社会に開かれた学校づくりは地域の本気を巻き込む![マイプロジェクトのドラマ#05]
連載 マイプロジェクトのドラマ
エントリー締切が間近に迫る全国高校生マイプロジェクトアワード。全国13会場+オンラインで7,000人の高校生が集まる舞台が、今年も開幕します。審査基準「協働性」の評価において、前回大会で大きな存在感を示したのは「地域みらい留学」の高校生たち。その舞台裏に迫りました。
都会から田舎の高校へ
あえて進学する選択肢
「地域みらい留学」という進路を知っていますか?
親元を離れ寮で暮らしながら、地方の高校で学ぶ仕組です。
海士町の「島留学」から始まり、今では全国59高校へと拡がりました。
神奈川県出身のげんたくんの場合、島根県立津和野高校を選択。津和野に広がる放置竹林に注目した彼は、行政や地域を巻き込んで竹についてのプロジェクトを実行しました。 その実績が評価され、この春なんと東京大学の推薦入試に合格。都会で埋もれるよりも、地域と協働しながらで学ぶことで可能性が芽吹く。その仮説は、今まさに証明されつつあります。
げんたくんは全国高校生マイプロジェクトアワード2017でベストラーニング賞を受賞
だからこそ全国高校生マイプロジェクトアワードは、
「協働性」を審査基準に位置づけています。
●多様な人たちと対話し、協力しながら取り組んできたか
●独りよがりでなく周囲に好影響を与え、価値を創りだしてきたか
いずれも、これからの時代に求められる資質です。
教育者の議論に、
高校生を混ぜた夏
瀬戸内海にも「地域みらい留学」の人気校があります。
広島県立大崎海星高校は学年1クラス、全校生徒は100名ほどの小さな高校ですが、そのうち2割が全国各地から集まっています。
大阪から進学したのは高校3年生の、ことねさん。「みりょくゆうびん局」というユニークな部活動に所属し、放課後になると地域にどんどん飛び出して活動しています。たとえばI・Uターンして島で働く大人をインタビュー。計100人以上のはたらきかたを掲載した『島の仕事図鑑』シリーズを発行しています。
みりょくゆうびん局の活動では、学校の魅力を伝えるときにはポスト姿に
私がはじめて大崎海星高校を訪れたのは去年の夏休み。全国の教育関係者と大崎海星高校の先生方30名ほどで、新しい教育について語る二泊三日の合宿「SCHネットワークシンポジウム西日本」が行われたときのことでした。
私を島に招待してくれたのは、魅力化コーディネーターの取釜宏行さん。この島の出身者で、大崎海星高校を廃校の危機から救うため都会からUターンしました。彼の情熱に感化された当時の校長は、「ハシゴは外さんけえの」と語ったといいます。
フェリーで島に着いた私たちを待ち受けていたのは「みりょくゆうびん局」の高校生たち。その中に、ことねさんもいました。彼女たちの案内で、私たちは島をぐるりと見学し、海やブルーベリー畑を満喫しました。
「SCHネットワークシンポジウム西日本」の際に訪れた瀬戸内海の海と集合写真
翌日、高校生の司会でシンポジウムが始まりました。
全国の先生方は教育実践を紹介し、悩みを語りました。
「高校をどう地域とつなぐか?」
「職員室をどう巻き込むか?」
「生徒たちをどう動かすか?」
普段だったら、高校生を前にして話すような内容ではありません。
最初は様子をうかがっていたことねさんたちも、少しずつ関心を示しはじめます。やはり自分たちが受けている教育に問題意識があるわけです。ある先生が「ICT教育のためiPadタブレットを配っても生徒はすぐ遊び始める」と悩みを伝えると、そういう生徒がいるから困るよね、と共感しました。また別の先進校の事例は、うらやましそうに聞き入りました。
そこで私が「高校生の社会参画が日本の課題」「やらされ探究学習が広がっている」という問題意識を発表したものだから、ついに高校生たちは熱く語り始めました。
「自分たち高校生にはやりたいことくらいある。軽く見ないでほしい」
こうなると、もう止まりません。
授業がつまらないから悪い・意識の低い生徒が悪い・リードできない生徒会が悪い・形だけの総合学習が悪い・自由にさせてくれない先生が悪い・・・
話し合いの様子
高校生には行動する覚悟があるか?
