「学びたいことが、どんどん湧いてくる」withコロナ世代のマイプロジェクト #01
withコロナ世代の
マイプロジェクト
数ヶ月前までは、誰も予想していなかった新年度が始まった。新型コロナウイルス感染症の世界的流行による一斉休校。日がな一日ニュースを眺めていても、どこも話題は”コロナ”一色だった。「自粛」という言葉がメディアを踊り、「自粛警察」という言葉までうまれた。社会は日に日に、言いようのない閉塞感で満ちていったように思う。
高校生という多感な世代は、この状況をどう捉えているのだろう。
学校に行って授業を受け、友人や先生と語らい、また部活に精を出す。休日は好きな街に出かけたり、塾で学んだり、様々な経験をする。そんな当たり前の日常を突然奪われたショックは、大人の立場からでは想像しきれない。楽しみだったイベントも中止や延期に追い込まれ、会いたい人に会えない、やりたいことができない。そんな「できない」づくしの感覚は高校生たちだけでなく、社会全体を覆った。
また、学校や教育を取り巻く状況が一変し、頭を悩ませているのは無論高校生たちだけではない。
彼らを最前線で支える教職員たちはどうだろうか。対面で授業ができなくなったどころか、生徒と日々声を交わすことすら難しくなった。そんな中、日々目の前の学びや安全な空間を創るため試行錯誤を繰り返しつつも、学校が再開してもいつ第二波がくるか分からないと言われる中、見通しのつかない日々に大きな不安を感じている教育関係者は多い。
ただ、そんな「教育の危機」とも言える厳しい状況の中で、誰が示し合わせたわけでもなく、全国各地で高校生たちが立ち上がり始めた。
休校期間を学びのチャンスと捉え、普段出会えない人にアクセスし、新しいプロジェクトを始める人。この状況下でも想いを絶やさず、自分自身と丁寧に向き合いながら地道に活動を続ける人。コロナによって起こった地域の課題そのものに向き合い、様々な制約の中で自らにできることを創り出していく人。
環境のせいにせず、あるときはむしろそれを逆手にとって、出会いや知識の枝を伸ばし、各々の「マイプロジェクト」を発展させていく高校生たち。この状況下でも行動し続ける彼らを「一部のすごい高校生」と括ることは簡単だが、それぞれのストーリーは多種多様だ。一人ひとりのアクションやそこに込める想い、背景などは誰一人とて同じではない。
また、高校生の可能性を信じ、背中を押すために動き出した教職員たちの姿も同時に浮かび上がってきた。この状況をむしろ日本の教育をよりよく変化させるチャンスと捉え、積極的に新しいことにチャレンジをしていく人々。また、改めて学校の意味や価値を問い直し、内部から組織を変えようと奮闘している人々もいる。
今回は、withコロナをめぐって新しい学びに挑戦するいろいろな人々にスポットを当て、彼ら彼女らへのインタビューから、コロナによって全国各地で生まれ育ちつつある、多様な未来の学びの形を探っていきたい。
学びたいことが、
どんどん湧いてくる
愛知県内の学校に通う高校3年生、富田さん。高校生向けのフリーペーパーやオンラインスクールの主催など、彼のプロジェクトは今や多岐にわたるが、それらのプロジェクトが本格的に始まったのは2020年2月。なんと2ヶ月と少しで、何もなかったところから複数のプロジェクトを同時に走らせはじめ、全国各地の多くの高校生とつながっていった。それは、一斉休校という状況が大きく後押ししたという。
富田さんに話を聞いた。
富田さん:「一斉休校というこの状況は、自分の時間を自由に使えるチャンスだと考えました。今は、日本中や世界中どこにいる人ともオンラインでつながることができるので、学校からの課題をマイペースにこなしながら、昼間は全国各地のメンバーといろんなミーティングをしたり、オンラインイベントに参加したりしています。海外の高校生と話をする時もあります。
勉強が疎かになってしまってるのは少し心配ですが(笑)、今は自分にとって本当に必要な知識が学べていると感じます。それは漫然とネットを見ているだけではダメで、人と直接話してわかることが多いです。そうすることで、「今自分は何を知りたいと思ってるのか」が明確になるから。あとは、実際に行動に移してみながら学んでいます。行動に移せば失敗もするし、わからないこと、学びたいことがまたたくさん出てくる。特に今は、人間関係やチームマネジメントの部分で学びが多いですね」
愛知の高校生が活躍
できる土壌を作りたい
富田さん:「メインの活動として「あけぼのスポット」という、東海地方の高校生の活躍を伝えるフリーペーパーの制作をしています。少し前に、自分が掲載されたフリーペーパーが学校で配布されたことあったんです。その時、いろんな人に『お前すげえな』って声をかけられて、すごく嬉しかった。自己肯定感が上がったんです。僕にとってはそれがすごく大きくて、そういう経験を、いろんな人にしてもらいたいなと思った。放っておいても勝手に発信されて行くようなすごい人じゃなくて、あくまで『自分の隣の席に座ってる、実はちょっとすごい奴』みたいなタイプの子。そういう子たちを取り上げていくことで、『自分にもこういうことできるかも』と思う人が増えて、みんながアクションしやすい土壌を少しずつ作れるんじゃないかと思ったんです」
