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「多様な選択肢のある寛容な社会を目指したい」“複業”を実践していた彼女がカタリバを選んだわけ/NEWFACE

vol.356Interview

date

category #インタビュー #スタッフ

writer 田中 嘉人

Profile

阿久津 遊 Yu Akutsu room-K 支援チーム責任者

宮城県生まれ、岩手県育ち、福島大学卒業。子ども向け創造表現活動を推進するNPO法人でのプログラミング/STEAM教育の普及プロジェクトの企画開発、こども食堂の中間支援団体でのプロジェクトリーダーなどを経て、2021年よりカタリバに参画。オンライン不登校支援事業『room-K』の支援チーム責任者として、個別伴走型支援の設計やチームづくり、支援者マネジメントなどに従事。


ここ10年で、仕事のあり方・捉え方は、まったく違ったものになってきている。終身雇用は崩壊、転職は当たり前のものとなり、複業やフリーランスも一般化。テクノロジーの発達によって無くなる仕事予想も大きな話題となった。給料や肩書よりもやりがいや意味を重視する若者も増え、都会から地方にUIターンすることも珍しくなくなった。世界が一斉に経験したコロナ禍をへて、今後ますます働き方は多様に変化していくだろう。

そんな中カタリバには、元教員・ビジネスセクターからの転職・元公務員・元デザイナーなど、多様なバックグラウンドを持った人材が就職してきており、最近は複業としてカタリバを選ぶ人材もいる。その多くは20代・30代。彼らはなぜ、人生の大きな決断で、いまNPOを、いまカタリバを選んだのか?

連載「New Face」では、カタリバで働くことを選んだスタッフから、その選択の背景を探る。

カタリバのオンライン不登校支援プログラム『room-K』に、3年半前から業務委託パートナーとして携わってきた阿久津遊(あくつ・ゆう)。

2024年春から入職し、同時に『room-K』の支援計画コーディネーターやメンターといった支援スタッフを取りまとめる支援チーム責任者となった。

自身の興味に従って、教育支援からゲストハウススタッフ、書店員、雑貨店員、ライター、編集者などさまざまな“複業”を実践してきた彼女は、なぜカタリバをメインにする決断をしたのか。彼女のユニークな仕事観と『room-K』への想いを聞いた。


 

働き始めてふと思い出した中学時代の“もやもや”

——2021年から不登校支援プログラム『room-K』に業務委託パートナーとして携わっていますが、それ以前はどのような仕事をしていたのでしょう?

大学卒業後は実家のある岩手で震災ボランティアをしたり、映画館や塾講師のアルバイトをして暮らしていました。その後大学の先輩が東京で開業したゲストハウスのお手伝いをきっかけに上京し、住み込みで働きながら複数のNPOでインターンをしたり、いろいろなところでアルバイトをしながらばたばたと暮らしていました。

20代半ばからは子ども・教育系の活動が中心になり、子ども向けワークショップの企画運営や子ども食堂の中間支援などに携わっていました。

——教育を中心に活動するようになったのには、何か理由があったのでしょうか?

東京で仕事を始めた頃、インターン先の先輩に進路を相談したとき、「子どもの頃からずっと周囲や社会に対してもやもやしていることって何かある?」という問いをいただいたことがきっかけですかね。

私は岩手県盛岡市の端っこの山に囲まれた地域で育ち、学校生活や集団活動も得意ではありませんでした。ただ、本や雑誌が好きで、近所のスーパーの書籍コーナーの雑誌を端から読んだり、キャンプや弁論大会など自治体が主催しているような学校外の活動にもよく参加していて。

今思えば「世界にはいろいろな人間がいて、いろいろな生き方がある」という感覚を自然に持てていたんですよね。

でも周囲には「私なんてバカだから・・・」とか「私なんてどうせ・・・」など、自分の可能性にふたをするような発言をする同級生が多くいて、そのことが単純にすごく悲しかったことを覚えています。

まだ中学生くらいだったので、自分の具体的な知識や経験に基づいているのではなく、もしかしたら先生や両親の言葉をそのまま口にしているのかなと感じたんですよね。インターン先の先輩からの投げかけでこのことを思い出して。そこから、子どもがそんなふうに思わなくていい、みんながのびのびできる社会にしたいと考えるようになり、子どもの教育に携わってみようと思いました。

“複業”のひとつとして、カタリバを選んだ理由

——教育の仕事に関わるようになりながらもあえてひとつの団体に絞らなかったのは、どういう想いがあるのでしょう?

大学卒業後のキャリアがいわば複業スタートだったので、それが自然な選択肢だったんです。仕事によって出会える人もやれることも違いますし、社会へのアプローチの仕方も異なる。

同時並行でいろいろなことをやっているからこその刺激も好きで、特に20代前半は「体力のあるうちにやりたいことを全部やるぞ!」と詰め込んで、NPOでのインターンの他に、雑貨屋さんや本屋さんでのアルバイト、ライターや編集者と、忙しいながらも充実した毎日を過ごしていました。

——1つに絞り込めないことに不安に感じる人もいますが……。

不安はなかったというか、それしかなかったというか……。逆に就職活動のようなことが全然できなかったので……。当時、バックパッカーになったり起業したり、ワーキングホリデーに行ったりする大人が周りに多かったので、「人生なんとかなるだろう」とも思っていました(笑)

——そうした中でカタリバの仕事と関わるようになった経緯を教えてください。

カタリバの代表・今村久美が、新規事業に関わる業務委託スタッフをSNSで募集しているのを見かけたことがきっかけです。東日本大震災のときから東北でさまざまな活動をしているカタリバのことは、昔から知っていました。何かできることがあれば関わってみたいなと、軽い気持ちで説明会に参加しました。

