みによって、先進的に活用していくという機運が生まれるきっかけにもなったと感じています。
高校生の力は無限大だな、というのが一番の感想です。他の職員も、生徒の視野が広がったことを実感しているようでした」(熊本小国・後藤先生)
3校目の岩手県立大槌高校では5年前から1学年2クラスとなり、一時は将来的な統廃合が検討されてました。同校の野田先生は、2校の先生方に共感を示しつつ、次のように話しました。
「うちもほとんどが町内出身者。内輪ではとても元気なのに、外に出ると大人しい生徒が多いです。やはり授業が始まる前は戸惑っているのですが、終わった後は楽しそうにわいわいとしています。
今回の取り組みで一番よかったのは、近いテーマの生徒同士で探究活動ができたこと。テーマによっては放課後の時間により深い内容を話し合う機会もあって、うまく活用できていた生徒もいました。マイプロジェクトアワード(カタリバが主催する課題解決型学習に取り組む高校生の学びの発表の場)に参加する生徒が例年にないほど多かったのですが、このプロジェクトに参加した効果もあったかもしれません」(大槌・野田先生)
また野田先生は、教員も迷いながら探究活動の指導に取り組んでいたことにも触れました。
「他校の先生方の話を聞いて、我々ももっと勉強しなければという意識が持てたことは大きかったと思います。
交流の中で共通点と異なる点を見つけられるのがこの取り組みの良さです。ただ、この連携ありきで探究活動を考えるのではなく、自分たちの探究活動をよりよくしていくことでこの連携をうまく活用でき、さらによい形になっていく……という順番のような気がします。その意味でこの連携は最高の『補助輪』だと感じています」(大槌・野田先生)
「総合的な探究の時間」は
小規模校にとっての「チャンス」でもある
ゲストとして参加いただいた元文部科学省副大臣の鈴木寛さんからは、文部科学省が進めるGIGAスクール構想などで生徒に一人一台のタブレット配置などのハード面の整備が進む中、本プロジェクトはその環境を有効に活用できた事例の一つではないか、という評価もいただきました。
「生徒と教員にも当然ながら相性があります。1校では数名の教員でも、3校合わされば20名ほどの教員になる。これほどの数がいれば、心を開けるような教員に出会える可能性は高まりますよね。他校の先生と生徒が師弟関係を結ぶ、みたいなことも起きたら面白い。
3回目の授業「探究ゼミ」では、3校の先生方が各ゼミのファシリテーターを担当した
もともと(小規模校が多い)離島・中山間地域には、サポートしてくれている地域人材がたくさん眠っています。町長や助役みたいな人に会うことさえ、都会ほど難しくはない。人間関係が蓄積されているから、ラポール(信頼構築)にそれほど時間がかからないんです。リアルな現場を舞台にする探究活動において、この点は都会よりもかなり大きなアドバンテージになります。
大学で研究活動に目を向けても、都会には猪もいないし、ドローンも飛ばせないから、わざわざそういう地域に出向いている学生もいます。高校生でも『地域みらい留学』のような形で、地方の高校に進学して探究活動に取り組むような生徒が出てきている。
その意味で指導者不足の状況さえ解消されれば、地方は探究活動における最高のフィールドになるポテンシャルがあると言えます」(鈴木さん)
それを受けて実践校の一つ熊本小国高校の後藤先生からは、人材不足という点において感じていることが共有されました。
「本校には他の2校のようなコーディネーターがいなくて。今回の取り組みも(遠隔でコーディネートした)カタリバスタッフの協力があって実現できました。子どもたちのニーズに合わせた探究活動を考えたいのですが、そこに腰を据えて取り組めてはいないのが現状です」(熊本小国・後藤先生)
この課題に対して鈴木さんが提案したのが、大学生という人材の活用という新しいアイデアでした。
「全国には教育学部の学生だけでも数万人存在しています。探究活動の経験がある大学生も伴走人材として貴重な存在ですが、マイプロジェクトにも10万人近くの卒業生がいる。彼らがコーディネーターという役割に取り組むことは、将来に直接つながる体験なんです。生徒の成長に寄与するという意味で、教育学部以外の学生にとっても大いに意味がある。今は教員のなり手も減っているような状況ですが、教育に興味関心を持つきっかけになるかもしれません。
もともと大学生がいないという点で地方は不利だったとも言えます。しかし、オンラインを活用することで、その差をなくすこともできる。特に都会では、大学生が学校の中に入ることが難しくなってきている状況もありますが、小規模校にはニーズがある。オンラインでつながることは、優秀な学生と小規模校がつながるチャンスでもあると思います」(鈴木さん)
「学校横断型探究プロジェクト」では、ゲスト交流会にマイプロジェクトを経験した大学生も参加した
オンラインで促進される
「個別最適な学び」と「越境体験」
総合的な探究の時間において重要とされる「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」。ここまでの議論から、「協働的な学び」についてはオンライン活用によって実現可能性が高まっていることが見えてきました。一方の「個別最適な学び」において、オンライン活用が果たす役割について、野田先生(大槌高校)は次のように語ります。
「オンラインの良さは、本当に興味関心のある生徒だけをつなげることができることだと思っています。今回のゲスト交流会でもそういったことが実現できましたし、放課後に話を聞きたい人だけ、話を聞きにいくということもできました」(大槌・野田先生)
後藤先生(熊本小国高校)も、生徒それぞれの関心テーマに合わせて外部講師のコーディネートをすることや、教員個々の専門性を生徒の探究活動に生かすという側面で、オンラインで複数の学校がともに探究活動に取り組むメリットがあると同意。そのうえで、全国の小規模校に向けたこんな呼びかけも。
「山形小国高校さんが実施されている小規模校サミットや、各地で取り組まれている高校魅力化プロジェクトなど、学校の存続に向けて必死に頑張っている方々が全国にいます。ぜひとも全国の小規模校に、このネットワークに参画して欲しいと感じています」(鈴木さん)
小規模校における探究活動の可能性が見えた今回のイベント。プロジェクトの責任者である菅野は次のような言葉で締めくくりました。
「この取り組みを『三人寄れば文殊の知恵』と形容した高校生がいました。ある地域にとって当たり前になっていることを別の地域に共有することで、新たな気づきや学びを発見することになる。それがこのパートナーシップの意味だと感じています」(菅野)
カタリバでは次年度以降も引き続き、「学校横断探究プロジェクト」に取り組んでいきます。
【出典】
※1:文部科学省初等中等教育局教育課程課「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料」
※2:「高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察」 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
本プロジェクトへの参加を検討している/本プロジェクトに興味関心をお持ちの学校関係者の方は、運営事務局(collabo_tanq@katariba.net)までお問い合わせください。
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吉田 愛美 全国高校生マイプロジェクト事務局
1991年福島県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。地元の力になりたいと、転職を経て地元選出の国会議員秘書を勤めた後、2016年1月より現職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当。現在は全国高校生マイプロジェクト事務局広報を担当。地域を巻き込んだ教育を通して、地域を元気にすることが目標。東北が大好きで、旅行はいつも東北と決めている。
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