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人に言われたからじゃない。周りと同じじゃなくてもいい。自分の意志でやりたいことに全力で取り組む。[マイプロ高校生のいま]

vol.047Interview

地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。高校生自身の主体性と、実践を両立しながら探究するプロジェクト型学習だ。マイプロジェクトに取り組む高校生が、少しずつ増えている。しかしその経験がどんな効果や影響があるのか、数字などでは簡単に語ることはできない。人の成長には様々な経験、出会いが複雑に影響し合うからだ。

それならば、一人ひとりの経験と“いま”から、マイプロジェクト経験がもたらすものは何なのかを考えてみたい。

特集「マイプロ高校生のいま」は、マイプロ高校生だった、彼らへのインタビュー。

 人に言われたからやるんじゃない。「自分がやりたいことを全力でやっている」というかっこよさ。

当時高校2年生だった竹中さんは、若者の野菜離れを防ぐための学生団体を立ち上げる。元々好きだった地域野菜を軸に何かできないかなと考え、小さく活動を始めた。そして「とりあえず出てみようかな」という軽い気持ちで、MYPROJECT AWARD2016 関西大会に出場した。そこで、衝撃を受けたという。

地元の特産品の柿の魅力を世界に広めるプロジェクトをやっていた岐阜のマイケル君のプレゼンテーションに、ものすごく刺激を受けました。話しのうまさとかもありますが、何より、“本当にやりたいことをやっている”ということが伝わってきて。自分がやりたいことを全力でやってるんだと、全身で語っているように見えました。

それを見て、僕も人に言われたからやるのではなく、自分がやりたいと思うことに全力で取り組みたいと思ったんです。それに、自分の他にも色んなことをやっている同級生や後輩がいっぱいいるんだということも知って、僕ももっとできるんじゃないかと考えるようになりました。

スイッチが入った竹中さん。“水ナス愛し隊”というプロジェクトを本格始動する。水ナス農家だった祖父の影響で子どもの頃から当たり前のように食べていた水ナスが、実は地元の特産品であることを先生に教わったことがきっかけになった。こんなにおいしい水ナスのことを、地元の若者に広めたいと考えた。

周りの友だちは地元のことを田舎で何もないと言うんですが、僕は違うと思っていました。地元で誇れるものがほしいなというのもあって、大好きな水ナスを広めることを考えたんです。小学生にアンケートを取ったりしながら、農業体験が野菜への関心や興味を引き出すきっかけになると考えて、畑を貸してもらって水ナスの栽培を始めました。

20人のメンバーをまとめるチームマネジメント、
という板挟み経験。

いざ動き始めると、畑用の土地を貸してくれる人が見つかり、苗を提供してくれる人が決まり、道具を貸してくれる人も現れた。トントン拍子で話が進んだが、先生からの理解は得られなかった。

水ナスのプロジェクトに取り組み始めた時、僕は高3になるタイミングでした。受験勉強がある中で、プロジェクトが具体化すればするほど、経験もないのに責任を持ってできるのか?と。先生から理解を得るのは難しかったです。

それでも“自分がやりたいことに全力で取り組む”という強い思いで、マイプロジェクトは動き出した。水ナスを栽培し、イベントで販売することもあった。プロジェクトメンバーは20人。社会人であっても、20人をマネジメントすることは難しい。

チームでやっていく中で、人間関係にはたくさん悩みました。どういう方向に向かっているのかが分からなくなった時期もあって。

僕は水ナス愛し隊は一生終わらない活動だと思っていて、“水ナスを愛する心を育み地域と繋がる”という大きな目標を押し出していました。ただ短期で見ると、活動自体はマニアックなことばかりやっていたので。後輩たちはゴールが見えていない中で、何をしたら正解なのかわからない状態になって、揉めることもありました。卒業する時にも、結局自分のこだわりを押し付けるような形で引き継いでしまった。

独裁的に押し進めたからうまくいったこともあったし、そういうリーダーシップのあり方だから揉めたこともたくさんあった。難しかったです。

水ナス愛し隊の活動

リーダーシップの発揮のしかた、メンバーのモチベーションマネジメント、意見が対立した時の対応。数々の板挟み経験が、竹中さんを成長させた。

高校生であるということは、チャンスだ。

そんな“マイプロ高校生”のいま。竹中さんは大学に進学、グローバル観光学科に所属し、持続可能な観光について学んでいる。

大学では、学生団体ISCREAMを立ち上げました。国際貢献でも地域貢献でもボランティアでも起業でも、テーマは何でもよくて、持続可能なプロジェクトをどんどん生み出そうという団体です。“自分がやりたいことを本気でできる場所をつくる”というのがコンセプト。水ナス愛し隊で自分が経験したことを、もっとたくさんの人に経験してほしい。やりたいことに挑戦できる環境をつくりたいと思って始めました。将来は観光系のビジネスで起業したいと考えているので、地元の起業家支援プロジェクトに参加して、事業計画をつくったりもしています。

