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「一人で頑張りすぎずに、もっと人とつながっていけたら」元ヤングケアラー葉一さんと考える、ヤングケアラーとその家族への支援のあり方

vol.238Interview

date

category #インタビュー

writer 編集部

Profile

葉一 Haichi 教育系YouTuber

東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談にこたえる動画を投稿している。チャンネル登録者167万人、再生回数は5億回を超える。著書に『塾へ行かなくても成績が超アップ! 自宅学習の強化書』(フォレスト出版)などがある。

家庭で、両親や祖父母、きょうだいの世話や介護などをしている「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたち。令和3年4月に文部科学省と厚生労働省から発表された実態調査からは、中学生のおよそ17人に1人に上ることが明らかになっています。

こうした状況を受けカタリバでは、両親や祖父母、きょうだいの世話や介護などをしている中高生、またその家族への支援プログラム「キッカケプログラム forヤングケアラー」をスタートすることになりました。

そこで今回、多くの小中高生から支持を受ける教育系YouTuberでご自身もヤングケアラーの経験を持つ葉一(はいち)さんをお迎えし、カタリバのヤングケアラープロジェクトのリーダーである和田果樹を聞き手に、ヤングケアラーであった子ども時代の想いや葛藤、必要な支援などをお伺いしました。

人に受け入れてもらうためには、
まずは自分をさらけ出すこと。

和田:葉一さんは、教育系YouTuberとして、小中高生向けに授業動画を多数配信されています。まずは、その背景にある想いについて教えていただけますか?

葉一:僕は元々塾講師をやっていましたが、自分自身が学習塾に通ったことがなかったため、実際勤める中で月謝の高さを知りましたし、お金がネックになって思い通りの教育を選ぶことができないご家庭があることを目の当たりにしたんです。これを「仕方ない」で流してはダメだよなって思いながら、ずっと働いていて。

退社後に「子ども達からお金をもらうことなく教育を届けたい。だけど自分もマネタイズしないと生きていけない、どうしよう?」と考えていた時にひらめいたのが、YouTubeで授業を配信することでした。

和田:子どもたちからの質問や相談に答える「だらだラジオ」の配信では、葉一さんが積極的に自分自身の経験や考えを発信されているのも印象的です。

葉一:これは僕の理想の教師像と関係するんですが、授業がわかりやすいだけでなく、生徒との会話を通して、その子の心の中にある凝り固まったものを柔らかくする、そんな瞬間を与えられる人でありたいなと。

それをYouTubeで実現させるには、自分のいろんな面を見せていく必要があると思っています。人って、多面的であればあるほど魅力的に映ると思っていて、自分の実体験とか辛い暗い部分も含めて発信することで、この人だったら話聞いてみようかなって思ってくれるんじゃないかと思って、そちらも配信を続けています。

自分がしっかりしなきゃと思い続けて、
誰にも相談できなかったヤングケアラー時代

和田:「ヤングケアラー」という言葉がここ数年で注目されています。葉一さんには障がいを持つ妹さんがいらっしゃると伺いましたが、お世話をされることはありましたか?

葉一:実は僕、「ヤングケアラー」という言葉自体去年知ったんですよね。当の本人って、ケアをしている意識がないから、お世話をしていたかと聞かれると答えるのが難しいところで。妹は普段養護学校に通っていたので、土日に両親が仕事でいないときは妹の面倒を見ていました。

和田:ケアと一言で言っても、身の回りのことや感情的なケア・見守りなど色々あると思うんですが、葉一さんはどんなお世話をされていたんですか?

葉一:妹の着替えを手伝ったり一緒に遊んだりしていましたね。妹は会話はできないので、精神面のケアとかはなかったんですが、目が離せない感じはありました。また、うちは父が多忙で家にあまりいなかったので、母への負担が大きかったんです。

子どもながらに母が一杯一杯なのは感じていたので、母がこのままだと妹のことで爆発するなと思ったときは、自分が「中和剤にならないと」と思っていました。だから妹のケアというよりは、家庭内がギクシャクしないようにどう立ち回ったらいいのか、常に妹の行動と母親の表情を確認しながら生きていた感じがしますね。

和田:まさに、ヤングケアラーのリアルな実態ですよね。私自身も親を介護をしていたんですが、親のケアより、親を一緒にケアしている人に気を遣うことも多かった記憶があります。葉一さんも家の中で気を遣って過ごされていたということですが、どういう気持ちで日々過ごされていましたか?

葉一:妹が2歳下なので、物心着いた時には妹がいたんですが、小学生になって友達の家に遊びに行った時に、友達が兄弟間で普通に意思疎通ができていることに驚いたんですよね。その辺から自分の家が普通ではないということを感じるようになりましたが、”そういうもんなんだ”と割り切っているところもありましたね。

あと、買い物とか妹と一緒に外に出かけている時に、妹がいきなり大声で叫んでしまって周りから白い目で見られることもよくあって。少しずつ妹のことを恥ずかしいと感じる気持ちが芽生えていっていくんですけれど、同時に妹のことを恥ずかしいと思っている自分も情けなくなるんですよ。唯一の肉親、兄妹なわけですしね。だからその気持ちの処理が難しかったです。

和田:そういう葛藤を自分一人で処理するのってなかなか難しいと思うんですが、当時話を聞いてくださる方はいましたか?

