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「こんな自分でもいいんだ。」不安だらけの大学生が乗り越え見つけた自分の道。

vol.082Interview
Profile

松本 笑 Matsumoto Emi NPOカタリバ 実践型インターン

神奈川県藤沢市出身。小学生の頃から教員志望だったが、高校生の時、後輩の自殺をきっかけにスクールソーシャルワーカーを目指し、上智大学社会福祉学科に入学。社会福祉を学びつつ、地域や福祉、教育のあり方について考える。自分のやりたいことを模索し、将来に不安を感じていた矢先、SNSでカタリバの実践型インターンシッププログラム(日本が抱える様々な社会課題に対して、「教育」という角度から1年間本気でコミットする、学生向けのプログラム)を知る。半信半疑で説明会に参加し、不安だらけで熊本県益城町でのプログラムに参加した松本が、一年間を終えて得たものとは・・?

誰かに寄り添える仕事がしたい。
後輩の死をきっかけに、自分の生き方を模索した。

松本さんは、2018年から1年間、大学を休学してカタリバの実践型インターンに参加しましたね。大学では社会福祉学科で福祉の勉強をしていた中で、教育系NPOのカタリバでの活動に興味をもったのはなぜですか?

福祉を学ぼうと思ったのは、高校のときです。部活の仲が良かった後輩が亡くなってしまったのがきっかけでした。実は自殺で、遺書を見ても彼女が命を絶った理由がわからなくて。でもたぶんその子にとってはその選択をしなければならない理由があったはずなんですけど、私は彼女の気持ちに寄り添ってあげられなかったことが悔しくて。誰かに寄り添えるような仕事がしたいと思うようになり、スクールソーシャルワーカー(以下、SSW)を目指し、大学も社会福祉学科に入学しました。

大学3年生の冬に、そろそろ本格的に就活をはじめなきゃなと思っていたんですけど、自分が何をやりたいかわからなくなっていて。SSWを目指しているけど、本当になりたいのか、どんなSSWになりたいのか、描けていなくて。

小学生の時は学校の先生を目指していたので教育にも興味がありました。教育にも福祉にも興味はあるけど、将来何をしよう。自信がなくて、漠然とした不安もあって。そんなとき、たまたまfacebookを見ていたら、カタリバで実践型インターンを募集しているという記事が出てきたんです。

 

その記事を見て、カタリバでの実践型インターンの説明会に参加したんですね。どのような気持ちでしたか?

説明会にはなんとなく参加して、話をしてくれた人たちを見て、あついな~とかすごい人達がいるな~と感じつつ、すごく他人事に思えて、私には無理だろうなと遠い目で見ていました。でも、説明会の中で、熊本県の益城町で働いているカタリバの職員さんと1対1で話す機会があって、自分の正直な話を聞いてもらったんです。

その時、「ここで自分のやりたいことを見つけないと、この先もなんとなく過ごしていきそうだね」と言われて、ハッとしました。このまま時の流れに身を任せて就活して社会人になっていいのかなという疑問が生まれて。もしかしたら、この実践型インターンの1年間が、自分のやりたいことを考えるいい機会になるかもしれない。自分の頭でちゃんと考えて行動する訓練になるかもしれない。そう思ってとりあえずエントリーシートを書いて送りました。でも、そのときの気持ちは50%くらい(笑)あまり行く気持ちも、そこまでの熱もなかったんです。迷いや不安も大きくて。

その後、予想外にもあれよあれよと選考が進んでしまい、合格通知が来て、「え、私なんかでいいの?」と思っていたところに、説明会で話をさせてもらった職員さんから「あなたと一緒に活動したいです」というメッセージを頂いて。気持ちが高まりました。「こんな私でもいいんだ」と。自分に何ができるかはわからないけど、よし、やってみようと思いました。

活動場所は、熊本県の益城町を希望しました。現地視察をしたときに、アットホームな雰囲気が「寄り添える」居場所のように感じたからです。あとはどうせ行くなら一番遠いところがいいなと思って(笑)

松本さんは神奈川出身で、突然「熊本で活動する」という話をしたとき、ご家族や周りの反応はどうでしたか?

