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KATARIBA マガジン

「新潟が一番ワクワクする」と思える環境を育みたい。 創業10年の教育NPOと高校教員が思いを一つに取り組む、 新潟県の探究学習プロジェクトとは /PARTNER

vol.220Interview

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category #インタビュー

writer 和田 果樹

2013年にスタートした実践型探究学習「マイプロジェクト」。現在では全国18会場で「地域Summit」が開催されるほど規模、内容ともに大きく成長していますが、その広がり方は地域によって様々です。新潟県では、たったひとりの教員の草の根の活動が、同じく県内で事業を展開してきたキャリア教育団体と出会い、大きなムーブメントに変わろうとしています。

その動きの中心にいるのが、今年創業10周年を迎える新潟県のキャリア教育団体「みらいずworks」に大学生の頃から関わってきた角野仁美さんと、プロボノスタッフとして共に活動している新潟県立新潟南高等学校の宮崎芳史先生。立場を超えて互いにリスペクトし合い、子ども達の学びや社会に対して熱い想いを抱いて走り続けているお二人にお話を伺いました。

連載「PARTNER」では、「地域パートナー」のように、カタリバのパートナーとして各地で活躍する人物に焦点を当ててご紹介していきます。

角野 仁美(Hitomi Kakuno)
全国高校生マイプロジェクト新潟県パートナー/NPO法人みらいずworks 理事/認定キャリア教育コーディネーター
岐阜県可児市出身、新潟大学教育学部 社会教育専攻卒。「子どもを取り巻く環境を豊かにしていきたい」と志した高校3年生の夏にみらいずworksに出会い、新潟への進学を決意。学生時代は新潟での活動をベースに、地元の地域課題解決型キャリア教育の企画・運営に携わる。現在は中学校・高校での探究的な学習の企画・コーディネート、体制づくりの支援に力を入れている。

宮崎 芳史(Yoshifumi Miyazaki)
全国高校生マイプロジェクト新潟県パートナー/NPO法人みらいずworks プロボノスタッフ/新潟県立新潟南高等学校 教諭
旅行会社で教育旅行の営業を経験し、2014年から新潟県の高校教諭へ。キャリア教育・プロジェクト型学習への挑戦を続け、前任校である佐渡中等教育学校の生徒は新潟県で初めて全国高校生マイプロジェクトアワード全国Summitに出場した。学校の垣根を越えた学びのコミュニティであるNIIGATAマイプロジェクト☆LABOの実行委員長を務める。

女子高校生の進路を変えた
あるキャリア教育団体との出会い

ーみらいずworksは、新潟県のキャリア教育団体の先駆けとして、県内を中心に様々な事業を展開されています。角野さんは、立ち上げ2年目の2013年、大学生時代にみらいずworksにジョインされたんですよね。どんなきっかけだったのでしょうか?

角野:高校3年生の頃、みらいずworksも運営に関わる「ファシリテーター型教師養成セミナー」という勉強会に参加したのがきっかけで、団体の存在を知りました。

ーなんと、高校3年生でですか?

角野:当時の高校の担任の先生に勧められて参加しました(笑)。もともと私は教師になりたいと思っていたんですが、先生と議論をする中で、子ども達の環境をより豊かにしていくには教員だけじゃなく多様な人が子どもたちに関わることが重要で、そこをつなぐ人たちがいないという課題があることを知ったんですね。

実際に勉強会に参加してみて、「コーディネーター」と呼ばれる子どもたちと地域社会とをつなぐ人たちに出会い、「こんな仕事があるんだ!」と衝撃を受けました。多様な人が一緒に学び合っている様子を見て、自分もそんな場をつくりたいと思ったんです。それがきっかけとなり、みらいずworksに関わるために、当時住んでいた岐阜県から新潟の大学に進むことを決めました。

角野さん(写真左)と宮崎先生

ー宮崎先生は県内の高校に教員として勤務されながら、みらいずworksにも関わられています。宮崎先生がみらいずworksに関わることになったきっかけは、何だったのでしょうか?