葉一:それが、いなかったんですよね。もしいたら違っていたんだろうなと今でも思います。

小学生のときは、母親が自分のことを頼っていたのは、明らかでした。今両親は仲が良いんですが、当時は父が多忙で家にいなかったこともあり、空気が少しバチバチしている感じの家庭でした。だから自分がしっかりしてなきゃなとは思ってましたね。そうすると、友達にも、両親にも話しづらいですし、結局誰かに相談することもなく来てしまいました。

和田:「こんなサポートがあったら良かった」など、当時を振り返って思うことはありますか?

葉一:自己反省としては、もっと人に頼れば良かったなと思いますね。それを促してくれる人がいたら良かったなとは思いますけど、他人云々というより、自分からもっと頼れば良かったなと思ってしまいます。

「誰かに話す」って、解決はしなくてもスッキリするものだったりするじゃないですか。でも当時の自分は、それを知らなかったんですよね。小学生の頃の僕は学級委員長とかをするような子どもだったので”しっかりしている子でいなきゃ”という思いが強かったんです。

愚痴をこぼすということもできなかった。”いい子”を演じるために、誰かに相談するということ自体、選択肢の中から自動的にカットしていたんだと思います。

「もっと周りに話しておけば気が楽だよ。思っているより周りに味方はいるよ」と当時の自分に言ってあげたいですね。

「話を聞いてくれる人がいれば、全然違ってた」
子どもながらに感じていた、母親の孤独

和田:当時妹さんをケアをされていた親御さんの様子は、いかがでしたか?

葉一:うちの場合母が僕と同じタイプで、人に頼るのが下手だったんですよね。今でこそ障がい者への理解ってあの頃より進んできたと思いますし、SNSが発達したことで同じ境遇の人とつながりやすくなりましたが、当時の母は孤独だったと子どもながらに感じていました。

本当にひとりで戦っていた感じですよね。だから愚痴を言えたり、同じ目線で意見交換ができたりしたらよかったと思いますね。制度まではいかないですが、あの時母の話を聞いてくれる人がいれば、全然違っていたと思います。

和田:障がいへの理解が少しずつ広まったとはいえ、障がいを持つ子の保護者の方たちの孤独感は今も昔もあまり変わっていないようにも感じます。

葉一:僕の動画を見てくれている子どもの親御さんとたまにメールのやり取りをすることがあるんですが、特にお母さんって自分がお腹を痛めて産んだお子さんだから、お子さんが障がいを持ったのは自分のせいだと思っている方がすごく多いんです。

でもそれって絶対違うじゃないですか。でもまわりがどんなに言っても、当事者の本人が心からそう思えないと、苦しいままですよね。そこをクリアするには、同じ経験をした人や同じ目線に立っている人との意見交換やつながりが、すごく大事だと思っています。

和田:葉一さんの言葉を通して改めて、親子どちらもサポートをする事が大事だなと感じました。葉一さんがケアをされてきた中で、現在のご自身にポジティブに生かされていると思うことはありますか?

葉一:僕は、妹と過ごした日々とか、抱えていたぐちゃぐちゃした感情とかも含めて、人生で起こったこと全てが糧になると思っています。だから何ひとつ無駄なことはなかったですし、ああいう環境があったから、当事者の子の話にも寄り添いながら聞けるし、塾講師をやっているときも生徒の感情の変化を読み取りやすいんですよ。思春期の頃は今振り返ると親のことが一番嫌いだった時期でもありましたが、それでも尊敬はしていましたし感謝の気持ちもありましたね。

和田:今、家族で当時のことをお話されることはありますか?

葉一:改まって話をすることはないですね。あのときああだったよねって世間話的にすることはありますが、改まって当時の気持ちとかを振り返ることは、あまりありませんね。

会社の会議でもそうですが、僕は会議の場では企画案や解決案は出てこないと思っているんです。わざわざ議題をテーブルに上げて話し合うよりも、人と人とのたわいもない会話の中で、企画や解決のタネがあり、普段のコミュニケーションの中で凝り固まったものを溶かしていけた方が自然なのかなと思っています。

コミュニティは学校だけじゃない
安全で安心できるコミュニティを選んで参加を

和田:私たちがスタートする「キッカケプログラム forヤングケアラー」についても、ぜひ率直な感想をお伺いしたいです。

葉一:もちろんです。

和田:カタリバが2020年より取り組んでいる「キッカケプログラム」では、経済的に困難を抱える家庭へオンラインによる伴走と学びのプログラムを提供しています。

子どもと保護者、それぞれにメンターが付き、子どもに対しては一人ひとりの学びたいことやありたい姿をもとに一緒に目標を立て、その達成に向けて伴走していきます。保護者に対しては、子育てに対する悩みを聞いたり、状況によっては専門家や公的機関におつなぎするようなことも行っています。