——業務委託として関わるようになってからの仕事内容について教えてください。

当初は、週2〜3日ぐらいから関わり始めました。room-Kは、「子どもと保護者への個別伴走」と「集団プログラム」の2軸での支援を行っているのですが、当時は個別伴走のチームリーダーとして、支援スタッフの採用や支援の設計などに携わりました。不登校という課題を知れば知るほど、根深さを感じたことを覚えています。

一人ひとり異なる複合的な不登校理由、各家庭の状況に合ったリアルでの相談先や居場所を見つける難しさ、保護者の皆さんへの伴走支援の必要性、学校の先生方の負担など、教育や社会全体のさまざまな問題が絡み合っていることに気付かされました。

——オンライン支援という点はどんな風に感じられていましたか。

上記のような課題があるからこそ、住んでいる地域に関係なくつながることのできるオンライン支援に可能性を感じていました。ご家族から「この10年誰にも言えなかった悩みを話せました」と言っていただいたこともあったり、ご近所さんではないオンラインの「ナナメの関係」だからこそ伝えられる悩み、発見できる課題がある。

オンライン支援と聞くと閉ざされたイメージを持たれたり、「引きこもりを助長するのでは?」と心配されることもありますが、私は多くの人に開ける手段の1つとして価値を感じています。でも、オンラインだけでなんとかなる・万能だと思っているわけではなく、むしろ学校をはじめとするリアルの支援者の皆さんとの連携をとても大切にしています。

学校との関係がうまくいっていないご家庭に「こういう相談の方法もありますよ」と提案したり、福祉的な部分で課題を抱える保護者さんには「スクールソーシャルワーカーと一緒に話を聞いてみませんか?」と促したり。オンラインだからこそキャッチアップできるニーズをもとに、保護者や子どもたちが自分らしく暮らしていけるようにサポートしていきたいと思っています。

現場に一石を投じることができるかもしれない。『room-K』の可能性

——2024年春から正職員になられましたが、仕事を『room-K』に絞ることにした理由とは?

正職員にならない理由がなかったから……でしょうか。オンラインの可能性をもっと追求してみたいと感じていましたし、解決したい課題もたくさんあったので、「100%に近い形でコミットしたときの世界を見てみたい」と思ったんです。

2021年にスタートしてから数年経ち、さまざまなオンライン支援の形も生まれていました。学校の別室からroom-Kを利用する子どもがいたり、週1回はroom-Kでメンターと話して週3回は学校に部分登校するなど、オンラインとリアルのいいとこ取りというか、自分に合った環境をカスタマイズして選択するこどもたちも多くて。

まだまだいろいろなモデルをつくり出していく必要がありますが、そもそも多様な選択肢が存在すること、そして、それらの選択肢をより多くの人が選び取れる社会にしたいなと思うんです。

『room-K』のようなメタバースの居場所が自治体にとって当たり前の選択肢の1つになれば、「オンライン支援がいけるなら、あの手段やこの手段もあり得るんじゃない?」とさらに選択肢が広がるかもしれないですよね。そんな感じでどんどん寛容な社会が広がることを願って、その一歩になるような事業にできたらと思います。

——入職と同時にチーム責任者になりましたが、気持ちの変化はありましたか?

それまでは1つのチームのリーダーでしたが、より広い範囲をマネジメントすることになったことで、メンバーについて考える機会が非常に増えました。やっぱりメンバーと話す時間は前より増えましたね。

カタリバには、1対1の対話や個人の希望・思いを大切にする文化があります。この規模のチームをマネジメントする不安ももちろんありますが、メンバー一人ひとりの思いや力をどう活かし、いかにみんながのびのびできる環境をつくれるかという視点で考えたいですね……道半ばですが……。

最近では「自分1人で抱えなくていいんだ」と肩の荷がおりる感覚もあって、少しずつ考え方も変わってきています。日々いろいろな問題が発生しますが、個々人で抱えず、いかに「チーム」全体の問題に持っていけるかがマネジメント上の私の挑戦だと思っています。

——子どもたちと直接関わる支援計画コーディネーターやメンターの方たちとの対話で、意識していることはありますか?

支援者の皆さんって本当にすごいんですよね……リスペクトの気持ちしかないです。彼らがいないと『room-K』は成り立たないし、支援の最前線にいる皆さんの言葉や姿勢に私はすごく惹かれています。

先日もある支援スタッフから「子どもを”見張る”ことと”見守る”ことって違うよね」という言葉がサラッと出てきてハッとさせられたり。自分自身の気づきに直結することが多いので、とにかく「話を聞く」ことを大事にしています。

——最後に、今後の目標について教えてください。

立場が責任者に変わったことで、言葉の持つ力について考えています。ノリと勢いで行動することが多いので(笑)チームメンバーを変な形で振り回さないようにしたいのと、少しでもメンバー一人ひとりの力を発揮できるような場所にできたらいいですよね。勉強中です。

もう1つは、先ほども少し触れましたが、オンラインをきっかけにいかにその先の持続可能な支援につなげていけるかという、リアルとオンラインの往還型の支援を強化したい気持ちもあります。あと最近は、小中学生で不登校だった高校生・若者向けの支援も気になっています。いろいろやりたいことが出てきますね……(笑)

 


 

「カタリバじゃなかったら正職員になっていなかったかもしれない」

阿久津はインタビューの最後に、自分の選択についてこう振り返った。実際に入職して感じるのは、チームで協力する楽しさと、人の感情や意見に眼差しを向ける文化の良さだという。

一般的な会社では口にしづらい「悲しい」「辛い」といった感情も自然と吐き出すことができることで、心理的安全性が保たれているのかもしれない。

新たなミッションと共に新たなスタートを切った彼女の今後に注目したい。

 

 

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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