こんな気持だったので、ちゃんと合格するまで言えませんでした(笑)。決まってから両親に伝えたのですが、祖母も含め、とても心配されました。ずっと実家で一緒に生活してきたので、寂しさももちろんあったと思います。「なんでそんな遠いところに行くの」と。でもそのころには私の気持ちも100%になっていて、半ば強引に行くことを決め、私の決心が固いとわかってからは、応援してくれました。

準備を始めていよいよ具体的になってくると、車の免許も取り立てだけど運転しなければならなかったり、一人暮らしも初めてだったり、生徒と密に接する経験も今までなかったり。行くと決めたものの、この時もまだ不安と自信のなさでいっぱいでした。

不安と自信のなさが消えていく。
新しい自分に生まれ変わるひとつひとつの経験。

4月に着任して、はじめにどんなことをしたんですか?

益城町では、放課後の校内と仮設団地の中での2種類の学習会を開催していたのですが、3月まで通っていた中3生が卒業してしまったので、学習会に参加する生徒がどちらもゼロの状態で。まず私の仕事はこの2種類の学習会に「生徒を誘い出すこと」でした。

どうしたら学習会に来てくれるかわからなかったので、はじめのうちはひたすら対象の学校の中を歩き回って生徒に声をかけるということを繰り返す日々。益城の子たちはとても人懐っこくて、すぐに仲良くなれました。生徒の顔と名前が一致して、いろいろなことを話しているうちに、私自身の不安はどんどん減っていって、この先もなんとか活動していけるかも・・と思えるようになったんです。

5月の連休を過ぎると、じわじわと生徒が増えてきて、1日に10人くらい来てくれるようになりました。学習会が本格的に始まると、学習の支援をする傍ら、生徒たちから学習以外の相談を受ける機会がだんだん増えてきました。恋愛相談、進路相談、人間関係の話とか。生徒にとっては年も近くて話しやすかったみたいです。

学習会の合間に生徒から相談を受ける松本

松本さん自身も大学生でありながら、ボランティアで手伝ってくれる地元の大学生のシフト管理や調整、定例会議の運営もしていたそうですね。大変だったことはなんですか?

大変だったのは、定例会議の運営でした。益城拠点の運営に関わるカタリバ職員や学生ボランティアさんが、月に1度全員集まって話し合いをするんですが、この会議自体が新しくスタートしたものだったので、議題やコンセプトなど特に決まったものがなかったのです。

この会議をどんな場にするのか?何を話し合うのか?という仕切りをすべて任されて、どうしよう・・と毎日毎日考えていました。会議の設計もそうですが、ファシリテーターも苦手で。先輩にアドバイスをもらったり参加している大学生に意見を聞いたりしながら試行錯誤していきました。

最終的には、大学生が生徒と関わる上での接し方の相談とか、悩みをみんなに共有して解決したりする場に変わっていきました。この会議で大学生が気持ちをリセットすることで、良い状態で生徒に関われるようになり、生徒にとっても良かったかなと思います。今でもファシリテーターは苦手ですけど(笑)、周りの人の力も借りていけば、なんとかなるかも、と思えるようになりました。

 

順調に不安や自信のなさが減っていっているように感じますが、自身が一番成長したなと感じられる活動はなんでしたか?

基本、毎日山あり谷ありだった(笑)のですが、活動の中で一番失敗したなー・・・というできごとがありました。これが一番の成長につながるのですが。

夏休みに生徒を15名くらい集めて、県内の宿泊施設に泊まりながら勉強をしようという合宿の企画があって、そのリーダーを任されました。ところが、この企画のサブリーダーを務めてくれた地元の学生ボランティアさんと全然うまくいかなくて。意思の疎通がうまく取れないし、私もなんとか形にしなくちゃとだんだん焦ってきて、彼に任せていた仕事もどんどん勝手に進めていってしまったんです。

そうしたら、合宿が終わった直後に、サブリーダーの彼から「これ僕がやりたかったことじゃないです!」と言われてしまい。その時やっと私も「あ、私は彼の意見を全然聞けていなかったな・・」と気づいたんです。誰かと一緒に企画をつくり上げる難しさを感じました。

そのあと、彼との人間関係はギスギスしてしまって、話しづらい期間が続きました。私も彼のことを信じることが難しくて。ただ、その半年後には驚くほどよい人間関係になったんです。

えっ、それは驚きですね。その期間にどんなことがあったんですか?

