「知りたい気持ちに優劣をつけてはいけない」 “いま”に通ずる、探究学習が教えてくれたこと[マイプロ高校生のいま]
地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。これまで「在来種のタンポポの生態を探究する」や「ウーバーイーツを学校内で実現する」など、高校生たちによってさまざまなユニークなプロジェクトが立ち上げられてきました。
カタリバでマイプロジェクトの取り組みが始まってから10年。この節目に、過去にマイプロジェクトに取り組んだ先輩たちのインタビュー連載「マイプロ高校生のいま」が始まりました。
高校時代のあの日の経験は、 “いま” どのような影響を与えているのかー。
マイプロジェクトや探究学習を通じて “過去” 得たもの、また、 “いま” に活きていることについて聞いていきます。
第一弾では、岩手県立大槌高校でマイプロジェクトに取り組んだ古川真愛(ふるかわ・まなと)さんが登場。現在大学生として過ごす古川さんは「人生の選択について真剣に考えることの大切さを学ぶ、この上ない機会になった」と話します。
果たしてどういうことなのでしょうか。古川さんの真意に迫ります。
きっかけは、進学のためだった
――そもそもマイプロジェクトに取り組むに至った経緯を教えてください。
恥ずかしながら、最初はとても打算的でした(笑)。
中学、高校と野球に打ち込んでおり、大学進学して続けたい気持ちを強く抱いていました。しかし、強豪校へ進学しようとするとセレクションを通過しなければならず、少なくとも当時の僕のレベルではほぼ不可能。別のルートを調べたところ、野球部に入れるかもしれない大学を見つけ、担任に相談しました。
担任からは「一般入試は難易度が高いから、AO入試のために何かやったらどうか?」と提案され、ちょうどうちの高校でマイプロジェクトがスタートすることになったので、僕も取り組むことにしました。「何かやらなきゃいけないけど何をしたらいいのかわからない」というタイミングだったので、いいきっかけになりました。
――テーマはどのように決めたのでしょうか。
非常にシンプルで「他の生徒と比べて、一番勝てそうなもの、つまりAO入試突破に活用できそうなものは何か」という軸で考えました。
マイプロジェクトがスタートする前にAO入試対策として第一志望の大学のワークショップに参加したところ、テーマの中に「防災」があって。「東日本大震災で被災し、防災への意識の強い “大槌” という町で暮らしている自分が取り組むことに、意味があるかもしれない」と。
正直ずっと野球漬けの生活を送ってきたので、「これをやりたい」と意志をもてるものはなかった。それどころか「なぜ大学で野球をやりたいのか」と問われても、明確な答えは出せなかったんですよね。だから、戦略的に考えるしか方法はなかったのかもしれません。
誰も食べない最後の唐揚げに手を出しただけ
――テーマが決まってからはどのような取り組みを?
