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KATARIBA マガジン

ヤングケアラー支援の限界を超えていく。現役・精神保健福祉士がカタリバのアドバイザーに就任した理由

vol.302Interview

date

category #インタビュー

writer 田中 嘉人

Profile

勝呂 ちひろ Chihiro Suguro 一般社団法人Omoshiro代表理事 / 精神保健福祉士 /「キッカケプログラム forヤングケアラー」パートナー

横浜市にて精神疾患を抱えるお父さん・お母さんとそこで暮らすこどもたちへの「親子まるっと伴走支援」を実施。「ケア」は人と制度につながるチャンスと発信し、ケアマネジメント事業を軸にケア軽減に向けて世帯への現実的なサポート導入と同時に、こどもたちへの居場所では自身の願いや希望を「伝える」「伝わる」練習を日々行っている。その他、NHKハートネットTV、あさいちなどのメディアへの出演、全国の市町村における教育・福祉・こどもなど多方面の関係団体に向けてヤングケアラー実践支援に関する講演活動も行っている。

カタリバでは2020年より、経済的な事情を抱える家庭へオンラインでの伴走と学びの機会を届けてきました。そして活動を続ける中で、実は参加者の約7人に1人が「世話をしている家族がいる」ことがわかりました。

それを受けカタリバでは、両親や祖父母・きょうだいの世話や介護、家事全般を担っている中高生と、その家族への支援プログラム「キッカケプログラム forヤングケアラー」を2022年4月より本格的にスタート。

ヤングケアラープロジェクトにおいて、精神保健福祉士という立場で保護者伴走やメンターたちのケース会議の主導、そしてプロジェクト全体のアドバイザーとして関わっているのが、一般社団法人Omoshiroの代表理事/精神保健福祉士の勝呂(すぐろ)ちひろさんです。

彼女がカタリバと出会ったきっかけ、そしてヤングケアラープロジェクトにかける想いを聞いてみました。

きっかけとなった、あるカタリバ職員の存在

——カタリバを知ったきっかけを教えてください。

カタリバの「キッカケプログラム for ヤングケアラー」プロダクトマネージャーの和田果樹(わだみき)さんから声をかけられたことです。

2021年6月に開催された鶴見ヤングケアラーラボでの私の講演を果樹さんが聞いてくれて、「もう少し話を聞いてみたい」と連絡が来ました。後日、鶴見まで来てくれたので、普段訪問しているお宅にもついてきてもらって、私たちの活動について理解を深めていただいたのを覚えています。

「ヤングケアラープロジェクトを一緒にやりませんか?」と声をかけていただき、立ち上げから携わることになりました。

——なぜ受けることにしたのでしょうか。

すごく抽象的な言い方になってしまうのですが、果樹さんが私に興味をもってくれているとわかったからです。だから、私も彼女に興味をもった。「カタリバについて知ろうとした」というよりも、「果樹さんを知ろうとしたらカタリバにたどり着いた」ようなイメージです。果樹さんも同じ感覚だったと思います。

——カタリバの印象はいかがでしたか。

コロナ禍でオンラインが一気に普及し、オンラインに対する抵抗がなくなっているときにカタリバを知りました。

カタリバは「生きる」だけでなく、「学ぶ」にも重きを置いているところに惹かれたのを覚えています。

この「学ぶ」というのは、一方的にプログラムを提供するのではなく、カタリバ内でやってきた体験や考え・情報をシェアして「学ぶ」につなげている。決して一方的ではなく、自分の体験も、ほかの誰かの体験もシェアしていけるスキームがすごく魅力的に感じました。

だって「学ぶ」って実はすごく難しいじゃないですか。「何を学べばいいか」も、「誰から学べばいいか」もわからない。でも、自分の体験が誰かの学びになり、誰かの体験は自分の学びになると思ったら、すごくラクになったんです。 学びのコミュニティの広がり方として、魅力的だし、何よりとても健全だと感じました。

最初は懐疑的だった“オンライン”支援。
自分の限界を超えていくために

——先ほど、「オンラインに対する抵抗がなくなっているときに~」というお話がありました。そのあたりの心境の変化を教えてください。

もともとはオンラインでのコミュニケーションには懐疑的でした。現場の人間としては、視覚的なものはもちろん、嗅覚、聴覚、触覚といった五感こそが大事なので。

画面上で見える情報の少なさに、「オンラインで何ができるの?」と思っていました。だって、もしかしたら部屋はものすごく散らかっているかもしれないし、お母さんは本当は歩けないかもしれない。

でも、よくよく考えれば、それでもいいんですよね。オンラインで果たすべきは、ADL(日常生活動作)へのアプローチではなく、意識の変化や表現力へのアプローチなので。もしお母さんが歩くことが困難だったとしても、「ここに手すりをつけてほしい」と自ら自治体へ発信できれば、実際に手すりが導入されるかもしれない。

