小規模校の弱みを強みに変える!オンライン「学校横断型探究プロジェクト」活動レポートvol.2 -実践校の先生に話を聞きました-
高等学校の新学習指導要領(2022年度から本格実施)に基づき必修化された「総合的な探究の時間」。総合的な探究の時間で求められるのが「生徒一人一人の興味・関心に応じた、個別最適な学び」です。特例に基づき、各高校では2019年度より総合的な探究の時間がスタートしています。
一方、前回の記事でも紹介したように、いわゆる「小規模校」では、指導にあたる教員の数が少ないなど、「個別最適な学び」を実現するためのリソースが不足している現状もあります。
2020年度からスタートした「学校横断型探究プロジェクト」は、総合的な探究の時間における「個別化」に困難を抱える小規模校において、学校同士が横断することで幅広い興味・関心からはじまる探究の学びを支援し、高校生たちの主体的な探究に伴走する試みです。
本稿では、3回に分けてこのプロジェクトの取り組みをレポートしながら、個別最適化された探究の学びのあり方、そして学校を超えた多様な価値観の交流によって生み出されるものについて考えています。
第2回目の今回は、2020年度からこのプロジェクトに参加している山形県立小国高等学校(以下、小国高校)の先生方お二人に、プロジェクトに参加した背景や、教員や生徒に起きた変化を伺いました。
「教員が不足」「専門外教科も掛け持ち」
小規模校が抱える課題
小国高校は、山形県の南西部にある人口7千人の町にある、町内唯一の公立高校です。全校生徒はわずか65名。今回のプロジェクトに参加している2年生も1クラス28名と「超」がつくほどの小規模校です。
そんな高校に通う生徒たちを「本当に素直な子たち。だまされないかと思うくらい」と笑う長岡先生は、このプロジェクトに最初に賛同してくださった先生です。
長岡先生:「昨年度の3年生は1学年に2クラスあったのですが、今年から全学年で1クラスになりました。町に唯一の公立高校で地域の方との距離感はとても近い学校ですが、日常的に学校内で関わる人は固定化しやすくて。多感な時期だからこそ、多様な人と出会って欲しいという思いはあります」
また、2年生の担当として本プロジェクトに関わる高橋先生は、こう語ります。
高橋先生:「私の専門教科は公民なのですが、小国高校では社会科教員が私一人なので世界史や地理といった教科も含めて教えています。教員1人が担当する教科・科目が幅広いため、教材研究が大変という側面もあります」
教員が何かを掛け持つという状況は教科指導に限らず、生徒指導や進路指導といった学校運営上必要な役割分担(校務分掌)でも、同様だといいます。
長岡先生:「本来一番時間をかけたいのは生徒との対話の時間ですが、教員一人一人が担う役割も大きいため、十分に時間を取れなくて。他の小規模校でも、同じ課題感を持っているのではないかと感じています」
●長岡郁子(ながおか いくこ)先生(写真左):同校1〜3年生の「総合的な探究の時間」を担当する。校務分掌では教科統括主任、生徒保健課長を兼務。教科は保健体育科。同校は赴任7年目。
●高橋謙介(たかはし けんすけ)先生(写真右):同校2年生の「総合的な探究の時間」を担当。校務分掌は生徒会を担当、教科は社会科。大学卒業後に同校へ赴任し、2年目。
同じテーマに取り組む生徒同士が、
もしオンラインでつながったら…?
先生方の口から語られた、生徒や教員が少人数であることに起因する多様性や、教員リソースの限界。
一方で、小国高校の「総合的な探究の時間」では、生徒の興味関心に応じて、一人一人が異なるテーマに取り組むことを大切にしています。
生徒の数が少ないことから、一人一人が取り組む探究のテーマも把握でき、地域との連携も盛んであることから地域の協力も得ながら様々なことに挑戦できる環境でもあります。
そんななか教員の悩みは、「生徒の探究テーマが全然重ならない」ことだそう。
生徒数の多い中規模校〜大規模校であれば、例えば「環境問題」「地域活性」「国際交流」など、生徒一人一人のテーマを括ったチームをつくり、グループワークを行ったり教員がチームごとに担当したりするということが実際に行われています。
しかし小規模校では、小国高校のように生徒一人一人の興味関心に応じたテーマに取り組むことを大切にしながらも、限られた教員リソースでサポートにあたることには限界があります。
「同じテーマに取り組む生徒同士がつながれたら」。
同校ではちょうどタブレット型端末の一人一台配備が実現したということもあり、オンラインを活用した本プロジェクトに参加することを決めました。
プロジェクトに参加して見えた
「いつもと違う」子どもたちの姿
昨年度から参加している学校横断型探究プロジェクト。授業の中では、意外な子どもたちの姿に驚かされているといいます。
長岡先生:「普段と異なるメンバーに囲まれると、ちょっとでも『すごいな』とか『かっこいいな』とか思われたい、という意識も出てくるみたいで(笑)。ある生徒は、オンライン交流の直前になって『資料にこの動画も入れたい』と相談してきたり。普段はそんな感じではないので、驚きました。
そもそも関わるコミュニティも固定化されているので、『この人は頭がいい人』みたいな、『この人はこういう人』という共通の感覚が生まれてしまいやすいんです。だから、生徒同士が張り合うような場面もあまりなくて。他校との関わりの中で、普段は見えない切磋琢磨する生徒の姿を見ることができているような気がします」
