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「不登校の子どもがもう一度歩き出せる道を」スクールカウンセラーとして二足のわらじを履く彼がつむぐ希望/Spotlight

vol.359Interview

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category #スタッフ #インタビュー

Profile

渡邊 雄大 Kazuhiro Watanabe アダチベースCentral

1988年生まれ、福島県いわき市出身。福祉系大学を卒業後に一般企業を経て、臨床心理学を学ぶために大学院に進学。その後、2017年4月から認定NPOカタリバに入職し、東日本大震災と併せて原子力災害で甚大な被害を受けた福島県双葉郡の、福島県立ふたば未来学園高校に併設された放課後の居場所「みらいラボ」の立ち上げと運営を担当する。2018年からアダチベースに異動し、不登校支援事業全般の業務を担当。2024年4月より足立区不登校支援事業の事業責任者を務める。

度重なる自然災害やコロナ禍など、昨今は社会全体、さらには子どもたちの置かれる環境に大きな影響を与える出来事も少なくない。

すべての10代が意欲と創造性を育める未来の当たり前を目指し、全国各地で活動を行っているカタリバ。
その現場では、状況の変化に合わせて取り組みの内容を柔軟に進化・変化させつつ、目の前の子どもたちに向き合っている。

シリーズ「Spotlight」では、現場最前線で活動するカタリバスタッフの声を通して、各現場のいま、そして描きたい未来に迫る。

臨床心理学を学んでいた大学院生時代、不登校や発達障害の子どもたちと向き合ってきた渡邊雄大(わたなべ・かずひろ)。現在、彼が活動の拠点とするのは、カタリバが足立区から委託を受けて運営する「アダチベース」。家庭の事情で放課後の居場所を求めている子どもたちが安心して過ごせる環境を提供し、不登校支援を行う施設だ。

渡邊はこの施設で、子どもたち一人ひとりに寄り添いながら、子どもたちが自分の力で歩み出せる道をつくるためのサポートをしている。その活動内容と背景にある思いを聞いた。

大学院時代に接した不登校の子どもたちの葛藤と課題

 

——2017年に渡邊さんがカタリバのアダチベースに応募し、入職されていますが、なぜアダチベースに応募を?

大学院で臨床心理学を学んでいた頃、教育支援センターで1年間、精神科の病院で半年間の実習を経験しました。その後、教育支援センターでボランティア活動も行い、不登校や発達障害を抱える子どもたちと接してきたのですが、その中で、不登校の子どもたちが抱える課題に強い関心を持つようになりました。

教育支援センターに通う子どもたちは、学校に戻りたい気持ちを抱えながらも戻ることができずにいました。「文化祭の合唱に参加したい」「行事に出たい」と願っているのに、授業に出ていないことが原因で周囲から批判的な視線を浴び、行事への参加を阻まれる場面もありました。そんな子どもたちの葛藤に触れ、彼らが再び歩み出せるようサポートしたいという思いが芽生えたんです。

——その実習経験の中で、特に心に残っている出来事はありますか?

特に印象に残っているのは、Sくんという中学3年生の男の子です。サッカー部のキャプテンや生徒会長も務める優秀な生徒で、難関校への進学も期待されていました。しかし、人間関係のトラブルが原因で不登校になってしまいました。

周囲は「優等生ならではの息切れだ。よくあること」と楽観視していましたが、彼は卒業まで学校に戻れませんでした。そして不登校が内申書に影響し、希望していた進路も断念せざるを得なくなったのです。

小さな環境の不一致が、子どもの未来に大きな影響を与える現実を目の当たりにし、不登校が抱える深刻なリスクを痛感しました。

また、親が学校に不信感を抱く一方で、子どもは学校に前向きな気持ちを持っているという、親子間のズレも多く見受けられました。社会や学校、親と子ども。それぞれのベクトルが揃わないことが、問題をより複雑にしていると感じました。

——そうした経験からアダチベースで不登校支援をしたいと思われたのですね?

