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「大学のない町で、高校生が社会とつながる場を」 震災後の福島で起業した彼が目指す、ローカル発の学びのあり方とは?/PARTNER

vol.248Interview

date

category #インタビュー

writer 編集部

Profile

青砥 和希 Kazuki Aoto 全国高校生マイプロジェクト福島県地域パートナー/一般社団法人 未来の準備室 理事長

1991年福島県矢祭町生まれ。一般社団法人 未来の準備室 理事長。首都大学東京大学院在学中の2016年に高校生びいきの古民家カフェ「コミュニティ・カフェ EMANON」を福島県白河市で立ち上げ。以来、福島県内の高校生の居場所づくりや探究学習を支援。第7次福島県教育総合計画策定のための懇談会委員、白河市複合施設基本設計検討委員会委員、国立那須甲子青少年自然の家運営協議会委員など。

2013年にスタートした実践型探究学習「マイプロジェクト」。年に一度、全国の高校生たちが集い、自分たちのプロジェクトを発表する学びの祭典「全国高校生マイプロジェクトアワード」を開催していますが、現在では参加者が1.3万人を超え、全国で「地域Summit」が開催されるほど規模、内容ともに大きく成長しています。

福島県Summitの事務局を担うのは、福島県白河市にて“高校生びいきのカフェ”「コミュニティ・カフェ EMANON(エマノン)」を営む一般社団法人 未来の準備室。多彩なフィールドを行き来しながら活躍の場を広げる理事長の青砥和希さんにお話を伺いました。

連載「PARTNER」では、「地域パートナー」のように、カタリバのパートナーとして各地で活躍する人物に焦点を当ててご紹介していきます。

「高校生が地域を舞台に学んでいく拠点をつくりたい」
大学院2年時にカフェを立ち上げ

ー 青砥さんの活動について教えてください。

一般社団法人未来の準備室の代表をしています。
福島県白河市にある高校生の地域の居場所、活動拠点である「コミュニティ・カフェ EMANON(エマノン)」を運営する法人です。白河市内の高校を卒業後、東京の大学に進学しましたが大学院生の時に「高校生が気軽に集まれて、地域を舞台に学んでいけるような場所をつくりたい」と思いUターンをしました。2016年3月にカフェEMANONを立ち上げ、EMANONを拠点に探究学習の支援やマイプロジェクトを広げる活動もしています。

カフェEMANON。放課後や土日になると、高校生が多く立ち寄り思い思いに過ごしているカフェEMANON。放課後や土日になると、高校生が多く立ち寄り思い思いに過ごしている

ー なぜUターンをして、高校生・若者に関する活動をはじめたのですか?

きっかけは2011年3月に発生した、東日本大震災です。当時、僕は東京都内の大学で学んでいましたが、テレビなどで福島や東北の被害を目の当たりにして、自分も福島のために何かしたい、役に立ちたいと思ったんです。ところがその時に「僕は地元のことを何も知らない」と気がついたんですね。もちろん知っている“知識”はあるのですが、会社とか集落、NPOといった具体的な地域や組織に関わった“経験”が、高校3年間の中で全くなかった。

僕自身がそうであるように、福島県の高校生の多くは高校卒業とともに県外に進学します。福島県って、「県民一人当たりに対する大学定員数」が日本で一番少ないんですよ。だから、高校時代の3年間が地元福島について知る最後のチャンスとも言えるんです。福島に育った人にこそ、福島の人に寄り添って欲しいなとか、原発をはじめとした日本社会全体にある課題を考えてほしいなと思った時に、最後の接点とも言える高校が変わっていくことが必要だと思ったんです。

そして震災から3年後、母校の県立高校に教育実習に行きました。当時はマスメディアを中心に「震災前と震災後で社会は変わる」と言われていた時期。さぞかし高校は変わっているんだろうなと思っていたんですが、意外と……というか、全く変わっていなかったんですよね。

ー 変わっていなかった、とは具体的に?

2014年の高校生も、2010年以前に高校生だった僕と同じ悩みを持っていたんです。
「学校での拘束時間が長いので、学校の外で何かやるのは想像できないです」とか「親や先生以外の大人や大学生と話したことがないです」とか。「自分の高校時代と変わっていることを期待していたのに変わっていなかった」という経験を経て、社会というのは変わるんじゃなくて、誰かが変えないと変わらないんだってことがそこで分かりました。

さらに教育実習を通して、学校というものがとても大きい組織だということも分かったので、小さな事例を地域の中でつくって、そこで作ったことを大きな組織に真似してもらうというのが、福島が変わっていく近道なのでは?と考えるに至って。高校生が、地域を舞台に学んでいく拠点となる場所を立ち上げることを僕のミッションと位置付けて、大学院2年生のときにカフェを立ち上げ、Uターンをしました。

Uターンしたばかりの頃、改装前のカフェEMANONの前でUターンしたばかりの頃、改装前のカフェEMANONの前で

いつ何度でも、若者が自分らしく地域と関わりたいときに、
受け入れてくれる社会を目指して

ー カフェEMANONは、高校生にとってどんな場所になっているのでしょうか。

カフェEMANONには3つの使い方があります。
1つは居場所として。放課後はいつでも開いていて、勉強ができて、年齢の近いスタッフに悩み相談や話もできる。「いつでもあなたを受け入れます」という居場所の機能があります。

