カタリバ寄付者の今井さんが見た「コラボ・スクールながの」レポート
台風19号による豪雨被害をうけ、NPOカタリバ災害時子ども支援チームは、10月15日(火)から長野県長野市で活動を始めてきました。長野市教委と連携し実施したニーズ調査の結果、保護者が復旧作業や仕事をしている間の子どもたちの居場所の必要性を痛感。たくさんの地域のボランティアの方々にご協力いただきながら、子どもたちの居場所「コラボ・スクールながの」を開設し、活動しています。
そんな「コラボ・スクールながの」の取り組みを、日頃からNPOカタリバのサポーターとしてご寄付をいただき、支援してくださっている今井さんが取材、記事にしてくださいました。御本人の許可をいただき、KataribaMagazineに記事の内容を転載、ご紹介させていただきます。
以下、いまいこういちさんのブログ記事より
「コラボ・スクールながの」でカタリバの
今村久美さん&戸田寛明さんに聞いた
10月12日から13日にかけて東日本を直撃した台風19号。その広範囲にわたる甚大な被害の様子に、被災者の皆さんはもちろん、多くの方々が心を痛めていることと思います。心よりお見舞い申し上げます。
車を走らせているだけでも、千曲川やその支流に、大きな岩がゴロゴロしていたり、流されたものが膨大に溜まっていたりする様子が延々と続く光景を目にするだけで暗澹とした気持ちになります。自分は何もできていないのではないか、そんなふうにもやもやされている方も少なくないかと思います。私もその一人です。ライターとして何ができるのか。認定NPO法人カタリバの代表理事である今村久美さんの「状況を発信してください」とのお声がけでどれだけ救われたか。発災からまもなく1カ月という11月10日(日)、 長野市立柳原小学校の体育館にて開設されている「コラボ・スクールながの」に今村さんとやりとりした翌日に勇んで取材しに出かけました。
「コラボ・スクールながの」では、マスコミ取材があることを前提に親御さんたちから撮影の許可を得ており、ここで使っている写真は顔と名前を一致させないことを原則として使用許可を得ています。
「コラボ・スクールながの」は、認定NPO法人カタリバが緊急支援として開設した、安心安全に過ごせる“子どもの居場所”のことだ。この日はおよそ50人近い子どもが走り回ったり絵を描いたり思い思いに時間を過ごしていた。
「今ここでやっていることは、子どもたちが思い切り体を動かせたり、誰かに聞いて欲しいという思いを発することができる居場所を作る、ということです。避難生活が長引いている中で、避難所、車の中、作業が進まない自宅で暮らしている方々も多いんですね。子どもたちにとっては、被災直後の街が水に浸かっているのを見たときの心理状況がトラウマになることもあるんですけど、どちらかというと家庭の中での親御さんたちのストレスが子どもに向かってしまったり、親御さんたちだってつらい中、誰に手を借りていいかわからないという状況が子どものストレスになることのほうが多いんです。むしろそちらが長期化するし、大変だったりします。また被災している方は、小さなお子さんがいるとどうしても作業がはかどらないという現状があります。家の泥かきの現場は危険も大きく、子連れでは作業できません。その方々にとっても子どもたちを安心安全に無料で預けられる場所が必要です。避難所にも自由に遊ぶスペースはなく、子どもたちのストレスもたまりがちです。子どもたちの居場所があれば、親御さんも家の片付けを進めることができますし、そこで過ごした子どもたちが楽しかったよって帰ってきてくれれば安心もできますよね」
カタリバ代表理事の今村久美さんはそう語る。子どもたちの輪から離れて、お話しはしてくれていたが、その目は子どもたちの動きを追いかけたまま。
「今日は少し荒れているんですよ。暴力を振るったりけんかも起こりやすくて」
実は私が体育館に入った瞬間も、子どもが投げたおもちゃがビュンと飛んできて驚いた。今村さんらスタッフは、それら起こったこと一つ一つに対して、丁寧に子どもの言い分を聞き、ルールをともに決めて解決していく。私がカメラを持っていると、自分に撮らせてほしいとあちこちから奪い合う手が伸びてくる。順番が待ちきれなくて、こちらに罵声を浴びせてくる女の子もいた。いや、それがたまたま好奇心旺盛な子どもたちばかりだったから、そうなったのかもしれないが、たしかにテンションは高めだったかもしれない。
