教育社会学者・内田良さんに聞く「校則・ルールは誰のもの?」 みんなのルールメイキング活動レポートvol.2
カタリバでは、学校の校則・ルールに焦点をあて、生徒・先生・保護者などが対話と調査を重ね、納得解をつくることを通して、生徒の課題発⾒、合意形成、意思決定をする⼒(市⺠性=シティズンシップ)を育む「ルールメイカー育成プロジェクト」を、昨年立ち上げました。
「ルールメイカー育成プロジェクト」では、全国に数校あるモデル校を皮切りに、⽣徒・教員・保護者といった当事者の声を、学校の校則やルールに反映する仕組みをつくることに取り組み始めています。また、それと同時に、モデル校のみならず、誰もが校則・ルールの見直しに取り組めるようなプログラムの開発にも着手しています。これらは、経済産業省「未来の教室」実証事業に採択され実施しているものです。
モデル校のひとつ、私立安田女子中学高等学校で生徒たちが校則・ルールの見直しについて議論する様子
前回の活動レポートでは、「ルールメイカー育成プロジェクト」の全体像について紹介しました。本稿では、連載『みんなのルールメイキング活動レポート』の2回目として、本事業のアドバイザーである教育社会学者・内田良さんに、生徒参加による校則・ルールの見直しの意義について話をお聞きしました。内田さんのお話を通して、読者の皆さんと新しい校則・ルールづくりについて考えていければと思います。
コロナ禍における
校則・ルールを取り巻く変化
内田さん:「8月下旬からすごく暑くなった中で、『ノーランドセル』という言葉が使われ始めました。ランドセルが夏場には暑すぎるので、熱中症対策として、もっと軽いもののほうが良いのではないか、という話ですね。また、同じく熱中症対策の一環で、制服が気候の変化に柔軟に適応しにくいことから、私服登校を認める学校も増えてきました。さらに、以前は白色に限定されがちであったマスクも、マスクの供給が追いつかないことから様々な色のものが認められるようになりました。コロナと熱中症という2つの大きなリスクによって、学校がいよいよルールを変えた、もしくは元々あったルールを緩和したり柔軟に対応したりするといった動きが起こりました。『今までのルールはちょっと窮屈だった』ということが、今回はっきりと見えたんですよね。」
内田良 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授 博士(教育学)。専門は教育社会学。学校のなかで子どもや教師が出遭うさまざまなリスクについて,調査研究ならびに啓発活動をおこなっている。著書に『学校ハラスメント』(朝日新書),『ブラック部活動』(東洋館出版社),『教育という病』(光文社新書),『教師のブラック残業』(学陽書房,共編著)など。ヤフーオーサーアワード2015受賞。
内田さん:「ただ、次に何が起こるのかというと、揺り戻しです。状況が落ち着いたら、ランドセルも私服登校も元に戻すということが起こります。多くの学校は、コロナや熱中症の対策として、一時的に認めたという認識なのだと思いますが、『校則・ルールを緩和しても悪いことは起きておらず、むしろ緩和しても意外とうまくいった』という側面に目を向けてほしいと考えています。」
校則・ルールを見直すことの
意義と課題
内田さん:「ルールとは本来、そのルールを守っていく当事者が主体的に引き受けていくべきものです。『これがルールだから』と上から押し付けられても、言われたことに従順な人を育てるだけであり、あまり良いルールの運営の仕方とは言えません。また、内容を更新し続けていくことが大切で、『一度決めたルールであっても、どこかのタイミングで見直すことも必要になるよね』という考え方を浸透させていくことが必要です。」
モデル校では、生徒主導で校則・ルールに関して幅広く意見を求めるアンケートを取得するなどの動きも起きはじめている。
内田さん:「ただ、校則やルールの見直しが容易ではないのは、必ずしも学校の問題だけではありません。校則は『この学校は、しっかり子どもの面倒を見てますよ』という証明にもなっており、それを求めているのは私たち外部の人間でもあるという側面があります。例えば地域の人たちのなかにも、生徒が制服のシャツを出してだらしなく歩いている姿を見ると、「あの学校は生徒指導ができてないよね」「大丈夫なの?」と考えてしまう傾向は少なからずあるのではないでしょうか?
でも本来は、学校の外に出たら、子どもを育てる責任は地域住民や保護者にもあるはず。学校の責任範囲がどんどん広がり、学校依存型社会になっていることも、校則やルールの置かれている現状に大きく影響していると考えています。
さらに、私立校と公立校では、校則やルールを見直していくうえで、それぞれ違った障壁があることが見えてきています。私立校は、公立校と比較して独自の伝統や風土を大切にする風潮があります。そして保護者は、そのような独自性も含め学校に期待しているケースが多いため、校則やルールを見直していくにあたって、教員と生徒だけでなく保護者も含めて議論していくことが必要となる傾向があります。一方、公立校は学校間の横並び意識が強く、結果として、校則やルールが細かく厳しくなっているという状況が多く見られます。ひとつの学校で校則・ルールを変えていこうという動きが生まれても、周辺地域の学校の様子を見ながら進めていく形になりがちで、スピード感を持って進めにくいのです。」
学校に寄り添い、ともに変えていく
ルールメイカー育成プロジェクト
内田さん:「ルールメイカー育成プロジェクトの魅力は、学校現場の内側に入り現状を理解しながら、取り組みを進めていこうというスタンスだと思います。なぜこの校則になっているのか、どのような意味を見いだしてるのかというところから、先生や生徒たちと一緒になって考えています。一見すると疑問に思える校則が成り立っているのも、学校だけに問題があるのではなく、保護者や地域住民、あるいはマスコミとの相互作用の中で出来上がっているものかもしれません。そのような、学校や当事者の側に立った丁寧な理解が大切だと考えています。また、中からでは、がんじがらめになって動けないということもあります。ですから、外部からの新しい風は、確実に必要です。ただ、その新しい風は学校を非難するものではなく、ともに寄り添う新しい風であることが大切です。学校と一緒に走っていくという関わり方が求められているのだと思います。
学校の先生方に伝えたいことは、学校の内部にも外部にも、校則を取り巻く問題が重要だと考えている人は多くいて、味方もたくさんいるということです。先生たちがそれぞれ持っている違和感はすごく大事ですし、学校の中にも外にも、その違和感に共感する人は、実はたくさんいます。そうした思いを持った人たちと繋がっていくことで、間違いなく良い方向に進んでいくと確信しています。」
ルールメイカー育成プロジェクトは、カタリバが事務局となり、内田さんをはじめとする教育研究者・弁護士・ファシリテーターとともに外部サポートチームを組み、「一緒につくること」を大切に、学校と協働・連携して事業に取り組んでいます。
学校の校則・ルールを見直している現場では、どのようなことが起こっているのでしょうか。次回からの連載では、モデル校での具体的な取り組みについてレポートしていきます。
文=山本晃史
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