2つめは、自分の活動をしていくために大人を巻き込む場。「自分の考えたマイプロジェクトをやってみようかな」と思った時に、自分のメッセージを伝えて人を巻き込んだり、参加したりする場になっています。その手前の部分から、「こういうマイプロをやってみたい」という相談があればスタッフが相談に乗るので、高校生が人を巻き込むところから、実践・実装・試行錯誤をしていくような場ですね。

そして3つめが、大人に巻き込まれる場。大人に巻き込まれることも、実は悪くないと思っているんです。そればっかりだと問題があるかもしれないけれど、全部自分でテーマを決めて、全部自分で仮説を立てて、全部自分で課題解決をしてって、それってスーパー高校生ですよね。そうじゃないと地域に触れられないって、すごいもったいない。だから大人の「こんなことやりたいんだよね」とか「ちょっとここで、力貸してくれない?」という話を僕らがコーディネートして、高校生に参加の機会を提供するのが3つめの機能かなと思っています。最近だと、市役所の「新しい公共施設をつくる」というプロジェクトに参加している高校生もいますね。

新しい公共空間づくりについて、大人に混じって高校生も議論に参加新しい公共空間づくりについて、大人に混じって高校生も議論に参加

ー 印象に残っている生徒の姿はありますか?

高校時代にカフェEMANONに通って、地域の情報誌を作っていた生徒がいました。現在は大学でメディア系の勉強をしていますが「ここで色々と経験したから、自分でいろんな企業に訪問するのが楽しいし、大学時代のチャレンジが怖くなくなりました」と言ってくれて。

ー 高校時代の活動や記憶が、その後の人生やキャリアのひとつのきっかけになっていく、そんな場所なんですね。

そうですね。高校生に対しては、「地域が自分を受け入れてくれた」という成功体験を持って、地域を離れてほしいと思っています。

地域での成功体験を胸に、社会をつくっていく一員として、「私は価値ある社会のメンバーなんだ」という確信を持って、日本中・世界中で活躍してもらえたらいいなと。そうしたら、自分の仕事のキャリアの中や、ライフステージの変化の中で、また地域と関わりたい、地域で何かをやりたいという気持ちが固まったときに、またこの福島という土地で関わってくれるだろうという期待を持っています。

福島県Summitを「福島だからこその学びって何なんだろう」と
みんなで考えていくプラットフォームに

ー マイプロジェクトとの出会いについて教えてください。

初めて関わったのは、2018年のマイプロジェクト東北Summit。サポーターとして参加しました。

ー 印象に残っていることはありますか?

「幸せだな」という感情を抱いたことを今でも覚えています。
まずは高校生同士、同じ思いを持って活動している仲間との出会いがあることが幸せだなと思いました。さらに、東北を舞台に行政や企業、様々な立場で活躍されている大人のみなさんといっしょに、高校生のために真剣にフィードバックをしたり、大人同士で振り返りをしたり、という時間がとても幸せでした。

ー 今年度からは、地域パートナーとして福島県Summitの運営に携わっていらっしゃいますね。

マイプロジェクトという高校生の学びを支える場を、学校の先生やカタリバだけではなくて、地域の方と一緒につくっていくことが大事だろうと考えていたので、地域パートナーに手を挙げました。

未来の準備室が取り組んでいることとも重なりますが、「この方に高校生の学びのフィードバックをしてほしい」とか、「この方の経験を高校生に聞かせたい」という方が、福島県内に両手では足りないくらいいらっしゃるんですね。そういう方たちと一緒に、福島ナイズされた「マイプロジェクト福島Summit」を作っていくのなら、福島県内の様々なものも見てきた僕がやれたらいいなと思ったんです。

福島県Summitの一コマ。サポーターとして参加した地域の大人と、発表した高校生たち福島県Summitの一コマ。サポーターとして参加した地域の大人と、発表した高校生たち

ー 今年度の福島県Summitを終えて、その理想には近づけましたか?

今回、サポーターには「自分が社会とこうつながっている」とか、「社会をこう変えていきたい」という思いや問題意識を持って活動をされている方にお声がけさせていただきました。オンライン開催となってしまったので、高校生との対話の時間は限られていましたが、そういった大人の姿に触れてもらえる場がつくれたのではと思っています。

福島県Summitが発表の場としてだけではなく、福島の中にある町や村、生業や景色に触れる機会になれば嬉しいですし、コロナ禍が収束したら、高校生が県内のいろんな場所に訪れるような景色が広がったらいいですね。

起業家と研究員の二足のわらじに挑戦。
共感の輪をさらに広げていくために

ー 青砥さんが考える、福島県や白河市の理想の状態とはどのようなものでしょうか?