はい。「困難な状況にある子どもたちが、自分の力で未来を切り拓けるように支えたい」と考えるようになりました。そこで、「不登校」「発達障害」などのキーワードを軸に活動先を探し、カタリバのホームページに出会ったんです。

困難な事情を抱える子どもたちに安心して過ごせる居場所を提供し、不登校の状態から一歩を踏み出せるよう支援する。そんなアダチベースの支援を知り、ここで活動してみたいと思いました。

居場所での日常のふれあいから子どもたちも変化・成長する

——カタリバに入職後、福島県で放課後の居場所「双葉みらいラボ」の立ち上げ・運営を担当した後、2018年からアダチベースで仕事をされています。仕事内容を教えてください。

アダチベースでは、足立区内の2つの拠点の運営・マネジメントを中心に活動しています。具体的には、不登校の子どもたちの居場所づくりや、足立区内の中学校に設置された別室での支援、オンライン不登校支援プログラム「room-K」と連携したサポートなど。

また、近年増加している中学生の不登校に対応する活動として、夜間中学を活用した授業の実証事業も行いました。

——夜間中学を活用した実証事業とはどういうものでしょう?

文部科学省から委託を受け、不登校の中学生が、在籍校ではなく近隣の夜間中学に通うという事業です。特徴は、在籍校を転校することなく教育支援センターに通所する仕組みを活用している点です。

夜間中学はもともと義務教育を修了できなかった人や、学び直しを希望する人のために設けられた公立中学校で、さまざまな年代・国籍の方々が通っています。夜間中学に通うことで学習意欲を高め、コミュニケーションの力を育み、自己肯定感を向上させるのが目的です。

本人が希望すれば、在籍校に復帰することも可能です。実際に中学2年次に活用した生徒が、翌年には再登校できるようになり、修学旅行に参加した事例もありました。

夜間中学は夕方からの登校で、小集団での学習支援にも対応してもらえるので、起立性調節障害などで朝の登校が難しい生徒や、学習面に不安を抱える生徒にとっても安心です。

近年、小学生の不登校が激増しており、そうした子どもは中学校でも不登校を継続するケースが多く、結果として高校進学への道がさらに厳しくなるという課題があります。夜間中学で1~3年間学びながら義務教育の力を身につけ、自分の希望する高校へ進学することで、自立に向け一歩を踏み出すことも可能になると思います。

——小学生から不登校だった生徒が夜間中学に行ったケースがあれば教えてください。

小学校3年生から不登校になり、中学2年生でアダチベースに来た生徒がいました。その子はひらがなを書くことも難しい状態で、「常識」といえばインターネットの中の情報をそのまま信じてしまうような状況でした。
苦手なことへの挑戦には尻込みして、初めは何もできない状態でしたが、アダチベースでの体験を通じて徐々に自信を持つようになり、在籍していた中学を卒業後に夜間中学に進学しました。

その自信を培ったのは、彼自身です。アダチベースで同世代と接し、「自分ができていないこと」に気づき、「変わりたい」と思い、基礎的な学習に取り組むようになったのです。夜間中学では生徒会長も務めるほどの成長を見せ、高校受験の勉強に向き合っています。

こうした子どもたちの変化を見届ける瞬間は、私にとって大きなやりがいです。子どもたちが未来への一歩を踏み出していく姿を見るたびに、不登校支援という仕事の意義をあらためて実感しています

——アダチベースで日々子どもたちと関わる中では、どのような課題や手応えを感じていますか?

