もうすぐ、3月11日です。あの日から8年。東北には、今なお仮設住宅で暮らす方、やっと自宅を再建することができた方、地元からは離れた場所で暮らしている方など、あの日から生活が一変した方が多くいらっしゃいます。今日は、震災当時小学6年生だった、ゆりえさんのお話をお届けします。
ゆりえさんは現在、大学に通いながら、東京にあるカタリバの事務所でアルバイトとして働いています。彼女の出身は岩手県大槌町。カタリバは大槌町で、2011年から被災地の子どもたちのための放課後学校コラボ・スクールを運営してきました。ゆりえさんはコラボ・スクールの卒業生です。
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(成人式にて、晴れ晴れとした笑顔のゆりえさん)
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(高校時代のゆりえさん。昼休みは教室でおしゃべりするのが好きでした)
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震災当時、ゆりえさんは小学6年生でした。みんなで卒業式の準備をしているときに、地震が起こりました。ゆりえさんの両親はその日、たまたま用事で町から離れていて、ゆりえさんをすぐに迎えに来ることができませんでした。
親戚の家で迎えを待ち、2週間ほど経ってからやっと両親に会えました。自宅は壊れていたので、避難所で3、4か月ほど過ごし、仮設住宅に移りました。
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(震災3ヶ月後の大槌町の様子) |
コラボ・スクールのことを知ったのは、中学3年生の夏でした。お母さんに「受験勉強のために通ってみたら?」と言われて、通い始めました。
仮設住宅は狭く、勉強に集中できる自分だけの部屋はありませんでした。2段ベッドの上に小さいテーブルを置いて、そこで勉強していました。壁も薄く、隣の家からテレビの音や、咳の音まで聞こえてきました。
当時、勉強が苦手であまり好きではなかったゆりえさん。コラボ・スクールに通い始めると、だんだん勉強が楽しくなってきました。
「学校では、できていないところを注意されることが多かった。でも、コラボ・スクールの先生は『ここまでの考え方はできてるね』と、一つひとつ褒めてくれました。それがうれしくて、のびのび勉強できるようになりました。褒められて伸びるタイプなんです(笑)」
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(勉強も楽しいかも、と思い始めた中学時代のゆりえさん)
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希望の高校に入学することができたゆりえさんは、高校生になってからも、コラボ・スクールに定期的に通いました。勉強のためだけではなく、スタッフと話をすることも一つの目的になっていました。
「自分を肯定してくれたのがすごくうれしかったです。そんなふうに接してくれる大人はほかにいなかった。だからよく会いに行きました」
高校の部活のトラブルで悩んでいたとき、誰にも相談できず一人で抱え込んでしまったことがありました。反抗期で、親には言いたくありませんでした。学校の先生に言うのもためらわれたし、友だちに相談して暗い気持ちにさせるのも嫌でした。
ゆりえさんの沈んだ顔に気づいたスタッフに「どうしたの?」と声をかけられました。部活の後輩とのコミュニケーションで悩んでいることを話すと、「ゆりえは優しいよね」と言って、アドバイスをくれました。ゆりえさんは、「ここでなら、悩みを話していいんだ」と思えました。
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(コラボ・スクールの子どもとスタッフ)
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地域課題に取り組む課題解決型学習『マイプロジェクト』にも挑戦しました。高校1年生のときに企画したお年寄りと交流するイベントは、とてもうまくいって、自分も楽しめました。
2年生のときには、震災前の大槌町の風景を描いた「壁画」を作ることを企画しました。壁画を作ろうと思った背景には、震災以降感じていた、大槌町の町民の間の”心のすれ違い”がありました。
ゆりえさんは、同じ町に暮らしている人たちが”家をなくした人”、”家族をなくした人”、”どちらもなくしていない人”のように区別しあい、壁ができてしまっているように感じていました。そこで、自分の企画をきっかけに、みんなで大きな壁画を作ることで、町民の間の心の壁をなくしていきたいと考えました。
壁画制作を実現するためには、町の大人たちとも話し合う必要がありました。高校生だったゆりえさんは、「どういう思いで、なぜやりたいのか」をうまく話せませんでした。立場が異なる人に、自分の気持ちを伝えるのは難しいことなのだと知りました。
壁画は、結局、完成させることはできませんでした。ゆりえさんにとっては、悔し涙を流す結果となりました。
「このときの失敗体験から、自分の気持ちをまず言葉で伝えなければ、何も始まらないと気づきました。」
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(仮設住宅のお年寄りとの交流イベントを企画)
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現在、東京の大学に進学し、社会福祉を学んでいるゆりえさん。週に1度、カタリバのオフィスで事務のアルバイトをしています。
ゆりえさんは、震災の体験のことをあまり考えないようにしてきました。でも、あの日から今日まで8年近い時間を振り返ると、自分の気持ちにも変化があったことに気づきます。
高校を卒業して、地元を離れて生活してみたときに「あの体験はいろいろな意味で特別だったんだ」と気づきました。地元では、みんなが当たり前に共有していた体験だったので、そのことがわからなくなっていました。
「震災という特別な、貴重な経験をしたということに気づいたのだから、それを生かしたいと思うようになりました。当事者として、何か役に立つことができないかなと思っています」
ゆりえさんは、あの日以降の震災体験を見つめなおしながら、時には言葉にして誰かに伝え、いつかは社会の役に立つような存在になろうと、一歩ずつ成長しています。
彼女と同じように、コラボ・スクールで共に学んだ仲間たちは、場所は違えど、みんながそれぞれ道を歩んでいます。
成人式のために、大槌町に帰省したゆりえさん。親友のけいこさんと再会し、大学の友だちのことや、進路の悩みなど、互いの近況を話しあって盛りあがったそうです。
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(成人式でのけいこさん(左)とゆりえさん(右))
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安心できる場所がある。心を開ける人がいる。だから、自分を信じて挑戦できる。どんな環境に生まれ育っても、自由に未来を描ける社会を目指して。カタリバはこれからも、子どもたちを見守り、時に伴走し、未来へと進み続けます。
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