意志をもってアクションし続ける大学生活。そんな今振り返ると、マイプロ経験には、どんな意味があったのだろうか。

大好きな水ナスを広めることができたことがまずよかったですが、何よりも自分にとっての大きな成長機会になりました。僕は、ずっと人と同じ人生を自分は歩んでいくんだと思っていたし、それが普通だと思っていました。でも人がどうとか普通はどうかではなく、自分がやりたいと思うことに挑戦しながら生きていくことのほうがいいなと思うようになりました。マイプロに取り組んで出会った多様な人たちの価値観に触れたことで、視野が広がったんです。

マイプロ経験は大きな成長機会だった。それは、結果論ではないのだろうか?仮にもう一度高校生活をやり直せるとしたら、どんな風に時間を使いたいかを聞いてみた。

正直もっとマイプロの活動がしたかったという後悔があります。始めたのが遅かったので、1年くらいしか活動できませんでした。戻れるなら高1から積極的に取り組んで、3年間ちゃんと継続したいです。

“高校生だからこそ”できることがあるので。大学生になると、もう大人として見られることが多いです。水ナス愛し隊に協力してくれた地域の方からも、君たちが大学生だったら協力したか分からない、と言われたことがあります。

高校生だから得られる協力や経験があると思うので、それをチャンスと捉えて、フル活用したい。あとは、もっとちゃんと勉強すればよかったという気持ちもありますね。

マイプロをやっていなかったらと考えると、恐ろしい。

今、高校生が社会と繋がってアクションを起こし、実体験から学ぶことの重要性があらゆるところで語られ始めている。マイプロ経験は高校生にとって本当に必要なものだろうか。

僕の個人的な意見ですが、誰でもマイプロをやっていると思うんです。何もしない、というのも1つのマイプロジェクト。地域のためにやれとか、強制するのは違うと思っています。「やったほうがいいか?」と聞かれたら、「やったほうがいい!」と答えますが、やりたくない子に対して強制はしません。ただ僕が大学生になって思ったことは、高校の間にやったことは大学でも社会でも絶対に活きるということ。そういう意味では、「マイプロやれよ」と言いたい。必要だと思う。やりたい人や迷っている人は、絶対にやったほうがいいと思います。

実際にマイプロに取り組む高校生は、まだまだ少数派。どうすればもっと多くの高校生が勇気をもって一歩踏み出せるようになるだろうか。

「失敗を恐れなくていいよ」って言ってくれる大人が増えるといいですね。あとは学校が挑戦を後押ししてくれれば、マイプロに取り組む高校生が増えると思います。僕もそうでしたが、日本は人と違うことをしないという文化がある気がしていて。でも、みんな違っていいんだと、優劣をつけずに自分が好きなことに本気になっていいんだよと言ってくれる大人の人が増えたら、マイプロはもっともっと取り組みやすい環境になると思います。僕は地域の人に恵まれていました。

挑戦しようという高校生たちの心の火を、私たち大人がつくる無意識の同調圧力が消していることがあるのかもしれない。問われているのは、大人のあり方だ。

最後に、こんな質問をしてみたもし、マイプロ高校生じゃなかったとしたら?

もしマイプロに取り組んでいなかったら?考えると、恐ろしいですね(笑)。多分この大学には来ていなかったと思います。わざわざ下宿しないと通えない大学を選んでいないと思うし、観光を学びたいという意志も持っていなかったと思う。起業に関しても、起業したいと口で言うだけで結局何もせずに就職したりして。人と同じ流れに飲まれながら、生きていたんじゃないかな。

大学在学中に起業して地域に恩返しすることが直近の目標だという。夢は、途上国にテーマパークをつくること。「70年くらいかけて、死ぬ直前には達成したいですね」と笑顔で語ってくれた。

マイプロ経験が彼にもたらしたものは、“周りに流されずに自分が意志を持って選択していく人生”だったのかもしれない。

文  = 青柳望美
取材 = 梶田悠馬
写真 = 山田将平

※2018年9月インタビュー当時

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たくさん立ち止まってもいい。自分の生き方を見つけるのが今のマイプロジェクト。
「知る」ことで道が拓けた。マイプロがそのまま自分の仕事になった社会人1年目の19歳。

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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