現場での支援を通して、子どもたちが少しずつ心を開いていく瞬間の大切さを感じます。たとえば、昼食を一緒に作ったり、ゲームをしたりといった何気ない交流を通じて、子どもたちの内面や家庭環境に触れることがあります。

「夜はお母さんがいない」「週末は家に誰もいない」といった話から、家庭の課題や複雑な状況が自然に見えてくるなど、日常的なやりとりの積み重ねから支援が進んでいくのです。

また、支援の中では親御さんとの信頼関係を築くことも重要です。たとえば、私たちは学校に子どもたちの状況を毎月報告していますが、これによって学校と保護者が共通の話題を持ち、親子と学校の関係がより良い方向に進められるという手応えもあります。

変化を生むことで、子どもたちが安心して自分のペースで進んでいける環境を整えられたらと考えています。

アダチベースとスクールカウンセラーの二足のわらじ

——2022年からは東京都江東区でスクールカウンセラーもされているとのことですが、その背景にはどのような思いがあったのでしょうか?

アダチベースの業務は、不登校支援に直接携わるだけでなく、拠点のマネジメントや自治体・学校・地域の関係者との調整業務も多く含まれています。例えば、教育委員会や区内でフリースクールを運営する団体などと定期的に情報共有を行い、より効果的な支援ができるよう外部との連携を強化しています。そうした多岐にわたる業務の中で、ふと自分の専門性である臨床心理学を十分に活かせているのか迷う瞬間があって、実は一時期は退職も考えました。

そんなとき、スクールカウンセラーの求人が目に留まりました。月に2回の副業として行える内容だったため、カタリバの仕事と両立できると考え、上司に相談したところ、快く了承していただきました。

スクールカウンセラーの活動はカタリバでの不登校支援に活かせていますし、自分の専門性を深めることもできています。今は両立できる環境に大きな充実感を覚えています

——スクールカウンセラーの活動がどのようにカタリバの仕事に影響しているのでしょう?

スクールカウンセラーとして学校現場を直接見ることで、どんな問題があるのかを肌で感じることができるようになりました。学校と、不登校の子どもたちがいる環境の違いをどう捉え、埋めていくかは大きな課題です。

たとえば、全国で進められている「GIGAスクール構想」という取り組みにより、すべての小中学生にタブレットやパソコンが配られ、学びに活用されています。実際に現場で子どもたちの姿を見ると、小学校3年生でも驚くほどタイピングが得意で、先生よりも上手な子もいることがわかりました。

学校に通っている子どもたちは、授業を通して自然とパソコンを使ったタイピングやパワーポイントを活用したプレゼンの仕方などを覚えていきます。一方で、不登校の子どもたちは、こうした技術を後から自分で学ばなければなりません。この現状を目の当たりにしたことで、カタリバの不登校支援プログラムへの反映を検討するようになりました。

—2024年4月からは足立区不登校支援事業の事業責任者を務めらているとのこと。その内容について教えてください。

不登校児童生徒の居場所である「アダチベース」を運営しながら、その機能を区内の学校にも還元するために中学校の別室支援なども行っています。
また最近では、不登校という課題に多様な手段で取り組むために、大きく2つのことに取り組んでおります。

1つは、現在自治体が掲げている「不登校政策」や「既存の公的な不登校支援」を自治体と協働して見直し実装していく事業。
もう1つは、民間や大学と協働して不登校児童生徒の「学びの意欲を引き出すプログラムをつくる」ことで、これは既に実証事業がスタートしています。

義務教育の「平等な学び」の良さは維持しつつ、困難な状況にある子どもたちが「もう一度学び直せる」社会を実現したい。そのために、段差や分断をなだらかにし、不登校や困窮の中にいる子どもたちが自分の力で未来を切り拓ける環境を整えることを目指していきたいと考えています。

 


 

不登校の子どもたちは挨拶や会話が苦手だったり、他人との交流に不安を感じたりすることがある。同年代との何気ない会話すら大きなハードルになる子も少なくない。

だからこそ、渡邊はアダチベースで「生徒よりも楽しく仕事をしよう」をメンバーの合言葉にしているという。
「楽しそうな大人の姿に、生徒たちは心地よさを感じます。だからこそ、大人が楽しく働き、自然な雰囲気を作ることを大切にしたいんです」

見えないけれど思いのこもった行動の積み重ねが、子どもたちの安心感につながるのだろう。

文:佐々木正孝


 

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