より多くのヤングケアラーが「声を上げる」ことができるようサポートするには、オンラインのほうが圧倒的に効率的です。

——オンラインに可能性を感じたわけですね。

はい。その理由としてもうひとつあるとしたら、自分の限界を知ってしまったことも挙げられるかもしれません。

Omoshiroが少し注目されてきて、「今、何名くらい担当されているんですか?」と聞かれる機会が増えました。私たちが担当できているのは30家族。「1クラスにヤングケアラーは1〜2人いる」と言われているのに、30家族しか担当できていないなんて……。

同じ頃「Omoshiroさんがいる地域はいいよね」と言われたこともありました。本人は褒め言葉のつもりで発した言葉だったと思うんですが、私にとっては自分たちの限界を突きつけられたひと言でもあって。「仕事の仕方を変えなきゃ。でも、どうすれば……」と感じたタイミングで果樹さんと出会ったので、仕組みづくりに力を注いでくれる彼女との出会いは本当に幸運でした。

オンライン上で波及していくお母さんたちの涙

——ヤングケアラープロジェクト立ち上げの過程についても教えてください。

とにかく仕組みづくりに時間を費やしました。果樹さんとは半年以上壁打ちしていたと思います。

私は精神保健福祉士であり、アドバイザーという役割ではあるものの、彼女との関係性は対等でした。私たちがやってきたことをシェアしつつ、彼女がやってきたことをシェアしてもらう。まさに学び合いです。週に1回ぐらいのペースで壁打ちを実施していましたが、学びが広がるその時間はすごく楽しかったです。

——特に印象的だったことはありますか。

やはり、果樹さんの反応ですね。彼女はオンライン会議をしながら「う〜ん……」ってすごく悩むんですよ。私は感覚的で、抽象度の高いコミュニケーションを取りがちなのですが、彼女は決してわかったつもりにならない。「勝呂さんが言っていることって、こういうことですか?」と私の言葉ときちんと向き合ってくれる姿がとても印象に残っているし、「好きだなぁ」と感じました。

だから、私も果樹さんには本音でぶつかることができるし、より本質的なやり取りができる。それはお互い本音でやり取りしているからこそだと感じています。

——プロジェクトが立ち上がってから、いかがでしょうか。

現在は保護者の伴走にも携わっているのですが、オンライン上に全国のお母さんやメンターさんたちが集まっている状況にはすごくワクワクしますね。「これだけの人たちと一度にコミュニケーションをとれるんだ」と。

特に印象的だったのが、「自分のことを自分で大事にする」というワークをしたときのことです。ひとりのお母さんが、ご自身の過去の話をして泣き出してしまいました。すると、画面上で別のお母さんも涙を見せ始めるんですよ。さらにまた別のお母さんが泣き始めて……と、オンラインで感情が伝播する瞬間を見たときは「すごいな」と。

しかも、その後「がんばったね」「私も同じ体験していたからわかるよ」「あなたはすごい」と讃え合いが起こっていて。

私はいつも保護者や子どもと面と向かって接しているので、オフラインの魅力は当然感じていますが、オンラインだからこそできることも身をもって理解できました。選択肢は多いほうがいいし、私もオンラインがあるからこそカタリバや果樹さんと出会えたわけですから。「オンラインもオフラインも両方やろう!」と言えるようになったのは、私にとって大きな変化ポイントです。

「私がいなくなったら終わり」という状況をつくらないために

——カタリバでの活動は普段の仕事にどのような影響を与えていますか。

「丁寧に説明する」を意識するようになりました。

特にカタリバはみんなが同じ方向を見るため、「なぜこの場を設計しているか」「何をゴールにしているか」をMTGのたびに説明しています。オフラインだと丁寧に説明しなくても、ある程度空気で察することができますが、オンラインでは画面上の情報がすべてですからね。

でも、本来はオフラインでも丁寧に説明するべきなんですよ。私の想いを他の人に伝えていなかった場合、私が旗振りをできているうちはいいかもしれないけれど、もし何かしらの理由で参加できなくなったときに破綻してしまうので。法人として「私がいなくなったら終わり」という状況を避けるためにも、意図を言語化するようになりました。

——今までの自分のやり方をアップデートしたわけですね。

私は直感で動くタイプなので、説明を大切にするカタリバへジョインして、最初は「苦手なところに飛び込んじゃったなぁ」と思いましたよ(笑)。でも、答えをもっているのは保護者や子どもで、大事なのは彼らの声。彼らのためになるのであれば、プライドを捨てて、私自身も変化すべきですよね。

——最後に今後の展望について教えてください。

カタリバのヤングケアラープロジェクトは、きっといい仕組みになっていくと思います。私たちソーシャルワーカーができなかった部分を、ちゃんとやろうとしているわけですから。

そのなかで私は、「子どもだけでなく、大人も誰かしらのケアをしていく時代だからこそ、誰もがケアをポジティブに捉えられる世の中にしていきたい」ですね。ケアに対するマインドを変えるためにすべてのご家庭や学校へ行って支援したいくらいですが、そういうわけにはいかないので、まずはカタリバとの活動を通じて私の想いをいろいろなメンターさんに伝承していきたいです。

そして、有限の壁を越えていくために、これからもチャレンジを続けていきたいと思います。

一般社団法人Omoshiroのスタッフ

この日、夏休みの宿題をしに来ていた子の絵日記にあったスイカの絵


 

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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