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「常に誠実でありたい」NPOを支えるファンドレイジングのリアル/Spotlight

vol.335Interview

date

category #インタビュー #スタッフ

writer 田中 嘉人

Profile

川井 綾 Aya Kawai ファンドレイジング部ディレクター

1984年生まれ 。宮城県仙台市出身。国際基督教大学卒。 神奈川県にてシステムエンジニアとして3年半勤務。東日本大震災を機に、2011年より認定NPO法人カタリバに参画。岩手県大槌町にて、放課後学校コラボ・スクール大槌臨学舎の立ち上げ、臨学舎の広報・事務局スタッフとして勤務。2015年よりファンドレイジング部にて、寄付管理や寄付者向けイベントなどを担当。2024年4月よりファンドレイジング部ディレクターを務めている。

度重なる自然災害やコロナ禍など、昨今は社会全体、さらには子どもたちの置かれる環境に大きな影響を与える出来事も少なくない。

すべての10代が意欲と創造性を育める未来の当たり前を目指し、全国各地で活動を行っているカタリバ。
その現場では、状況の変化に合わせて取り組みの内容を柔軟に進化・変化させつつ、目の前の子どもたちに向き合っている。

シリーズ「Spotlight」では、現場最前線で活動するカタリバスタッフの声を通して、各現場のいま、そして描きたい未来に迫る。

NPOを運営していくうえで重要な支えとなる「寄付」。

カタリバで寄付の募集や受付、寄付後のお礼やご報告など、寄付に関する一連の業務を担当するのがファンドレイジング部だ。今回はディレクターである川井綾(かわい・あや)をインタビュー。

NPOなどの民間非営利団体ならではのファンドレイジングという仕事。一体どのような仕事で、どういった想いで取り組んでいるのだろうか。

NPOのファンドレイジングとは?

 

——まず、ファンドレイジングという仕事内容について教えてください。

カタリバにご寄付いただく際の手続き全般を担当しています。具体的には、寄付の募集、クレジットカード、銀行振込、口座振替などさまざまな決済手段でご寄付いただくためのシステム構築、お問い合わせ対応、寄付金受領証明書の発行など。寄付者の方へのお礼とご報告も大切な仕事です。

寄付者の方との基本のコミュニケーションは月に1度のメールマガジンで、その他、年1〜2回オンラインで活動報告会をしています。活動報告会では、カタリバの支援を受けて卒業した元生徒に参加してもらい、話をしてもらうこともあります。
コロナ禍以前には、ご支援くださっている企業の大きな会議室をお借りし、寄付者の方と卒業生や子どもたち、カタリバ職員や、教育委員会や関係団体の方など、総勢250名が一堂に会して活動報告会をしたこともありました。

ちなみに、カタリバにご寄付いただく方のほとんどが、インターネットでの検索や、SNSなどで表示される広告がきっかけでカタリバの活動を知ってくださった個人や企業の方々です。例えば、街頭や郵送などで、私たちから寄付のご依頼をするなどはしていません。

——寄付者の方たちにとってはファンドレイジング部がカタリバの“顔”とも言えると思いますが、コミュニケーションにおいて工夫していることなどはありますか?

毎月発行しているメールマガジンでの活動報告では、子ども支援の現場でのエピソードを通して、ご寄付があるからこそできていることや、カタリバの活動の意義をお伝えしています。

年代や価値観、教育に関する思いが異なる寄付者の方々に、どんな表現なら伝わるか?を担当スタッフが毎月試行錯誤しながら作成しています。
例えば、不登校支援に取り組む事業についてお伝えをする際には、「不登校」という事象の背景や、社会の変化なども含めて丁寧にお伝えするようにしています。

カタリバの幅広い事業を端的に表現していくために

ファンドレイジング部のメンバーとの打合せ風景

——他のNPOのファンドレイジングの仕事と比較して、カタリバならではの部分はありますか?