わからないことにたくさん
出会って、自分で考える
きっかけになった
富田さん:「フリーペーパーとはまた別に、『あけぼのオンラインハイスクール』というオンラインイベントを主催しているのですが、いろいろ試行錯誤しています。毎回あるテーマに沿ってディスカッションするのですが、真面目すぎると当たり障りのない話になるし、自分の趣味を出しすぎるとついて来れない子が出てくるし、高校生同士だけでディスカッションすると議論の方向性がずれてしまったりする。
まだまだ改善の余地はありますが、失敗すればするほどいいものができると考えています。やってみないことにはどうなるかわからないし、自分が失敗しているところをたくさん見てもらえれば、後輩や他の仲間が同じ失敗をせずに済むようにもなると思うし。だけど結局、『どういうテーマがいいだろう?』と運営メンバーと考えている時が一番学びになっているとも感じます。とても頭を使うし、それでわからないことが出てきて、改めて調べるようにもなるので。
そういう一連のことに気づいたのは、やっぱりこの休校期間のおかげかもしれないです。教えてくれる人がそばにいないからこそ、自分での頭でちゃんと考えるようになりました」
コロナだからこそ奮い立って
高校生の元気を発信したい
富田さん:「フリーペーパーは今後、自粛期間が終わったら学校に配ったり、10万円給付に合わせて市役所に置いてもらったりすることを考えています。こんな時だからこそ、発信をやめてはいけないと思ってます。
僕は通学だけで往復5時間かかる場所に住んでいて、学校に通うには毎朝4時半に起きます。母はそんな僕に合わせて3時半とかに起きるんです。私立だから学費も高いし、毎月の交通費も馬鹿になりません。だからこそ、ただ学校に通って勉強するだけではダメだ、何か社会に対して価値のあることをしないとっていう思いがずっとあります。
まわりの高校生の現状を見てみると、やっぱり自分からいろいろな機会に参加する人は少ないなと感じています。大人だったらお金を払ってでも参加したいと思うようなイベントにも、無料なのになかなか来ない。それはもどかしいと思っていて、選り好みする前にまず行ってみなよ、ということを伝えたい。
そして何より、『一緒にやりませんか?』ということを、全国のたくさんの高校生の皆さんに伝えたいです」
突然始まり、終わりの見えない休校期間を自身にとっての好機と捉え、着々と全国の仲間や共感者を増やし、次々に新しい活動を始めていく富田くん。その活動の全てがうまくいかなくとも、「失敗はすればするほど良いものができる」と現実をとらえる彼の学びは、既存の学校教育の枠組みの中ではなかなかフィットしにくかったはずだ。
まずは仲間を集め、実際に動かしてみながら考え、改善していく。そうしていくうちに、自らが今学びたいことが明確になり、さらに学びのサイクルが加速する。「自分が学びたいことがわからない」と悩む高校生は多いが、それは自ら行動することで見えてくるのだと、富田くんをみていて気づかされる。状況の変化を恐れず、むしろ楽しみ、臨機応変に対応しながら物事を進めていく彼の姿勢から、予測不能な社会を力強く生きる力の片鱗を感じることができた。
最後に、富田くんから高校生へのメッセージを紹介したい。
しかしこんな状況だからこそ、「コロナのおかげで」自分の想いを表すきっかけになってほしいと考えています。
そこで!私たちは下記のような活動を始めました。コロナの影響により家で自粛中の今だからこそしたいこと、コロナが収まったらしたいこと、自分のこんな夢あんな夢、みなさんの強い想いを、自分らしさを出した文字を使い紙の上で表現してください。(作品上に名前を書く必要はありません)作っていただいた作品は、写真を撮っていただき、
#君の想いは自粛するな
#コロナ567を超えろ
この二つのタグをつけて、Twitter、Instergram、Facebookに投稿してください。
もしくは、showtheemotion567@gmail.comか個人のメッセージで運営側に直接送ってください。送っていただいた皆さんの作品567枚以上を使って、コロナ(567)を超える象徴となるモザイクアートを皆さんの想いで作り上げます!あなたの想いが詰まった素敵な作品を心よりお待ちしています!
和田 果樹 全国高校生マイプロジェクト事務局
1990年10月8日生まれ。兵庫県出身。小樽商科大学卒。大学院で教育心理学を学んだ後、新卒でカタリバ入社し、コラボ・スクール大槌臨学舎に配属。現在は全国高校生マイプロジェクト事務局を担当。座右の銘は「中道は大道」
このライターが書いた記事をもっと読む