「不登校児童が過去最多」との調査結果を受け、緊急セミナー開催! 学校に行くことができない子どもや家族の現状と課題とは
2021年10月、文部科学省が「2020年度に不登校と認定された小・中学生は19万人を超え、過去最多を記録した」と発表しました。カタリバではこの報告を受け、急きょオンラインセミナー「いま、不登校の現場では何が起こっているのか緊急会議」を開催。テレビや新聞など報道関係者約30名が参加しました。
セミナーでは、不登校の子どもを取り巻く現状を伝えるとともに、実際に不登校のお子さんを持つ保護者の方にも抱える課題などを話していただきました。さらに、今後の取り組みとして、カタリバが提案する「オンライン不登校支援プログラム」についても報告。不登校の子どもと家族の支援のあり方を考えたセミナーの様子をご紹介します。
不登校の児童生徒が8年連続で増加。
一方で、不足している公的支援
文部科学省が2021年10月に発表した「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以下、「問題行動調査」)によると、小・中学校における不登校の児童生徒数は19万6,127人と過去最多。小1から中3へと学年があがるほど、不登校の児童生徒の数が増加していることがわかりました。
しかし、病気などの理由で学校を長く欠席している子どもを含めると、学校に行くことができていない子どもの数はもっと多いのが実情です。セミナーの冒頭ではカタリバ代表理事・今村久美より、各種データから見える不登校の子どもの実情を説明しました。
「『問題行動調査』によると、学校を休みがちな”不登校傾向”にある子どもや、病気や経済的な理由、新型コロナウイルスの感染回避などで長期欠席している子どもを含めると、学校に行くことができていない子どもは28万7,747人で、前年度より13.8%も増加しています。
また、日本財団による『不登校傾向にある子どもの実態調査』では、不登校傾向の中学生だけで33万人という数字も出ており、学校に行くことができていない子どもが年々増加していることがわかります」(今村)
その一方で、こうした子どもをフォローする「不登校特例校」や 「教育支援センター」の設置は、自治体の「努力義務」として委ねられているため、その設置率は約6割にとどまるなど、なかなか増えてはいません。不登校の子どもの数に対して、公的支援が足りていないのが現状です。
「民間が運営するフリースクールやオンライン学習などの有料サービスを利用できるご家庭は、それなりに対応できますが、経済的にこれらを利用できなかったり利用が難しいご家庭も多くあります。私たちが問題視しているのは、公的支援が充実しなければ、そうしたご家庭の子どもが取り残されてしまう可能性が高いという点。取り残される子どもたちに、どのような支援の手を差し伸べられるかということです」(今村)
なぜ不登校になるのか?2人の母親が語った現状とは
セミナーでは、なぜ不登校の子どもが急増しているのか、その原因についても取り上げられました。
「『問題行動調査』によると、子どもたちが不登校になる理由は“本人起因”が58.9%で、最も多いとされています。しかし、令和元年度に不登校となり、その後、学校に登校または教育支援センターに通った実績がある子どもを対象に行った『令和2年度不登校児童生徒の実態調査結果の概要』では、“学校起因”も“本人起因”と同じくらい、もしくはそれ以上に多いという結果が出ています」(今村)
そこでセミナーでは、実際に不登校のお子さんを持つお母さん2名に登場いただき、話を聞きました。その1人、ひろさんの息子さんは、中学生になってすぐに不登校になってしまったそうです。
「息子は小学校5年生の時から不登校傾向にあったのですが、当時は10名程度の小人数クラスで先生との距離も近かったので、何とか登校できていました。しかし、中学校では生徒数がぐっと増えます。中学校側も小学校と連携していろいろ準備してくださり、息子も最初は頑張っていたのですが、勉強が難しくなったり部活に入らないなど、いくつかの要因が重なってプツッとい行けなくなってしまいました」(ひろさん)
もう1人のお母さんは、小1から中2までの4人のお子さんを持つめぐさん。小学4年生の次女が、小学2年生の3学期から学校に行けなくなったそうです。
「授業で、掛け算を言えた子から椅子に座るということをやったんですが、その時に言えず、自信を無くしたのが始まりでした。どんどん消極的になり、トイレに行きたいということも言えなくて、漏らして帰ってきたことも。そうしたことが重なって、不登校になっていったように思います。
次女が休みがちになると、小学6年生の長男も休みたいと言い出すようになり、兄弟にバラバラの対応をしなければならないのも親として苦しいところです」(めぐさん)
どちらのケースもいくつかの要因が重なっているものの、根本は「学校起因」でした。それだけに再び登校するのは子どもにとってハードルが高く、とても難しいと言えます。
思うような支援を受けられず、
スクールソーシャルワーカーなどの
サポートにつながるにも一苦労
子どもが不登校になったとき、親が最初に頼るのはやはり学校です。しかし、ひろさんとめぐさんからは、学校から思うようなサポートを得ることができていない現状も報告されました。
「先生によっては“勉強が遅れると後で自分が大変だよ”と娘にプレッシャーをかける方もいて、不信感を抱きました。不登校の相談にも具体的なアドバイスをいただけず、近所のNPO団体が主催するフリースクールに相談に行ったんです。そこで、スクールソーシャルワーカーさんの存在を教えてもらい、改めて学校に相談してスクールソーシャルワーカーさんに繋いでいただきました。
現在はスクールソーシャルワーカーさんが月に1〜2度、自宅まで来て次女に寄り添ってくれています」(めぐさん)
「うちも学校には頼れない状況です。不登校になり始めの頃は、先生もなんとかしようと頻回にメールや電話をくださったり、月1回、学年便りを持ってきてくれたりしていたのですが、長期化してからは2〜3カ月に1回、学年便りを持ってきてくださるだけになりました。