宮崎:私は大学卒業後5年間ほど旅行会社に勤めていたのですが、「地域・社会への当事者意識を持つ人を育てたい」という思いもあり、教員になりました。みらいずworksの存在は、教員採用試験に向けた準備をしていた頃に偶然人づてに知ったんです。教員として働き始める前からイベントのお手伝いをしたり、一緒にキャリア教育の授業を届けたりしてきました。

現在はみらいずworksのプロボノスタッフとして、県内で高校生の探究活動に伴走する教員や地域の方に向けた勉強会の運営や、新潟県内の高校生に向けたマイプロジェクトのプログラム運営を担っています。

*宮崎先生がマイプロジェクトに参画された詳しいストーリーはこちらで紹介しています。

「学校がブレーキになってしまうこともある」
という課題の解消に向けて

―そんなお二人が関わられているみらいずworksの活動について、もう少し詳しく教えていただけますか?

角野:みらいずworksは、新潟市を拠点に活動している教育支援のNPO法人です。「自分から 自分らしく みんなとともに、社会をつくる人を育てる」をミッションに掲げて、子どもたちに向けたキャリア教育プログラムの提供や、教員をはじめ子どもに関わる大人に向けた研修やコミュニティづくりなど、様々な活動をしています。

大事にしていることは、「自分がどうありたいか」という自分軸と、「どう社会と関わるか」という社会軸。その両方を育むキャリア教育のプログラムづくりや仕組みづくりに取り組んできました。学校の授業の時間を使ってプログラムを実施するなど、学校と協働した活動を行っています。

ーみらいずworksは、まもなく創立10周年を迎えられます。これまでにも県内で広く活動を展開されてきた団体が、このタイミングでマイプロジェクトの地域パートナーに参画されたのにはどのような背景があったのでしょうか。

角野:地域パートナーに参画するきっかけは、実は宮崎先生からの提案でした。

宮崎:教員である私とみらいずworksのそれぞれが課題と感じていたのは、生徒たちが探究活動を行う中で、「学校がブレーキになっていることもある」ということでした。放課後は部活や補習に忙しく、探究活動にまわせる余白が生徒にも先生にもない状況なんですよね。

ただ、先生も生徒も、これ以上ないほど一生懸命やっているんです。そんな中で、心に火がついた生徒を社会で支える環境として、彼らを受け入れるコミュニティやネットワークを学校の外にも作りたいと思って。

マイプロジェクトのことは、2017年から生徒が参加していたので知っていましたが、私自身もマイプロジェクト全国事務局が主催する教員向けの勉強会に参加するようになって、「これだ!」と思うようになりました。マイプロジェクトの枠組みを使えば、自分たちが感じている課題感を解決することにも、つながるんじゃないかと考えたんです。

マイプロジェクトを通じて、地域や時代の閉塞感を打ち破って、「この時代が一番面白い」「新潟が一番ワクワクする」と思えるような未来を拓いていく生徒を育てていきたい。そんな思いで「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」実行委員会を立ち上げました。

「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」の様子。

―教員として感じられていた課題感から生まれた取り組みだったのですね。「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」への、高校生や先生方の反応はどうですか?

宮崎:2019年度から県内でマイプロジェクトの発表会を自主開催したり、マイプロジェクトのスタートアップを何度か開催(※1)したりしてきました。
(※1) 2019年度は「雪国 未来の人財育成コンソーシアム」主催

最初は数プロジェクトの参加でしたが、みらいずworksが主催している「探究学習ラーニングコミュニティ(※2)」などでつながった県内の先生方も増え、その先生方を経由して徐々に参加高校生の数も増えてきているところです。

(※2) 探究学習ラーニングコミュニティの詳細はこちら

立ち上げから10年の節目に取り組む、新たな挑戦

ー今年、みらいずworksは立ち上げから10年目を迎えられました。活動を続けてきた中で、大切にされてきたことは何だったのでしょうか。

角野:創業当初から大事にしているのは、どんな人もまず「人として出会う」ということ。肩書きや役職ではなく、その人がその人でいられる環境を作ろうとしているから、みんなが安心して関わってくださっているのかもしれないです。