教員には応える覚悟があるか?
その様子を遠巻きに眺めていたのは校長でした。
その夜、本音を漏らしました。
「結局あいつらは評論家なんじゃ。やりたいならやればいいんじゃ。何で俺に言わんのんじゃ」
こういうときの広島弁は迫力があります。
最終日の朝、どうなるかなと見ていたら、生徒たちは自分たちだけで集まって議論を始めました。じゃあどうする?と。自分たちの高校を面白くするために、自分たちに何ができる?あれをしたい、これをしたい。
そのプランを会の最後に発表したら、会場は大喝采!
教育について議論する教育者たちを追い越して、めきめきと成長していく高校生たち。その姿は、私たちの胸を打ちました。 やがて、腕組みして眺めていた校長は、閉会挨拶を謝辞でしめくくった後、生徒に向き直ってこう語りました。
校長:「君たち、わかるか? 物事にはコストというものがある。メリットがなければコストは支払えない。それをマネジメントすることもまた教育だ」
説教になりそうな切り出し方に、生徒たちはうつむきました。
校長はまだ怒っているのかもしれません。
そして続けました。
校長:「お前らがやりたいなら、コストは俺がなんとかしちゃる。やり切れよ」
その目は「ハシゴは外さんけえの」との語っているように見えました。
高校生たちからの歓声があがり、取釜さんがこみ上げた涙を隠したことを、私は見逃しませんでした。
探究は連鎖し、
生態系をつくる
さて、あれから一年。
彼女たちは一体どうしているでしょう?
なんと宣言したとおりのプランをやり遂げて、この夏ついに学校紹介ムービーをYouTubeで公開。ディレクターをつとめたのがことねさんでした。地元企業と連携した、ドローン撮影の海や空の美しさは必見。ぜひみてください。
制作された学校紹介動画「瀬戸内×青春」
このように、本気でぶつかりあって生まれた言葉は行動につながります。
大人たちの本気に子どもたちが巻き込まれ、子どもたちの探究心で大人たちとの協働が深まっていく。その連鎖で織りなされる生態系こそが、社会に開かれた学校づくりの真骨頂なのです。
まだまだ紹介したい事例は山積みですが、この連載もあっという間に最終回。全5回の事例集は終わります。
これからも、探究をめぐる私の探究は終わりません。
読者の先生方と、現場でお会いできることを楽しみにしています。
きっとまたどこかで!
この連載の記事
#01/僕らがマイプロジェクトを始めたわけ
#02/島の高校と、ネットの高校。高校生をアクションへ導いた共通点とは
#03/「高校生団体」という新しいスタイル
#04/つくりたい!創作意欲からはじまる高校生クリエイターたちの探究
*本連載はリクルート進学総研発行キャリアガイダンスで連載する「マイプロジェクトに学ぶ、探究が蒔いた未来の種」の転載記事です。
今村 亮 パートナー
1982年熊本市生まれ。東京都立大学卒。NPOカタリバ創業期からのディレクターとして、カタリ場事業、カタリバ大学、中高生の秘密基地b-lab、コラボ・スクールましき夢創塾、全国高校生マイプロジェクト事務局を手がける。文部科学省熟議協働員、岐阜県教育ビジョン検討委員会委員を歴任。2019年に独立し「ディスカバ!」立ち上げ中。NPOカタリバパートナー。慶應義塾大学にて非常勤講師を兼務。共著『本気の教育改革論』(学事出版)。
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