今は、カタリバさんの『キッカケプログラム』を活用し、息子もそれを楽しみにしています」(ひろさん)
「キッカケプログラム」とは、新型コロナウイルス感染症が広まってすぐからカタリバが行っている活動で、経済的事情を抱える家庭へオンラインでの伴走と学びの機会を届ける奨学プログラムです。ひろさんのお子さんはこれにより、勉強を続けている状況です。
「キッカケプログラム」に自宅から参加する子ども
学校の先生も皆、不登校児童のことを心配してはいるはずです。しかし、30〜40名の生徒を一人で見なければならず、不登校の生徒一人ひとりにまでは手が回らない場合が多いのもまた現実です。
不登校の子ども自身も、
勉強が遅れるのは大きな不安
ここで、視聴している報道関係者の方から質問がありました。それは、コロナ禍の中で広まった学校のオンライン授業は、不登校の子どもたちに役に立っているのかいないのか、ということ。その点をひろさんとめぐさんに尋ねると……。
「うちの地域は比較的早い時期にパソコンが配られたのですが、実際のオンライン授業はまだいないんです。先月に1回、テスト的に少しだけやったのが初めてで、その後は今のところ何もありません」(めぐさん)
「オンラインで先生とやりとりができることを期待していたのですが、最初のオンライン授業が“クラス全員でのホームルームに参加できたらしてみてね”というものでした。いきなりクラス全員の中に入るのは、息子にはハードルが高く無理でした。
その後、先生から“多くの先生がパソコンの操作を学んでるところで、まだできないことが多いんです。ごめんなさい”と謝られました」(ひろさん)
オンライン授業については、学校による差が大きいと言えそうです。オンライン授業がしっかり行われていない学校に通っている場合、不登校の子どもはますます教育的不利に立たされてしまうことが懸念されます。
事実、文部科学省が発表した「令和2年度不登校児童生徒の実態調査結果の概要」によると、学校を休んでいる子どもたちの多くが「勉強の遅れに対する不安」を感じています。
ひろさんの息子さんも、そうした不安を口にすることがあるそうです。
「息子は家が安心できるようで、学校に行きたい様子はありません。ただ、『キッカケプログラム』のメンターのお兄さんと話をする中で、“友達は欲しいな” “夢はあった方がいいし、高校は行かないとまずいよね”と気づくようになりました。“学校に通わない形での学び”をしたいのだと思います」(ひろさん)
「娘は今年の七夕の時、短冊に“学校にちゃんといきたい”って書いていました。その気持ちは強くあるけれど、現実にはまだ行けません。学校に行ったら授業が終わるまで帰って来れない、逃げ場がないという不安があるのだと思います」(めぐさん)
学校に行かなくても「学び」に繋がっていられる環境が、強く求められていることがわかります。
オンラインを活用した
新しい支援体制で、誰ひとり
取り残さずに学びにつなぐ
こうした実状を受け、カタリバでは「オンライン不登校支援プログラム」を構築するべく動き出しています。セミナー後半では、その目的や内容などについて説明しました。
「文部科学省の『GIGAスクール構想』により、生徒一人一台のタブレットの配布が進んでいます。これを活用することで、オンライン不登校支援プログラムが可能になると考えています。
カタリバのオンライン不登校支援プログラムの特徴は、個別の学習計画を作成するスタッフや児童生徒に伴走するスタッフをネット上に配置し、状況に応じた適切なサポートやコミュニケーションを行う点です。ネット上なので、いつでも、全国どこからでも利用できます」(今村)
「キッカケプログラム」の様子。さまざまなオンライン学習・体験プログラムにどこからでも参加できる
実際に不登校の子どもに伴走し、勉強の遅れをサポートしたまさしさんから、その様子の報告も行われました。
「私が伴走したのは小学6年生の男の子で、小学2年生から不登校になりました。5年生頃から少しずつ学校に行けるようになったのですが、自分で勉強が進めることができず遅れがちとの相談を受けました。
そこで、彼の夢である“生物学者”になる方法を一緒に考えるミーティングをしたんです。その中で、夢を叶えるためには勉強をすることが必要であることを、彼自身が感じ取ってくれました」(まさしさん)
1週間ごとの具体的な勉強の進め方なども決めたところ、まさしさんが促さなくても自分で勉強する日を決め、やった勉強の報告も自主的にしてくれるようになったとのこと。
「彼は現在、中学校に元気に通っています。成績もなかなか良く、自分のパソコンで生物についての作品集を作るなど、夢に向かって頑張っています」(まさしさん)
カタリバでは、まさしさんのように子どもに伴走する「子どもメンター」を全国から募集しましたが、募集人員44名に対して881名もの応募をいただくなど、予想をはるかに超えた多くの協力が集まりました。
「社会には多くの貴重なリソースが埋もれているということだと思います。これを活かせば、全国の自治体や学校で、不登校の子どもに対してオンライン不登校支援プログラムを活用することもできるのではないでしょうか。
従来の不登校支援は、子どもを登校させることしか選択肢がありませんでした。でも、それでは支援からこぼれ落ちてしまう子ども達が多くいます。オンライン不登校支援プログラムで子ども一人ひとりに合わせた“学びや居場所の選択肢”を提供できればと思います」(今村)
セミナー後には、報道関係各社からさまざまな質問があり、改めて子どものために何ができるのかという議論を深める場となりました。
カタリバでは引き続き、不登校の子どもやその保護者に寄り添いながら支援を続けていきます。
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かきの木のりみ 編集者/ライター
東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。
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