高橋先生:「人と話すのが得意な生徒もいますが、もちろん苦手な生徒もいます。学校横断探究プロジェクトの授業に参加する前は『やりたくない』という生徒も多かったんです。でもやってみたら面白いと言う生徒が多く、楽しそうにやっているなと、側から見て感じています」」
また、他校の生徒の発表からヒントを得てアウトプットの仕方を真似てみたり、調査を依頼したりといった、直接的な探究活動への影響もあったようです。
長岡先生:「他校の生徒さんがやっていた手形アートという方法を自分たちも試してみたいと話をしていたり、これは授業外の時間で実現したことですが、他校の生徒さんを対象に防災についてのアンケートを取得したりといったことも行われました。物語を書くというアクションをしていた生徒が、外部のコンテストに作品を応募しているという他校の生徒さんの話を聞いて、自分もチャレンジしなくてはと刺激を受けた事例もありました」
新たな関係性の中で、新しい自己を発見する。
同年代の存在に刺激を受け、アクションが生まれる。
「総合的な探究の時間」で目指されている「よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための」学びが、確実に生まれているようです。
近いテーマを持つ生徒たちが集まり話を聞いた「ゲスト講演会」。各校が地域でつながっている方々にもご参加いただき、地域人材を共有する機会となった。
「共通する悩みも多い」
教員同士も学び合うコミュニティへ
プロジェクトでは、参加する高校の教員同士でも連携をつくる動きを試行しています。
この10月には、テーマの近い生徒同士でグループを組み、その分野に詳しい教員が担当につく「テーマ別ゼミ」での授業を予定しています。現在はそこに向けて、教員同士のミーティングを行っている真っ最中。
長岡先生:「探究において、教員の関わり方には答えがあるわけではないですよね。だからこそ不安になるのですが、それぞれの学校で起きた具体的な事例を共有し、話し合えるのはとても良い機会です。その中で新しい考え方に出会えたり、客観的に自校のことを振り返ったりすることができていると感じています。
新しい取り組みのため今はまだ連携することでの負担感もありますが、これから行うゼミ活動では、生徒を担当する私たち自身が得る気づきや学びも多いのではないかと期待しています」
高橋先生:「小規模校同士なので、共通している悩みも多いと感じています。探究のことに限らず生徒のことや教科指導の話も出てくる懇親会が、個人的には楽しみです(笑)」
始まったばかりの「総合的な探究の時間」は、各校で教員一人一人が試行錯誤しながら、ノウハウを蓄積している状況です。そのため一校当たりの教員数が少ないことは、学校内で蓄積される知見の少なさに繋がる側面もあります。教員同士の情報交換により、知見の不足をカバーしていくことも期待しています。
3校の教職員合同での「生徒のプロジェクトへの伴走」をトークテーマにした交流会の様子
デメリットを逆手に取り、
一人一人が主体性を発揮できる場面を
増やしていきたい
同校では他にも、小規模校としての強みを活かす取り組みを続けています。「もっと他校の生徒と交流したい」という有志の生徒をきっかけに、2018年度から「全国高等学校小規模校サミット」を主催。年に一回、20校以上の小規模校が全国各地から参加し、交流を深める取り組みを行っています。
長岡先生:「小規模校サミットにせよ、この学校横断型探究プロジェクトにせよ、何より大事にしているのは生徒同士の交流、そして交流を通して生まれるお互いへのリスペクトですね。自分や地域への自信、誇りを感じて欲しいです。生徒には、自分たちで頑張ってみようと伝えています。うちの生徒たちはできるはずですから」
二人の先生に「そういった場面で、先生方はどういう関わりをされているのか?」という質問をぶつけると「特別なことは何もしていないですよ(笑)」と一言。
そんな生徒を誰よりも信じる先生方が期待しているのは、このプロジェクトが真の意味で生徒たちのものになっていくこと。
長岡先生:「学校横断探究プロジェクトの場をどういう場にしたいか、ということを生徒自身に考えて欲しいなと思っています。『自分たちがこの場をつくっている』と感じられるようになれることが、このプロジェクトの次のゴールかもしれません」
小規模校は人数が少ないからこそ、生徒一人一人が主体性を発揮できる場面も多いといいます。
今年度の合同授業も残すところあと2回。「ちょっとだけ背伸びができる」、そんな非日常の関係性を、高校生たちが主体性を発揮できる日常へとつなげていければと思います。
吉田 愛美 ユースセンター起業塾
1991年福島県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。地元の力になりたいと、転職を経て地元選出の国会議員秘書を勤めた後、2016年1月より現職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当した後に、全国高校生マイプロジェクト事務局にて学校支援や広報を担当。現在は、「ユースセンター起業塾」事業責任者として、10代のための居場所を立ち上げたいという団体や個人を支援している。
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