たまたまこの時期に、実践型インターンの半期振り返りが東京で開催されて、その発表の中でぼろぼろ泣いてしまったんです。人の前でこんなに自分が嫌だった感情を吐き出すのは初めてで。でもそんな私の話を聞いた上で同期のみんなは、この後どうしたらいいか一緒に考えてくれて、「燃えつきろ!」というメッセージをくれたり励ましてくれたりして。こんな私を見捨てずに応援してくれて、本当に感謝しています。

それで吹っ切れた私は、先輩や上司にあたる職員さんにたくさん話を聞いてもらいました。自分がどういう行動をするべきだったか、どんなふうに彼と関わるべきだったか、振り返ったことを真っ直ぐに伝えました。そうしたら、ちゃんと受け止めてもらえて。肯定してもらえたことで、前に進めたんです。

そこからは意識的に学生たちに役割分担をして「任せる」ことをしていったんです。そのうち、だんだんみんなが主体的になってきて、「こんなことをしたい」「これはこうしたほうがいい」と意見を言ってくれるようになって。そこからチーム全体が良い雰囲気になっていきました。

そしてありがたいことに、犬猿の仲になってしまった夏合宿の彼とのリベンジの機会が半年後の3月、訪れたんです。西日本豪雨の被害が大きかった岡山へのボランティアツアーに生徒を引率するイベントの企画運営です。今度こそ「任せよう」、相手のことを「信じよう」と心に決めていました。そうしたら、すごくうまくいって。自分の成長も感じつつ、お互いに納得度の高い充実したイベントになりました。最初は大失敗から始まったんですけど、最後にリベンジできて本当に良かったです。

岡山へのボランティアツアー企画で松本はリベンジし、良いチームとなった。

 

50%でもいい。悩みながらでもいい。
やってみることで、本当にやりたいことが見えてくる。

実践型インターンの活動に参加する前と後では、どんな変化がありましたか?

とにかく、本当に自信がつきました。やる前は、自分の意見を言うのが嫌で、自己開示も苦手で、自分の気持ちを押し殺して一人でいろいろなものを抱えてもやもやしていることが多かったんです。でも、時と場合によっては、自分の意見を言うことや、良かったことも改善したほうが良いことも相手にちゃんと伝えることが必要だとわかりました。あと、人に助けを求められるようにもなったと思います。

それから、SSWを本格的に目指そうという決心がつきました。あえて教育の中にどっぷり浸かった一年間でしたが、福祉の視点から寄り添うこともすごく大切だと思いました。教育を成り立たせるためには福祉がないといけないし、福祉が最大限に活躍できる場っていうのは教育なのかなと。良い教育を届けるために、その子に寄り添いながら安心して学べる生活環境を実現していける人になりたいなと思っています。

実は、大学卒業後は、これからフリースクール事業を始めようとしている塾に就職が決まっているんです。もちろん、私がSSWを目指しているという前提で関わらせてもらえるので、とてもわくわくしています。子どものやりたいことを全力で実現できるSSWになれるよう頑張ってみようかなと思えたのも、実践型インターンで修行(笑)したおかげです。

これからがとても楽しみですね。最後に、これからカタリバの実践型インターンシッププログラムに参加しようとしている人たちに向けてメッセージをお願いします。

変わりたい、成長したいという人にはぜひやってほしいと思います。私も最初はすごく不安で自信もなくて、やる気も50%くらいしかなくて。でもそんな自分を変えたくて参加しました。1年経って本当に変わったな、と思っていますし、この寄り道がなかったらやりたいことを見つけられなかったなと思っているので、迷っている人にこそ参加してほしいと思います。

周りを見ると、熱い塊のような人や「デキる」人ももちろんいて、はじめは圧倒されてしまいそうでしたが、目標があってきている人や同じように悩みながら来ている人たちもいて、その人それぞれの成長があるはずなので、安心して(笑)参加してみてください。

松本が経験した実践型インターンシップの概要

[活動期間]
2018年4月〜2019年3月

[活動場所]
ましき夢創塾(熊本県益城町)

[担当ミッション]
1/放課後学習会の設計・運営(生徒募集、学習支援、ボランティアマネジメントなど)

2/イベントの企画・運営(夏期勉強合宿、岡山県真備町へのボランティアツアー)

3/拠点内定例会議の設計・運営・ファシリテート

4/保健室支援

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Writer

長濱 彩 パートナー

神奈川県横浜市出身。横浜国立大学卒業後、JICA青年海外協力隊でベナン共和国に赴任。理数科教師として2年間活動。帰国後、2014年4月カタリバに就職。岩手県大槌町のコラボ・スクール、島根県雲南市のおんせんキャンパスでの勤務を経て、沖縄県那覇市へ移住。元カタリバmagazine編集担当。現在はパートナーとしてオンラインによる保護者支援や不登校支援の開発を担う。

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