そのおかげか、関わる先生たちから仕事だけでなく、個人的な相談を受けたりもします。「あの時、一緒に泣いてくれたから次に進めたんだよね」など、嬉しい言葉をかけて頂くこともあります。

みらいずworksスタッフの集合写真

―今まで続けられてきた中で、見えてきた変化はありますか。

角野:かつて参加者だった高校生が、自らもプロジェクトをやりながら、今度は他の高校生に伴走するという循環も生まれはじめています。まさにこういう関係性を作りたかったので、それはいい変化ですね。

宮崎:私たちが開催したスタートアッププログラムの内容に感銘を受けて、自分の学校に持ち帰って生徒会でワークショップをした生徒がいたと聞いた時は嬉しかったですね。参加者同士がつながったり、参加者から連鎖が生まれたりするようになってきました。
一方、マイプロジェクトに取り組むことへのハードルが高い学校も多いので、そこをどうクリアしていくかが、これからの課題です。

ーみらいずworksとしての、新たな目標やテーマがあれば教えてください。

宮崎:「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」に関しては、色々と想いは溢れているのですが、これまで手弁当でやってきたことを組織的に継続することが目標ですね。資金面や運営体制について、いかに現実的な形で作っていくかを考えています。

角野:より持続可能な形に移行していくため、団体として今年度「サポーター制度」を創設しました。ただご寄付をいただくだけではなく、高校生の活動をサポートしたり、高校生と一緒に何かにチャレンジしたりする「応援者」となって参画いただく制度です。

高校生の学びを支える仕組みでもあり、高校生と一緒に大人がチャレンジできる環境にもつなげたいというのが願いです。

宮崎:高校生の学びを支えるために、地域で持続的に走っていける事業モデルを作りたいんです。その先駆けになれたらと思っています。

ー今年度は、マイプロジェクトアワードの新潟県Summitも初開催となります。

角野:「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」全体の話でもあるのですが、10代の「これだ!」というものに出会ったときの有り余るエネルギーをしっかりと受け止め、前向きな気持ちの連鎖を生んでいく場にしたいと思います。

宮崎:Summitを通じて「社会は自分で面白くできるんだ」と思える人が増えるといいなと思います。それが実のある社会変革につながっていくはずと信じていますので。

 

NPO法人みらいずworks
■ホームページ:https://miraisworks.com/
■NIIGATAマイプロジェクト☆ラボ:http://niigata-mypro-labo.com/
■新潟マイプロサポーター制度:http://niigata-mypro-labo.com/support/

-文:和田 果樹
-写真:NPO法人みらいずworks 提供


 

●全国高校生マイプロジェクトでは、本記事でご紹介した「一般社団法人ウィルドア」をはじめとする全国の17団体/個人の皆様と「地域パートナー」としてパートナーシップを結び、マイプロジェクトの学びを全国に広げる活動を行なっています。
地域パートナーとの協働や現場視察を希望される方は、こちらのフォームからご相談ください。

●また本日11/1(月)より、今年度の「マイプロジェクトアワード」に向けたエントリーも開始しました。一人でも多くの高校生のご参加をお待ちしています。
▶エントリー概要詳細はこちら

 

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「生き生きした若者が育つ環境をつくりたい」 その思いから自衛官を辞め、地域パートナーに転身。 彼が目指す「日常的な学びの場と未来の形」とは
「若者が自分の思いを大切にできる社会にしたい」という想いで立ち上がった青年二人が、 ものすごいスピードで進化させている、長野県の探究学習プロジェクトとは

Writer

和田 果樹 全国高校生マイプロジェクト事務局

1990年10月8日生まれ。兵庫県出身。小樽商科大学卒。大学院で教育心理学を学んだ後、新卒でカタリバ入社し、コラボ・スクール大槌臨学舎に配属。現在は全国高校生マイプロジェクト事務局を担当。座右の銘は「中道は大道」

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