誰かが取り組んでいる“課題”や“作りたい価値”に共感してくれる人が、たくさんいる地域になればいいなと思っていて。
マイプロジェクトのサイクルの中には、人に共感したり、共感してもらったり、というものがあると思うんですよね。いつでも一方通行ということではなくて、時には引っ張るし、時には支える。そういうお互いの共感があれば、豊かな社会に進んでいくのではないかと。それは「高校生と地域」という関係性でも同様で、地域は高校生に耳を傾けるし、高校生も地域に耳を傾ける。そんなコミュニケーションが広がって欲しいし、広げていきたいなと思います。

ー “共感”がひとつのテーマなのですね。

今年の福島県Summitにもゲストとして来てくださった小松理虔(こまつ りけん)さん(いわき市出身のローカルアクティビスト)の「共時者(きょうじしゃ)/時を共にする者」という言葉があるんですが、共感や共時を考えるのに、福島ほど最適な場所はないだろうと思っているんですね。

原発事故が起きてしまった理由であったり、原発事故後の風評被害であったり、住民同士の混乱やいさかいであったり…。そういったものを目の当たりにしてきた福島の人だから、社会の中で共感したり共時したりとはどういうことなのかを、みんなで考えられると思っています。

マイプロジェクト福島県Summitも、そういう福島だからできる社会のあり方や、福島から全国、世界に発信したいものをみんなで練り上げていくひとつの場になればいいのかなと思って。福島だから学べることを、福島で学んでいる高校生も、福島で学びを作っている教員や地域の方も一緒に「福島だからこその学びって何なんだろうね」とみんなで考えていく。そのプラットフォームにマイプロジェクト福島県Summitがなればいいのかなと思っています。

高校生と一緒に、地域の魅力を考えるフィールドワークを実施高校生と一緒に、地域の魅力を考えるフィールドワークを実施

ー 今後の展望について教えてください。

ローカルな事例から、普遍的なものが取り出されることが大事だと思っています。そこから得られた学びが社会全体を変えるきっかけになればいいですね。「事例をつくる」というのがローカルだからこそできることだと思うので、ローカルな人と人とのつながりや、ローカルな生業、課題の中から得られた学びが、社会全体に対しての問題提起になったり、新しい仕組みになっていくことが理想です。そのためにも、今起こっていることをアカデミックに評価したり、幅広く発信したりということに力を入れていきたいと思っています。

ー アカデミックに、とはどういうことでしょうか。

僕はリーダータイプではないと自覚しているんですよね(笑)。元気に声かけをしてみんなを引っ張っていくというよりは、目の前で起こっていることを様々な角度からじっくり考えて、その課題をみんなが認知できるようにすることが好きだと改めて気づいたんです。

あと、最近悔しいことがあって。

福島県の教育の未来について検討する「第7次福島県教育総合計画」の検討懇談会でのことです。僕は目の前の高校生と関わった経験から学んだ知見を語ることができます。また、懇談会でのワークショップを通じて、12人の高校生から意見を引き出すファシリテーターも務めました。でも「2030年、2040年の子ども達に向けて何が必要ですか?」という問いに対しては明確に答えられなかったんですよね。

学び、若者、子供、コミュニティという分野で学問的な視点も持ち合わせて提言できる人材が地域にいないと、国や県の予算があってもうまく使いこなせないことを痛感して。また、「福島の地域や教育現場で起こっていることは、こんなに価値があることなんだ」と発信する力も欠けているのかもしれません。ならばその役割を自分が担いたい。

現場で起きていることの価値を学問的な側面でも捉えるために、4月からは福島県双葉郡にある東日本大地震・原子力災害伝承館の研究員に就任させていただきます。

ー さらにフィールドが広がりそうですね。

これまでは、コーディネーターとして学校や地域に関わる機会が多くありました。実際の課題を目の前にして「これがベストだな」と思って動いていたんですが、専門性を持っていた方が良いコーディネーターになれそうだと感じる場面も多くあって。

そのために、まずは自分がやってきたことを体系づけてまとめたり、発信していくことに取り組んでいきたいと思います。

■一般社団法人未来の準備室
ホームページ:https://junbishitsu.jp/

■コミュニティ・カフェ EMANON
ホームページ:https://emanon.fukushima.jp/

-文:宮木 慧美
-写真:一般社団法人 未来の準備室 提供

 

今回のインタビュー後に行われた「マイプロジェクトアワード2021 全国Summit」で、福島県Summitから選出されたプロジェクトが文部科学大臣賞を受賞しました。

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『手話カフェ〜しゅわしゅわ〜』というプロジェクトに取り組んだ彼女は、今回紹介した青砥さんが運営する「コミュニティ・カフェ EMANON」を利用し、この場所でマイプロジェクトに取り組んできたそうです。

青砥さんのブログには、マイプロジェクトに伴走してきたこれまでや、当日の様子などが熱く綴られていますので、併せてぜひご覧ください。


●全国高校生マイプロジェクトでは、本記事でご紹介した「一般社団法人 未来の準備室」をはじめとする全国の17団体/個人の皆様と「地域パートナー」としてパートナーシップを結び、マイプロジェクトの学びを全国に広げる活動を行なっています。
地域パートナーとの協働や現場視察を希望される方は、こちらのフォームからご相談ください。

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編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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