「経験を次世代へ伝えたい」探究学習で得た“いま”に活きるつながり[マイプロ高校生のいま]
地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。これまで「在来種のタンポポの生態を探究する」や「ウーバーイーツを学校内で実現する」など、高校生たちによってさまざまなユニークなプロジェクトが立ち上げられてきました。
カタリバでマイプロジェクトの取り組みが始まってから10年。この節目に、過去にマイプロジェクトに取り組んだ先輩たちのインタビュー連載「マイプロ高校生のいま」が始まりました。
高校時代のあの日の経験は、 “いま” どのような影響を与えているのかー。
マイプロジェクトや探究学習を通じて “過去” 得たもの、また、 “いま” に活きていることについて聞いていきます。
第四弾では、福島県立ふたば未来学園高校でマイプロジェクトに取り組んだ金成美怜(かなり・みれい)さんが登場。もともと探究学習に乗り気ではなかった金成さんですが、ある出来事がきっかけで一念発起。東日本大震災の被災地となった地元・富岡町を盛り上げるべく、探究学習をやり遂げました。
現在大学3年生となった金成さんは、全国高校生マイプロジェクトアワードの司会や高校生の探究伴走に取り組んでいます。彼女がマイプロジェクトで得られたものや、その後の人生について伺いました。
大好きな地元・富岡町で
「さくらタピオカ」を販売。
私がこの街を変える
──金成さんが、マイプロジェクトに取り組んだ経緯を教えてください。
私が通っていた福島県立ふたば未来学園高校で、高校2年生の4月から「未来創造探究」という探究学習の独自の授業が始まったことがきっかけです。
ですが、最初はまったくと言っていいほどやる気が出ませんでした。当時の私は授業中に寝たり、テストで赤点をとったりと、お世辞にも真面目な生徒とは言えず……。探究学習も初めの頃は、正直面倒だなと思っていました。
──探究学習では、どのようなテーマを設定したのでしょうか。
地元・福島県双葉郡富岡町で「さくらタピオカ」を販売するというものです。
富岡町は、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故以降、帰還困難区域に指定されていました。それに伴って人口が大きく減少し、中でも若い人が少ないことが地域の大きな課題となっていたのです。
そこで「若い人に興味を持ってもらえるもの」を考えたときに思い浮かんだのが、当時大流行していたタピオカ。富岡町の魅力を知ってもらうために、富岡町・夜の森地区の桜並木をモチーフとした「さくらタピオカ」を作ることにしました。
探究の時間にさくらタピオカを試作した時の様子(写真左が金成さん)
──探究学習をもっと頑張りたいと感じたきっかけは何ですか?
きっかけは、2つあります。
1つ目は、東日本大震災以来はじめて実家に帰り、富岡町の現状を目の当たりにしたこと。9年ぶりに訪れた富岡町は泥棒や野生のイノシシに荒らされており、私の知っている街ではなくなっていました。その光景を見て、やる気に火がつきましたね。絶対に私がこの街を変えてやる、と。
2つ目は、地域住民にお話を伺う探究の授業を受けたこと。登壇者である、双葉郡在住のある女性のお話が印象的でした。
双葉郡に貢献するために、イベント開催や農業などの活動を行っていると生き生きと語る彼女の姿に感銘を受け、探究学習への意欲が湧いてきたのです。
マイプロジェクトで得られたのは、
人とのつながり
高校時代、地域の食堂でさくらタピオカを販売した時の金成さん
──探究学習を進める際に困ったことはありましたか?
テーマを決めたはいいものの、何から始めていいかがわからず……。当時の私は、タピオカの作り方どころか地域に出ていくにはどうしたらいいのかやパワーポイントでの資料の作り方すらも知らず、さっそく立ち止まってしまいました。
そこで意識したのは、とにかく周りの大人に相談すること。先生や学校に常駐していたカタリバの職員、高校の先生がつないでくださった地域の方々、ビジネスに詳しい大学の教授・学生など、多くの方々にお話を伺いました。
例えば大学の教授からは「ただ売るだけではなく、地球環境に配慮した販売など社会全体のためになることも取り入れられるといいよね」とビジネスのヒントをいただき、タピオカの提供時にスモールカップや紙ストローを用いてプラスチックゴミの削減に努めました。周囲に相談することで、ぼんやりとしていたプロジェクトが少しずつ形になっていきましたね。
──金成さんは、マイプロジェクトアワードに2年連続で出場されたそうですね。
カタリバの職員に誘われ、2年生の時にマイプロジェクトアワード2019の東北Summitに出場しました。でも、発表はまったくうまくいかず……。
当時の私のプロジェクトは少しずつ形になってきたとはいえ、まだまだ未完成。さらに、発表中に焦ってしまい、発表時間をオーバーしてしまったのです。ほかの出場者の堂々とした発表を聞いて、悔しく思いました。
──その翌年に出場されたマイプロジェクトアワードはいかがでしたか?