第一志望の大学のワークショップに参加する以前の話なのですが、まずは大槌町役場へ行って、防災担当の職員の方に課題をヒアリングするところからスタートしました。
ヒアリングを通じて明らかになったのは「避難訓練のあり方」について。
たとえば、大槌高校は津波の避難場所になっているのですが、土砂災害があった場合は絶対に避難してはいけない場所になっていることを地域の人たちがどれだけ知っているか。そもそも土砂災害が起きたときの避難についてはきちんと議論されているか。防災マニュアルがアップデートされないまま避難訓練が行なわれているのではないか。
思考停止状態に陥っていた地域防災について「もっと能動的に考えるべき」と提言したのが最初の取り組みです。
――テーマ決めから課題設定まで、非常にロジカルな印象を受けます。
そんなにすごいことじゃないんですよ。課題は明らかでしたから。誰もが「やらなきゃいけない」と思っていたけど、誰も手をつけていなかっただけ。お皿に唐揚げがひとつ残っているけど、誰も食べないから、僕が食べただけです。
「おもしろいアイデアだね」のひと言が嬉しかった
――当然ひとりで自己完結できるものではなかったように思います。
担任など学校内で伴走してくれた方たちの存在は大きかったです。
大槌高校では「魅力化プロジェクト」を推進するために、カタリバスタッフも参加していました。
担任、そしてカタリバスタッフと一緒にディスカッションしたときに僕が「こういうことが課題じゃないか?」と提案したら、それぞれの視点から「じゃあ、こういうアプローチがあるよね」「この人にヒアリングしに行ったら?」「こういう実験のやり方があるよね」「そのアイデアはおもしろいね」といったアドバイスや応援をしてくれたのは心強かったですね。
――軸になったアイデアとは。
「災害から生き残るために必要な要素を洗い出すと、最終的には数学の公式のような形になるのではないか」というアイデアです。
自分なりに仮説を立てて、「達成するためにはこういう要素が必要だよね」というものを網羅して、公式を考えて、精査していきました。PDCAをひたすら繰り返すイメージです。
――そのアイデアの、ブレイクスルーポイントは。
2019年12月、高校2年生の頃にある実験をしたことです。防災無線で話す言葉はずっと同じだったのですが、より正しく避難してもらうために効果的な文言を考えました。その際、自ら作った公式に当てはめて言葉を考え、流してみたところ、従来のものと比較して明らかに効果が大きいことがわかったのです。「もしかしたら防災としていいものができつつあるのかもしれない」という手応えがありました。
「想像力は命を救う」というタイトルで壇上に立ち、発表する古川さん。
プロジェクトが本格スタートしてからたったの3〜4ヶ月でしたから、短期間でここまで形になったのは、サポートしてくれたみなさんのおかげです。
人生の選択について真剣に考えることの大切さを学んだ
岩手県Summitで「防災」をテーマに発表する古川さん。
――マイプロジェクトアワードへの出場を通じて得られたものはありますか。
問題解決のためのフレームワークみたいなものは習得できた感覚があります。現状を把握し、課題を抽出、仮説を立てて、検証していく一連の流れはマイプロジェクトに参加していなければ身につけられていない能力だったのではないでしょうか。
実は第一志望の大学には落ちてしまったのですが、第二志望の大学へ進学でき、そこでどんな課題を出されても「これはどうすればいいんだろう……」と頭を抱えることなく進められています。
――現在マイプロジェクトに取り組んでいる高校生にアドバイスはありますか?
「こうした方がいい」ということは特にありません。ただ「しない方がいい」ということが一つだけあって、“問いの優劣”を競うようなことだけはしない方がいいと思います。
たとえば僕が取り組んだ「防災」は社会性の高いテーマのように思うかもしれませんが、イコール優れているというわけではない。僕の先輩に「どうすればおばあちゃんを好きになれるか」というテーマで取り組んだ人がいたのですが、すごくおもしろいアイデアだなと思いました。
僕の場合は戦略的にテーマを決めましたが、周りの目などは気にせず興味関心のあるものを見つけることもとても大切だと思っています。高校時代、自分の問いに自信がなかったり、迷いがあったりする人は多かったけど、問いに優劣はないので、本当に気になることを突き詰めればいいと思います。
だから先生たちも「マイプロはこういうものだから」と成功体験を味わせるためにフレームの中だけで指導するのではなく、もっと本質的な「この生徒は何をしたいのか」という軸で向き合ってほしいです。提案するというよりも、引き出してあげるというか。戦略的に行きたいのか、好きを突き詰めたいのか、生徒たちの純粋な気持ちに耳を傾けてもらいたいと思います。
大学で出た課題に取り組むときも、マイプロジェクトでの経験から、具体的にどう進めていけば答えにたどり着けるかがわかるようになったと語ってくれた古川さん。
高校時代の経験を経て得たものは、“いま”の大学生活でも活きているように感じました。
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田中 嘉人 ライター
ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。
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