認定NPO法人カタリバは、学校に多様な出会いと学びの機会を届け、社会に10代の居場所と出番をつくるための活動に取り組んでいる団体だ。学生のボランティアスタッフが中心となって高校生と本音で語り合う「カタリ場」、身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、主体性を持って進め、その実現・解決の体験を発表し合う「全国高校生マイプロジェクト」など、児童・生徒を対象にしたさまざまな活動を行なっている。
彼らは東日本大震災のときから被災地支援を行い始めた。今回の台風19号に関しては、10月13日と14日に被災状況の大きさや、学校の被災状況、住宅被害の数などを調査したうえで全国の中でも被害の大きいであろうという想定のもとに長野市に現地調査に入ることを決定。そして15日には現地の状況確認と親御さんたちのニーズ調査を開始し、準備期間2日という非常にスピード感あるスケジュールの中で「コラボ・スクールながの」を開設に至った。
「私を含めた3名のスタッフが長野に入りました。街の状況を調べて、これは長期化しそうだなということを共有した後で、避難所を回って、親御さん、教育機関に希望を聞き出すためにひたすらヒアリングをしました。同時に行政の方に連絡を取って、私たちの方で人もお金も全部集めるから親御さんに2次アンケートを取らせてほしいということをお願いしました。行政が運営している、親御さんに直接届くメールサービスがあるのですが、子どもを預かる場が必要かどうかを投げかけたら数時間で80件くらい回答がありました。7割以上が今、子どもたちの居場所を作ってくれれば作業に集中できるし、子どもを構わないことでストレスを与えずに済むという答えでした。その結果、場を作る必要があるという判断で、すぐ行政の方に相談し、この小学校の体育館を使って開設したのが台風の6日後でした」(今村さん)
「コラボ・スクールながの」のリーダーを担当している戸田寛明さんは続ける。
「今、日本はいつどこで同じように誰かが被災してもおかしくない状況になっています。今回はすごく早い段階で現地入りして居場所を作りました。台風15号では千葉県が被災しましたが、あの時は事前調査の段階で、報道を見ていても被害の大きさが確認できなかったこともあって現地に入るのに1週間くらいかかりました。しかし現地の役所の方、被災者の方からは、そういう支援があるならもっと早くに来てほしかったという言葉をいただいたんです。というのは電気が止まり、最初の1週間は過ごすのがものすごく大変で、学校も休みになってしまって子どもの居場所がなかったんですね。学校が始まるまでの間こそもっとも支援が必要だったというわけです。その教訓があったから、とにかく早く現地へ行こうと決めていたわけです」
「コラボ・スクールながの」ではアーティストなどが訪問して子どもたちを楽しませる機会がある日は別として、基本的には、子どもたちがやりたいことをして過ごすのが前提。つまりお昼とおやつ以外は決まったプログラムはない。
「子どもたちは抑圧されていて、安心安全に遊ぶ場所がない状態なので、言われたことをやるんじゃなくて、その子がしたいことができるということが大事だと思っているのでプログラムは組んでいません。大人たちも管理をするのではなく、子どもたちに任せて、大怪我をしないように見守りをしましょうというスタンスです。もし周囲になじめない子がいたとしても、これはどう?と促しはしますが、強制することはしません」(戸田さん)
この日は、カタリバのメンバーが3名と、ボランティアとして近隣の保育士さん、近くの児童館や児童相談所の職員さんなどが子どもを見守った。この1カ月に地元の方を中心に約50名もの大人がボランティアとしてかかわっているという。
「コラボ・スクールながの」はおよそ1カ月、平日は柳原小学校の向かいにあり、自衛隊やボランティアの基地となっている東部文化ホールの一角を、週末は柳原小学校の体育館を使って開設されてきた。学童に職員が動員できる体制が整ったことで、11月11日の週からは一旦平日の運営を終了し、土日祝は、東部文化ホールで子どもたちを受け入れる体制になる。もし、支援が必要ならば再び平日の開設することもあるという。
