すべての子が「ここにいていい」と思えるように。大学卒業後も教育課題を探究し続けていく[マイプロ高校生のいま]
地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。これまで「在来種のタンポポの生態を探究する」や「ウーバーイーツを学校内で実現する」など、高校生たちによってさまざまなユニークなプロジェクトが立ち上げられてきました。
カタリバでマイプロジェクトの取り組みが始まってから10年。この節目に、過去にマイプロジェクトに取り組んだ先輩たちのインタビュー連載「マイプロ高校生のいま」が始まりました。
高校時代のあの日の経験は、 “いま” どのような影響を与えているのかー。
マイプロジェクトや探究学習を通じて “過去” 得たもの、また、 “いま” に活きていることについて聞いていきます。
第五弾では、「不登校の子と保護者のケア」、「教師と中高生の対話の場づくり」の2軸でマイプロジェクトに取り組んできた成毛侑瑠樺(なるげ・うるか)さんが登場。
昔から引っ込み思案だった成毛さんは、高校の先生の言葉をきっかけにマイプロジェクトを始め、数々のイベントを主催するように。大学へ進学した現在も、プロジェクトで解決したいと考えていた課題に向き合い続けています。彼女が高校時代のマイプロジェクトで得られたこと、そして大学進学後の活動内容について伺いました。
「こうあるべき」という価値尺度から外れた人が
否定される構造に疑問を持ち始める
マイプロジェクトに取り組んでいた高校時代の成毛さん
──成毛さんがマイプロジェクトに取り組み始めた経緯を教えていただけますか?
中学時代から感じていた教育の課題や疑問、教育を変えたいという想いを高校の先生に話したら、カタリバが主催しているイベントを教えてもらったのがきっかけです。イベント内容は、マイプロジェクトのスタートアップキャンプで、それに参加したことから私の探究活動が始まりました。
──チラシをもらって、すぐに参加しようと思ったのですか?
いえ、ものすごく悩みました。チラシには過去のイベントに参加した高校生の集合写真が載っていたのですが、キラキラした高校生たちという雰囲気で……。当時の私は、大勢の前に立つのが苦手だったので、最初は参加に対して後ろ向きでした。
──そこからなぜ、参加を決めたのでしょうか?
当時、私は「頭の中に思い浮かんだ行動はすべてやってみる」というルールを自分に課していたんです。教育を変えたいという想いがあって、それを実現するにはまず自分を変えなければいけない。そのためには行動しなければいけないと考えていたからです。
「これを逃したら成長できない」という気持ちで、参加しました。
──中学時代から感じていた教育の課題や疑問、また、成毛さんが取り組んだマイプロジェクトのテーマについて教えてください。
昔から感じていた課題や疑問は、学校の一本化された価値尺度によって、なぜ子どもたちが否定されてしまうのかということでした。ここを出発点に、主に2つの軸でマイプロジェクトに取り組んでいました。
1つは、不登校の子とその保護者向けのケアイベントです。私自身、中学時代に不登校を経験し、「学校は行かなければならない」という価値尺度や、みんなの「こうあるべき」に当てはまっていないことに対して、悩んだり落ち込んだりしました。
きっと不登校でそういう想いをする人はたくさんいるのではないかと考え、多様な価値尺度を示してくれる人たちに出会い、自分を肯定できる機会を提供する講演会やワークショップを開催してきました。
もう1つは、教師と中高生の対話の場づくりです。不登校になって悩む背景には、学校の中で「こうあるべき」というように価値尺度が一本化され、その価値尺度から外れたことによって、学校の先生から否定されたり理不尽な評価・対応をされる構造にあると考えていました。
なぜ否定されたりするのか掘り下げて考えたときに、教師と生徒で会話する機会が足りていないために、教師の想いと生徒の想いにズレが発生しているのではないかという仮説を立てたのです。そこで、教師と中高生が対話できるイベントを開催してきました。
マイプロジェクトに取り組み、
発信すれば助けてくれる大人がいると知った
2017年度のマイプロジェクトアワードで発表している様子
──マイプロジェクトに取り組んで良かったと思うことはありますか?
たくさんあります。当時は引っ込み思案でしたが、初めてイベントを主催したら「案外、自分にもできるんだ」と思えたんです。それをきっかけに自信がついて、やってみたいと思ったことを行動に移せるようになりました。
あとは、人に頼れるようにもなりましたね。マイプロジェクトに取り組むまでは、大人たちが助けてくれるという感覚をあまり持っていませんでした。ただ、実際に「こんなプロジェクトをやりたくて……」と、周囲の大人に相談してみると、人を紹介してくれたり場を提供してくれたりして。自ら発信すると大人も助けてくれることがわかりましたし、発信することは自らチャンスをつかむことにつながることも実感できました。
また、自分の取り組みには価値があると思えたことも大きな収穫のひとつです。不登校の子たち向けのイベントに参加してくれた保護者が、「他の場所では話せなかったことがここでは話せた」「ここに来なかったら孤独との戦いだった」」と言ってくれたんです。この言葉を聞いて「自分の活動には意味があったんだ」と心から思えました。
──成毛さんは、マイプロジェクトアワードにも出場されましたよね。
はい。実はスタートアップキャンプに参加したときに、アワードのことは聞いていたんです。高校1〜2年生の頃は、そこまでプロジェクトを進められていなかったので出場は無理だと思っていたのですが、2軸での場づくりを始めてからは、発信できるプロジェクトがあるので挑戦してみようと、すんなり出場を決めました。
──アワードに出場したことで、どのようなことが得られましたか?