カタリバの活動は端的に表現することが難しいと感じています。「カタリバは何をしている組織ですか?」と聞かれて「子どもたちの支援をしています」とは言えるものの、事業の内容が多岐にわたっているので伝わりにくいんです。

たとえば、「子どもたちに食事を提供している団体です」であれば説明もしやすいですよね。カタリバが行なっているのは、「居場所を開設して、スタッフが“ナナメの関係”で子どもたちに寄り添って、学習支援をして、人生を切り拓いていけるように伴走する」という一連すべてが活動内容で、食事支援はその一部です。

興味を持ってくださった方たちや寄付者の方々にカタリバの活動の意義や価値、社会への影響力などを正しく、わかりやすく伝えていくことは難しいですが、そこが私たちの仕事の醍醐味だとも思っています。

——仕事のなかでやり甲斐を感じるのはどのような時でしょうか?

寄付者の方々、スタッフ、子どもたちや卒業生などが一堂に会する対面での活動報告会は、面と向かって日頃のご支援の感謝をお伝えできる場でもあり、子どもたちの成長やスタッフのリアルな声を届けられる場です。最近はなかなかリアル開催ができていないのですが、またいつか開催したいなとは思っています。

他には、業務改善や新しい仕事を立ち上げて仕組みづくりをしている時はワクワクしますね。「いかに効率的に業務を設計できるか」「作業時間を短縮するためにこういうツールを導入したほうがいいんじゃないか」などを考えるのがすごく好きで。

2020年に寄付管理システムをリニューアルをしました。同じクラウドサービスなのですが、よりセキュアに効率よく寄付管理ができるように、ベンダーさんと一緒に一から開発をしました。これまでできていなかったこと、課題に感じていたことが解消されたときはうれしかったですね。

——カタリバのファンドレイジング業務もまだまだ改善の余地があるということでしょうか?

そうですね。今は新たなチーム責任者が担っていますが、セキュリティ面の対応や決済方法の拡充など、社会の変化に合わせてアップデートしていくべき部分はあるので、日々改善は続けています。

明確な“WILL”があるタイプではないけれど

——そもそもファンドレイジングの経験がなかったなかで、いかにして仕事のやり方を確立していったのでしょうか?

岩手県のコラボ・スクール大槌臨学舎にいたときに事務周りを担当していて、業務の一部として寄付企業への対応もしていたので、ある程度のベースはありました。

そのうえでの異動だったので、少しずつ仕事の幅を広げていったイメージです。もともとシステムエンジニアとしてキャリアをスタートしていたので、寄付管理ツールの使い方などについても戸惑うことはありませんでした。

ただ、ファンドレイジング業務は未経験ですし、マーケティングの知見もありませんでした。上司や先輩、同僚に教えてもらいながら自分なりにやり方を身につけていきました。

寄付企業の担当者の方に育てていただいた部分も大いにあります。当時担当していた外資系企業の方から「川井さん、こうしたらいいんじゃない?」とたくさんアイデアや提案をいただいて。寄付企業の方々も巻き込んだマイプロジェクトアワードというイベントの立ち上げをする際には、立場や役割を超えて、その場をよりよいものにしていくためにはという視点から色々なアドバイスをいただきました。彼女の仕事の進め方や姿勢からは学ぶところが大きかったなと思っています。

——ブレイクスルーを実感したタイミングはいつでしたか?

大規模な活動報告会をやり遂げた経験は大きかったですね。それまで数百名規模のイベントを企画した経験はなかったのですが、代表や事務局長と相談しながらプログラム内容を考え、巻き込む人を決めて、スタッフの役割分担をして……という経験は今につながっている気がします。

—考え方として変わった部分はありましたか?