「キッカケプログラム forヤングケアラー」では、上述の内容に加え、ヤングケアラー向け対話プログラムや、ケアマネージャーといった介護の専門家との連携など、ヤングケアラーとそのご家族の支援に特化したサポートも提供していきます。

「キッカケプログラム forヤングケアラー」で無償提供するプログラム

葉一:聞いてて自分にこういう機会があったらよかっただろうなと思いますし、親御さんと子どもを並べて話をしないのが特にいいなと感じました。これ、僕もすごく大事だと思っていて。

僕は塾講師時代に三者面談を自主的に廃止して、二者面談(親と先生、子どもと先生)を2回やる方法に切り替えたんです。親御さんもお子さんがいる手前言えること・言えないことがあるし、思春期の子どもは親の前で言えることは限られてきちゃいますよね。

でも僕と2人きりだと思いをしゃべってくれる。三者面談だとダメ出しばかりしてしまう親御さんも、二人で話すと子どもに愛情ある言葉で話してくれるんです。

あと、今の中高生って電話で話すことが極端に苦手なんですよね。だから文字情報でやりとりできる相談フォームなどがあった方が、相談のハードルは低くなるだろうなと思います。

和田:分かります。テキストだと返信が早いけど、電話だと出てくれないみたいなことがよくあります(笑)。ヤングケアラーだった頃の葉一さんだったら、このプログラムのどのあたりを使いたいと感じるでしょうか?

葉一:メンターさんに話を聞いていただけるところですね。毎週決まった時間に聞いてもらえるのもいいですよね。希望する時に予約を取ってみたいなシステムだと、予約を取らなくなっちゃうから。自分の時にあったら違っただろうなと思います。

和田:そう言っていただけて、力をもらえます。ヤングケアラーと言っても、多様な背景の子どもたちがいるんですが、当時の葉一さんだったら、似たような境遇の子たちと話せるのってどう思いますか?

葉一:初めて参加する時のハードルは高いかもしれないですけど、一回行ったら次も行こうってなると思うんですよね。話を聞くのは好きだったので。

当時は障がい者の妹しか知らなかったけど、こういう状況の子もいるんだと知ることができたら、一人じゃないんだと思えてよかったかもしれないですね。

「つながる」ことが大事。
新たな発見は成長速度を早めてくれる

和田:「キッカケプログラム forヤングケアラー」以外でも、こんなプログラムがあったら良いなと思うものがあれば、ぜひアドバイスをお願いします。

葉一:「いろんな人に触れられる機会」って本当に大事だと思うんですよね。僕の動画を利用している子どもの中には不登校の子が割と多くて、彼らと直接話しをすることもあるんですけど、子どもたちにとっては学校が最大のコミュニティで、そこしかないと思っている子が多い。

でも世の中って学校以外にもコミュニティはいっぱいあるし、自分でコミュニティを選択していくことも大事だと思うんです。そしてそのときに重要になるのが、「安全性」だと思っています。

子どもが安心して選択することができて、気軽に親御さんも参加させてあげられる。そういった場所を増やしていく事が大事だと思います。

和田:最後に、いまヤングケアラーである子どもたちや、ケアをしているけれどまだ自分がヤングケアラーだと気づいていない子ども達へのメッセージをお願いします。

葉一:子ども時代の僕みたいにケアしているのが当たり前すぎて気づいていないながらも、心のどこかに不協和音がある子は実はいっぱいいると思うんです。そういう子どもたちにこそ「つながる」ということを大事にしてほしいと思っています。

ヤングケアラーの問題だけでなく、家庭内のことって外に出にくいじゃないですか。本人も家庭の外に出しちゃいけないことと思っている。でも安全な場所であれば、自分の思いとか、時には愚痴とかって表現していいものだと思います。

強制するつもりはないですけど、つながることで心が軽くなることもあるし、新しい発見をすることもある。それが、自分の知らない景色と繋がっていることもあるし、自分の成長速度を早めてくれる可能性だってあると思うんです。

それに、現在自分に起きている事実自体をポジティブに受け止められる視点が入ってくる可能性もある。だからひとりで頑張ろうとするんじゃなくて、「つながっていいんだよ」と伝えたいですね。

対談を終えて、葉一さんの強さはご自身のルーツからあることを感じました。自分に起きたことは全て糧になるという力強い言葉を、私たちが向き合っている子どもたちにもしっかり伝えていき、明るい未来への伴走をしていきたいと思います。今回は貴重なお話をありがとうございました。

葉一さんのSNSアカウント
■YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCzDd3Byvt91oyf3ggRlTb3A
■Twitter:@haichi_toaru
■公式サイト:https://19ch.tv/
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TEXT:藤井 聖子

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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