前年のリベンジをしっかりと果たせました。プロジェクトを完成させ、自信を持った状態で出場したのが功を奏したのだと思います。
実はマイプロジェクトアワードに再出場するまでの間、何度か地域の食堂やカフェでさくらタピオカを販売する機会がありました。その中で、地域の方々から「こういう活動してくれてうれしい」「ありがとう」と多くの励ましの言葉をいただいたのです。
これまで自分がしてきたことは無駄ではなかったのだと確信し、自分のプロジェクトに自信を持てるようになりました。
マイプロジェクトアワード2020全国Summit(オンライン開催)に出場した際の様子
──金成さんがマイプロジェクトで得られたものは何ですか?
人とのつながりです。
マイプロジェクトを通して、地元の方々や大学生にアドバイスをいただいたり、友人にさくらタピオカの販売を手伝ってもらったりと、多くの人とのつながりを得られました。
人とのつながりが増えれば増えるほど、プロジェクトはもちろん、自分自身の選択肢の幅も広がりました。後ほど詳しくお話ししますが、私が大学進学を決めたのはマイプロジェクトで出会った大学生の影響でもあります。
高校生の探究学習に伴走。
つながりを活かして
やりたいことを追求
──無事、マイプロジェクトを終えた金成さん。進路選択についても聞かせてください。
高校卒業後は、東北芸術工科大学のコミュニティデザイン学科に進学しました。
マイプロジェクトに出会う前は、美容系の専門学校という今とはまったく違う進路を希望していました。もともと勉強が苦手で、大学進学に対して前向きになれなかったのです。
気持ちに変化が訪れたのは、マイプロジェクトを進めるなかで大学の学生から話を伺ったとき。専門分野を極める彼らの姿を見ているうちに、大学で自分のやりたいことを追求するのも楽しそうと思うようになりました。
そこで選んだのは、まちづくりについて学ぶことのできる東北芸術工科大学・コミュニティデザイン学科。マイプロジェクトで地域に関わった経験を活かして楽しく勉強できると考え、進学を決めました。
──大学ではどのような勉強・活動をしていますか?
大学で主に学んでいるのは、コミュニティデザイン。ファシリテーションやワークショップの技術を磨いたり、フィールドワークを通して地域の課題を見つけたりしています。
そのほかに、探究学習に取り組む高校生への伴走も行っています。大学1年生で参加した地域での活動中に偶然、探究活動に悩んでいる高校生の相談に乗る機会があったんです。その時に「私の経験が高校生の役に立つんだ!」と気づいて。大学のゼミで山形県内の高校で2時間に及ぶ探究授業を設計したり、長期休暇を利用して福島県内の中高生のための居場所で探究学習に悩む高校生の相談に乗ったりしてきました。
高校生に向けて探究の授業を行う金成さん(写真左)
──マイプロジェクトでの経験は、大学生活にどのように活きているのでしょうか。
マイプロジェクトを経験したことで、大学生活でも多くの人とのつながりを持てています。
マイプロジェクトアワードの運営に声をかけてもらえたり、大学の教授が近隣の高校に出向く際に「金成さんが取り組んだマイプロジェクトについて発表してほしい」と依頼してもらえたり。
現在でも多くのご縁に恵まれているのは、マイプロジェクトに挑戦したからこそです。
マイプロジェクトアワード2021全国Summitでは、マイプロOGとして司会の大役を務めた
マイプロジェクトで得た経験を、
次世代に伝えたい
──マイプロジェクトに参加した経験を活かし、探究伴走やマイプロジェクトアワードの運営に携わる金成さん。その背景には、どんな思いがあるのでしょうか。
マイプロジェクトでの経験を活かして、悩みを抱えている高校生の力になりたいと考えています。
私が悩んでいたときに周りの大人が支えてくれたように、今度は私が高校生を支える側になりたいと思いました。私がマイプロジェクトを通して得たものを、次の世代にも伝えていきたいですね。
──マイプロジェクトに前向きになれない高校生に対して、金成さんならどのように声をかけますか?
「一緒にやってみよう」という姿勢で生徒に寄り添います。
私がテーマ決めで困っていたとき、相談に乗ってくれたカタリバの職員が「『課題解決』という意識を持たなくていいから、興味のあることを一緒にやってみよう」と声をかけてくれました。
当時の私は「探究学習って大変そう」というイメージを持っていましたが、その言葉がきっかけで純粋に興味のあるテーマを設定し、無事やり遂げることができたのです。
私のように先生や周りの大人から「一緒にやってみよう」と言ってもらえることで、一歩を踏み出せる高校生が増えていったらいいなと思います。
「マイプロジェクトに挑戦したことで、人生が変わりました」と語ってくれた金成さん。しかし、マイプロジェクトは彼女が変わったほんのきっかけに過ぎません。
金成さんは、全国高校生マイプロジェクトアワードでの苦い思い出を乗り越え、大好きな富岡町のためにプロジェクトをやり遂げました。現在は、経験を活かしてやりたいことを貫いています。
金成さんの“いま”を作ったのは、マイプロジェクトをきっかけに行動を重ねた金成さん自身なのだと強く感じました。
─写真:本人提供(5,7枚目以外)
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大島 彩花 ライター
ライター/エンジニア 1996年生まれ。栃木県出身。首都大学東京(現:東京都立大学)にて都市政策を専攻。卒業後はSIerとして生命保険会社のシステム設計・開発に従事。その後、個人事業主としてライターのキャリアを本格的にスタート。現在は独立し、IT系・教育系メディアにて、取材記事やイベントレポートを中心に執筆。
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