「私たちも、最初は11月4日で終われるだろうと想定していたんですよ。けれど親御さんの被災状況やニーズのアンケートを取って、長期戦にする必要があるということを改めて確認したんです」(今村さん)
「支援はまだまだ必要だなと感じています。最初は緊急支援フェーズ(局面)が終われば、ニーズがなくなれば支援を終了するということも考えていたんですけど、まったくニーズは減らず、引き続きこうした場所を運営してほしいという声ばかりが届いているのが現状です。あるお母さん方の話を聞くと、避難所で暮らしていたけれども小学校低学年の子どもがどうしても体を動かす場がなくてうるさくしてしまうと。周りに対して心苦しくなって避難所の駐車場に車を置いて家族で生活をしているそうなんです。また土日に預かってくれるだけでも、その時間に家の掃除ができるから助かるという声も未だに多いですね。
一方で、子どもの様子が前よりもよくなってきたという声も聞こえてくるようになりました。発災直後は夜眠れない、ぐずってしまうなど、昼間もエネルギーがありあまって暴走しちゃったりする状況があったというお話が多かったんです。でもここに通うようになってからは、日中は全力で体を動かせるので、ぐっすり眠れるようになったしストレスも減ったように見える、感情の起伏が激しかった子が落ち着くようになってきたと。確かに最初のころはここにやってくる子どもたちのテンションが異様に高くて暴れまわる感じだったんです。男の子たちの中にはまだそういう子もいますけど、全体的に見ると以前と比べ落ち着いてきたという印象はあります。それだけ子どもにとってストレスを発散させる場所は大事で、ここがその機能を担えているのかなと感じています」(戸田さん)
とはいえ1カ月という時間は決して短くはないし、ここに未だに足を運ぶ子どもが50人もいるというのは見逃せないことだと感じる。では「コラボ・スクールながの」は今後どういう動きをしていくのだろう?
「カタリバのスタッフが長野に常駐するということは減っていくかもしれませんが、責任を持って運営を続けていきます。この支援の場を、僕らだけではなく、現地の方と共同して運営していく方法を探っていましたが、大方その方向で目処が立ちました。ただ支援完了の線引きは難しくて、答えはまだありません。しかし決してもうできません、すみませんと言って引き上げるようなことは考えておりません。必要な支援が必要な形で残るよう状況を整えて長野から去っていく、最終的にはそうしたいと考えています」(戸田さん)
ところで、私たちに今できることはどんなことがあるだろうか。
「大きく分けて二つの方法があると思います。一つはボランティアとして、子どもの見守りを一緒にやっていただくということ。もう一つは、ご寄付です。私も今村も、今回即座に動けたのは、日ごろから月々いくらとご寄付をしてくださる方がいらっしゃるから、すぐに支援を始めようという決断ができたんです。よくお金では申し訳ないというお話も伺いますが、毎月のご寄付をいただけることが、どこかで災害が起きた時に僕らがすぐ動けるという要因になっているんです」(戸田さん)
カタリバでは月々1000円以上の寄付をしている支援者が10,000人以上にものぼる。
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「今回の長野市の被災地の状況は、被災しているところと被災していないところが、天国と地獄のようで、道一本隔ててという感じではっきりしているんですね。なので、被災した方々はもちろん大変なんですけど、被災されていない方々もサバイバーズ・ギルトじゃないんですけど、自分が役に立っていないということでまたうつ状態になったり、心を痛めていらっしゃる。それでも今回は近隣の方々がすぐに手伝いますと言って集まってくださった。人が困っているんだったら行かなきゃという関係が平常時からあるからなのか、皆さんの助けがすごく集まったというのはこの地区のコミュニティの強さを感じます」(今村さん)
取材・編集・文・写真=いまいこういち