やりたいことが明確になかったとしても、やるべきことや求められていることを自分なりに動き、やってみることで切り拓かれていく道があることを実感しました。

カタリバには“WILL(実現したいこと)”がある人が非常に多いんです。でも、正直、私はそうではなく、「川井さんは何を実現したいの?」と聞かれて戸惑うこともありました。明確にやりたいことがないことは、ダメなのだろうかと悩むこともありました。

ファンドレイジングの仕事の難しさの1つに、「寄付をたくさんいただくこと」が目的ではないという点があります。あくまでも「事業運営に必要な資金を、必要な分だけ寄付いただくこと」が大切なんです。事業運営に必要な金額よりも多く集めすぎることは、求められていません。

事業規模や必要な予算を決めるのは、事業側です。私たちファンドレイジング部の意志で寄付を集めるのではなく、「事業側が必要な分だけ寄付を集める」役割なんです。もしかしたら、私に「明確なWILLがないこと」は、そういったファンドレイジング部の役割には合っているのかもしれません(笑)

「寄付をしてよかった」と感じていただけるように

寄付者の方々と対面での活動報告会の様子

——2024年4月にファンドレイジング部のディレクターになって、意識の変化はありましたか?

これまでも、チーム単位のリーダーは担ってきましたが、部署全体の責任を持つという役割は、やはり、背筋が伸びる思いはあります。

ただ、自分ひとりでは、決められることや見えていることが限られていると思っているので、何かを決めるとき、決断をするときには、メンバーと相談をしながら決めることが多いです。なので、ひとりですべてを背負っているという感覚はなくて、メンバーと一緒に考えながら進んでいる感覚です

——ファンドレイジング担当として役割を果たしていくうえで、普段から大切にしていることはありますか?

日々の地道な一つひとつを着実に積み重ねることと、誠実に対応すること、小さな改善を重ねていくことを大切にしたいと思っています。

寄付者の方々からご寄付をお預かりし、活動に使わせていただき、どんなことに使い、その結果、どんな変化が起こったかをご報告するという一連の業務において、このやり方をすれば必ずうまくいくという秘策はないと思っていて。常に改善し続けながら、どうすれば誠実であれるかを考えつづけたいと思っています。

——入職時から10年以上が経っていますが、当時と比べてカタリバという組織の見え方は変わりましたか?

入職当初から比べると、カタリバの規模は大きくなっていますし、コロナ禍を経て事業数も増えました。でも、一つひとつの判断軸や大切にしている考え方は変わっていないと思います。

たとえば、組織を運営していると大なり小なりトラブルは起きますよね。何かが起こった際の代表理事の今村や常務理事・事務局長の鶴賀や渡邊たちの意思決定や判断軸に違和感を覚えたことはなく、そこへの信頼は、コラボ・スクールにいた時もファンドレイジング部のいまも、変わらないなと思っています。

——今後どのように仕事と向き合い、カタリバと関わっていきたいと考えていますか?

より多くの個人や企業の方々に、カタリバを知っていただき、寄付という形での参画いただける方を増やしていきたいですし、寄付という形で社会課題へ参画ができることを知っていただきたいです。

そして、ご寄付へのお返しとして、できることといえば、お礼と使い道のご報告しかないんですよね。「寄付してよかった」と感じてもらえるかどうかは、私たち次第。だからこそ、伝えるスキルを磨くべきだし、現場で起きていることを私たちの目線、言葉で寄付者の方々に伝えていきたいと思います。

たくさんの方々からご寄付をいただいて、カタリバの活動は成り立っていますし、ご寄付がないと、活動を続けることはできません。これからもカタリバの活動に対して「価値がある」と感じていただき、「寄付をしたい・続けたい」と思ってもらえるように、きちんと誠実に向き合っていきたいと思います。


 

「常に誠実でありたいと思っています」

インタビューの最後、彼女はそう結んだ。寄付者はカタリバを信頼して寄付をする。だからこそ寄付の使い道を誠実に報告するし、それが結果として継続にもつながっているのだろう。

カタリバがNPOとして運営できている背景には、彼女をはじめとするファンドレイジング部の働きがあるのだ。

 

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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