不登校、発達障害…サードプレイスで出会ったタクトとアラタが高校へ進学、軽音部に入るまで
家庭でも学校でもない、第3の居心地が良い場所「サードプレイス」。そこは、子どもたちがやりたいことが見つけたり、自分の良さに気づくことができたりなど、世界が広がる場所でもあります。最近では「子どもの居場所」としても認知が広がっています。
ある2人の男子中学生は、学校に馴染めず不登校になりました。そんな2人がサードプレイスで出会って仲の良い友だちとなり、さまざまなスタッフのサポートのもとで成長。現在は充実した高校生活を送ることができています。彼らのサードプレイスでの日々と成長の過程についてお伝えします。
それぞれの事情で不登校になった2人の男子中学生
アラタさんは小学生のときに発達障害の診断を受け、中学1年生から「このまちテラス」に来所するようになりました。「このまちテラス」は学校での生活に不安や戸惑いを抱えていたり、学校へ通うことに困難さを持っていたりする子が多く通う、子どもたちのためのサードプレイスです。
アラタさんにずっと伴走してきたスタッフのフミカさんは、彼についてこう説明します。
「コミュニケーションはよく取れる明るい男の子です。工作や絵、ギターなど自分の手で何かを表現することが得意で大好き。その一方で忘れ物が多くこだわりが強い面があり、小学校では先生に怒られる場面も多かったようです」
そのことが原因かはわかりませんが、アラタさんは学校を強く拒否するように。「制服を着るのも嫌だし、学校という場所も無理」と言うようになりました。
そんなアラタさんが中3になった4月、同い年のタクトさんが「このまちテラス」に来所するようになりました。タクトさんは中学2年生から不登校気味になり、たまに学校に行ったときも会議室など別の教室で過ごしていました。そんなタクトさんに伴走し、一緒に会議室で勉強したりしていたのが「このまちテラス」スタッフのショウゴさんでした。
「タクトさんもコミュニケーション力はとても高い子です。ただ、授業中納得できないことがあると質問せずにはいられない、迷惑かけているのは分かっているけど気になるのが止められないなど、周りに合わせるのが苦手なようでした。
タクトさんの質問は大人から見ると面白い気づきだなと思うのですが、クラスメイトからすると授業を止めるやつと思われてしまうことがあったのかもしれません。本人も『自分は周りと違う変なやつと思われてる』と感じて、大きな孤独感を抱えているように見えました」(ショウゴさん)
初めてできた自分のペースで付き合える友だち
「このまちテラス」では中3生は受験勉強のため、他の子たちとは教室を分けて授業を行います。アラタさんとタクトさんが顔を合わせることも多くなり、自然と仲良くなりました。
「いつも2人でずっとおしゃべりしていました。その会話はキャッチボールというよりドッチボール。それぞれが自分の好きな話題を語っているんですが、たまに奇跡的に噛み合ったやり取りが成立していて、その様子を横で微笑ましく見守ることもありました(笑)。2人とも楽しそうで、相性の良さを感じましたね」(ショウゴさん)
たまたま同じ高校への進学を希望していたこともあり、受験勉強も一緒に頑張っていた2人。ミニテストでは互いの点数を気にするなど、いい意味でライバル意識も芽生えていたようです
「彼らは学校でも家でも大人に怒られることが多く、彼ら自身も『わかっているけどできない』ジレンマを抱えてきたと思います。そんな彼らが受験などの現実を突きつけられる中で仲間ができ、今まで1人で受け止めていたことを2人で受けられるようになり、ときには笑い合うこともできる。それはとても心強いことだったと思います」(フミカさん)
家族が振り回されるのを防ぐためにLINEを活用
2人はほぼ毎日「このまちテラス」に来所するように。そんな中、彼らの特性ゆえのすれ違いも度々起こりました。
たとえば、タクトさんは「やりたい!」と思うとすぐ行動に移してしまいます。学校に行くと言って出かけたのに気が変わって「このまちテラス」に来たり、突然自転車で遠くへ出掛けてしまったり。家族がご飯を食べずに待っている中、夜の11時過ぎに帰宅して、お父さんが激しく怒ってしまったこともありました。