一番印象に残っているのは、「大人たちがこんなにも真剣に学生の話を聴いて、批評やアドバイスをしてくれるんだ」ということ。そして、普段の生活で出会えないような、すごいプロジェクトを進めている同世代に出会えたことですね。アワードに出場している高校生からは、多くの刺激をもらいました。
──高校時代にマイプロジェクトに取り組む中で、「先生がこう関わってくれたから嬉しかった・進めやすかった」と思うことはありますか?
当時マイプロジェクトを見守ってくれていた先生は、「プロジェクトの主体は生徒である」という立場を貫き、見守り続けてくれたので、とてもありがたかったです。
あるイベントで、参加者から先生へ質問がされたときに先生が答えるのではなく、「それは成毛さんに聞いてください」と伝えてくれて……それがすごく嬉しかったです。
その先生は、「こんな教育系のイベントがあるよ」「こんな本があるよ」と、いろいろな情報や機会もくれました。先生が方向性を決めるのではなく、私が主体的にマイプロジェクトを進めるためにサポートするスタンスだったので、進めやすかったですね。
子どもたちの「Being」が保障されるには。
大学卒業後も、教育の課題に向き合い続けていく
高校時代の成毛さん
──成毛さんは現在、叡啓大学(広島市)の3年生です。進路選択にマイプロジェクトの影響はありましたか?
大いにありましたし、大学へ進学した今も、マイプロジェクトの延長線上にいる感覚です。
叡啓大学は2021年4月に開学した新しい大学で、「チェンジメーカーを育てる」ことをコンセプトにしています。浪人1年目のときに開学することを知り、大学の特徴を調べていく中で「叡啓大学に行きたい!」という想いが強くなりました。
──叡啓大学のどのような点に惹かれたのですか?
学生主体を重視し、課題解決のためのスキルやノウハウを学べる点に一番惹かれました。マイプロジェクトで取り組んできた、「子どもたちが一本化された価値尺度によって否定される構造を変えること」を実現するために必要な能力を、学問的・実践的な両面から高められると思ったんです。
──大学進学後も、引き続きマイプロジェクトで解決したいと思っていた課題に取り組まれているのですね。
そうです。ただ、高校生のときのアプローチ方法では解決しないと思い、大学入学後は試行錯誤してきました。
その中で最近は、学校の中で子どもたちの「Being」、つまり「ここにいていい」という学校内での基本的な権利が保障されていない状態を解決したいんだと思うようになりました。学校内で一本化された価値尺度から外れた子が否定されてしまうのは、子どもの「Being」を保障するという考えが抜け落ちているからではないかと考えたのです。
ただ、先生批判・学校批判では決して終わりたくなくて。学校内で子どもたちのBeingを保障するには、どのような教育構造であったらいいのか。今はこの課題を解決するために自分に足りない能力をつけるには、どうしたらいいかを考える時間が多いですね。
──ご自身に足りていないのは、どのような能力だと捉えていますか?
1つは人に対する観察力です。大学入学後、教育系インターンシップに参加する中で痛感したのが、教育の現場ではものすごく人を観察する必要があるということ。子どもをよく観察し、その子の文脈にあった選択肢を見極め、適切な声掛けをしていく。その能力がまだ足りていないので高めたいと思っています。
あとは、イベントで効果的な変化や満足度を生み出す力ですね。高校時代に数多くのイベントを開催したので、場の見せ方はそれなりに上手くなったと思います。ですが、中身の質は二の次になっていたので、質の高いイベントをつくり出すにはどうしたらいいか勉強しています。
大学の友人にこのことを話したら、「とりあえずイベントをやっていくうちに自然と質は上がるでしょ」と言われてしまいました(笑)。考えるよりも行動するしかないかな、とも思っています。
──日常的に大学のご友人と課題解決にまつわる話をするのですか?
社会に対して何らかの疑問を持っていて、それに対して具体的なアクションを考えられる学生たちがいるので、その子たちと一緒にあれこれ考えながら、企画を立てたり行動したりしています。こういう仲間に出会えるのは、叡啓大学のすごく良いところだと思いますね。
──残りの学生生活で取り組みたいことや、卒業後のことはどのように考えていますか?
まず、卒業後のことは業界も含めて悩み中です。すぐに教育業界に入るか、他の業界で経験を積んでから教育業界に入るか、あるいは教育業界の外側から教育の課題に向き合うか……。引き続き悩み、答えを出していきたいと考えています。
残りの学生生活では、学校の中で子どもたちのBeingが保障されるための仕組みづくりのためのプロジェクトを立ち上げたいです。学生生活は残り2年あまり。2年しかなくて焦る気持ちもありますが、何らかの形にできるよう走り続けていきます。
■【視聴申込受付中】マイプロジェクトアワード2023全国Summitオンライン配信
3/22(金)~3/24(日)に開催される「全国高校生マイプロジェクトアワード2023 全国Summit」において、3/23(土)Day1・3/24(日)Day2の様子をYoutube liveで配信いたします。
マイプロジェクトに取り組んだ高校生による発表と各領域の一線で活躍する大人との対話、そして全国の高校生のロールモデルとなるプロジェクトを選出・表彰する様子を視聴いただけます。ぜひお時間があればご視聴ください!
▼概要
【開催日】
・2024年3月23日(土)
全国Summit Day1:10:15-16:30(過去最多2,600組から選ばれた全48組が発表)
観覧者限定懇親会:16:30-18:00
・2024年3月24日(日)
全国Summit Day2:10:10-16:30(Day1から選ばれた6組が発表、全国の高校生のロールモデルが決定)
観覧者限定懇親会:16:30-18:00
※いずれもオンライン、途中参加・途中退出OK
【詳細】
https://x.gd/IPCeh
【視聴予約方法】
以下フォームよりお申し込みください
https://forms.gle/7z8fYmjNNk4JFSEY7
【問合わせ】
summit-mypro@katariba.net
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北森 悦 ライター
2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。
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