その様子を見たショウゴさんは、タクトさんとお父さんにLINEでやりとりすることを提案。タクトさんから「今バスに乗った」「降りた」という連絡を送ることになりました。また、ショウゴさんはタクトさんに対して、そうする理由も説明しました。
ショウゴさんが「学校へ行くと言ってこのまちテラスに来たり、黙って夜遅くまで出かけたりしていると、タクトさんの言うことを信用してもらえなくなるし、次にタクトさんがやりたいことが出てきたとき、応援してもらえなくなっちゃうよ。そういうのはやらない方がいいんじゃないかな」と、わかりやすい言葉で丁寧に伝えると、タクトさんも納得。
以来、頑張ってLINEで連絡するようになり、家族も振り回されるストレスを軽減することができたそうです。
「変化」を求められすぎると苦しくなるから
一方、アラタさんは中3になって進路相談やテストのことなど、学校に行く必要があるシーンが増えてきましたが、頑なに登校を拒否していました。担任の先生が熱心に『このまちテラス』に来て話をしてくれるのですが、アラタさんは黙り込むばかりです。
「アラタさんにも考えをまとめる準備の時間が必要だと感じました。そこで、事前に先生から面談で話したい内容を聞き、何のために学校に来てほしいのか、テストに参加する意味は何かなどを、彼が理解しやすい表現に変えて伝えました。そして、『今度先生がこの話をするから考えておいてね』と時間をとるようにしたんです」(フミカさん)
フミカさんの粘り強い働きかけもあり、アラタさんは中3の2学期半ばから数回、学校に行くようになりました。
その後、2人は共に志望高校に合格。今年、高校2年生になり、アラタさんは軽音部の部長に。そのアラタさんの誘いでタクトさんも軽音部に入部し、一緒にバンドをするなど充実した高校生活を楽しんでいるそうです。
「当時を振り返ると、私も含め周りの大人は『今すぐ変化すること』を彼らに求めてしまっていたように思います。でも、彼らは彼らなりに先のことを考えていますし、そのとき目に見える変化がなくても変わることができる。その後の彼らの変化・成長が、そのことを証明していると思うんです。
すぐに変化しなきゃいけない、変化がないとダメ、と思い過ぎると彼らは苦しくなってしまいます。その子なりの成長とタイミングがあると思うことで、皆が少し楽になれるように思います」(フミカさん)
「このまちテラス」には、アラタさんのように病院で発達障害などの診断を受けた子も多く通っています。その経験からフミカさんが心に決めているのは「診断結果でその子を決めない」ということだそうです。
「事前情報として頭には入れますが、直接関わる時は忘れます。なぜなら、どんな診断の場合も子どもは本当に十人十色。同じ診断名でも一人ひとり個性が異なりますし、一般的に言われている特性が当てはまらない子も多いのです。
ラベルで子どもを見てしまうと、支援も画一的になりがちです。それが本来持っている伸びる力を妨げてしまうこともあります。その子に合った、本当に有効な支援ができたらと思っています」(フミカさん)
また、ショウゴさんは「家族がサポートを受けることも大切」と話します。
「タクトさんもアラタさんも、マイペースで好きなことに夢中になるタイプ。それはエネルギーがあるということなので否定しないであげてほしいのですが、一方で、振り回される親御さんや先生の大変さもよくわかります。身近にいる人ほど、冷静に温かく見守ることが難しいですよね。
だからこそ、振り回されても頑張っている先生や親御さんの気持ちに寄り添う存在も大事、ということを知ってほしいんです。1人で頑張ろうとしないで、どこかに相談したり一緒に考えてくれる人を探して、ぜひ周りに頼ってほしいと思います」(ショウゴさん)
※個人の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています
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かきの木のりみ 編集者/ライター
東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。
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