震災を乗り越え、未来に「臨む」学び舎
大槌臨学舎
Concept
東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町。大きな困難を乗り越え、「学びに向き合う」「今の自分に向き合う」そして「震災に向き合う」存在となってほしい。そんなコンセプトで2011年12月に立ち上がった「大槌臨学舎」を、中学生や高校生が利用しています。2017年度からは町教育委員会にも参画。学校や地域の方々を巻き込みながら、ジブンゴト化を楽しめる子ども・若者に溢れる地域づくりに向けて、活動を続けています。
Serviceサービス
活動概要
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クライアント
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所在地
岩手県上閉伊郡大槌町大槌第15地割71−1 大槌高等学校内
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WEBサイト
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活動期間
2011年12月〜
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対象
大槌町在住の中学生・高校生(原則)
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活動内容
居場所運営/学習支援/体験プログラム/プロジェクト型学習/学校連携
地域連携/行政連携/不登校支援
活動の背景
町民の10人に1人が震災で命を落とした町
2011年3月11日に発生した東日本大震災による大津波により、多くの町民の方が死亡または行方不明になるという被害を受けた大槌町。住宅倒壊率も64.6%に及び、自宅だけでなくほとんどの学校も被害にあうなど、子どもたちへの影響は甚大なものでした。不自由な仮説住宅・仮説校舎での生活を余儀なくされた子どもたちが集う「居場所」が必要とされていたのです。そこで、近所の公民館やお寺を間借りする形で2011年12月から活動を開始。2013年8月には専用の仮説校舎が完成しました。
心のケアを支える「ナナメの関係」
被災した子どもたちは、精神的に不安定になることもあります。震災から数年後には、少しずつ震災の経験を語れるようになった子どもたちもいました。しかし、同じく被災した友人や生活の再建に向けて忙しい家族などには、なかなか本音を語ることができないという子どもも。大槌臨学舎では、職員を始め全国から集まった大学生・社会人ボランティアが、対話を通して子どもたちに寄り添います。
「課題先進地域」として抱える様々な課題
現在の大槌町の様子
震災前、大槌町は人口約1万5千人ほどの港町でした。しかし、津波によって町民の1割が亡くなっただけでなく、被災を機に転出が相次ぐなどして、現在の人口は1万2千人ほどに減少しています。2040年の「消滅可能性都市」としても名前を挙げられ、危機感を募らせる住民もいます。また、活動を続ける中で「自己肯定感の低さ」「低学力」「不登校出現率の高さ」といった大槌町が抱える多くの課題も見えてきました。町の復興が進む中で、周囲や町の課題をも「ジブンゴト化」できる若者を育むべく、活動を続けています。
活動内容
学習支援と居場所づくり
放課後、自立学習を目指した学習支援と居場所づくりを行なっています。いつでも利用可能な自習室に加え、小中学生向けの必修授業(週2回)、中高生向けの「Skype英会話」などのプログラムがあります。活動当初は受験を控えた中学3年生のみが対象でしたが、現在は小学3年生から高校3年生までを受け入れ、町の約3割の子どもたちが日常的に足を運びます。長期休暇には町の委託を受けて小学生が通う「学びの場」を実施、不登校の児童生徒を受け入れる「適応指導教室」、遠方の小学校での出張学習会など、町の子どもたちに広く開かれた学び舎です。
新たな学びの機会と出会いの創出
職員やボランティアの学生をはじめとした様々な“ナナメの関係”の人と対話し、自分自身を見つめ直すガイダンスや、地域の大人に人生を語ってもらうカタリ場プログラム、海外の人々との交流イベント、著名人や専門性を持って働く企業の方などを講師に招いた特別授業など、地域内外の人々と協力しながら多様な新しい学びと出会いの機会を創っています。
地域と自分を見つめるマイプロジェクト
「支援されるばかりでなく、自分たちも故郷の力になりたい」。震災の傷跡が未だ残る町の中で、町のためにと立ち上がった高校生たちがいました。町や身の回りの課題を解決するために、プロジェクトを立ち上げ実行する高校生の取り組みは、その後「マイプロジェクト」として全国に広がりました。2017年からは「大槌町高校生マイプロジェクトアワード」も開催。高校生からお年寄りまで100名近くの町民の方々が集まり、町を思い、自分を見つめ直し、誰かのために行動した高校生の発表に心を動かされています。
活動の成果
子どもたちの前向きな変化
2011年に活動を開始して以来、のべ1万人以上の子どもたちが大槌臨学舎を利用しており、2017年度の登録者数は小学生37名、中学生78名の計115名、この他たくさんの高校生が通ってきています。
開校以来、子どもたちが目の前の勉強に向き合う環境づくりやモチベーションづくりを続けてきました。自分の部屋がない仮設住宅の中ではなかなか学習に集中できないという小中学生も、臨学舎を利用してからの勉強時間が伸びています。また、教科学習に限らず、体験プログラムやイベントなど、様々な場面において子どもたちの小さな「できた」「やった」を大切にしてきました。アンケート結果では、自己肯定感にも大きな変化が見られます。
大槌臨学舎に通う子どもたちの学習時間の変化
連携
職員を教育専門官として大槌町教育委員会に配置
大槌臨学舎は、2015年度から町の委託事業として再スタートを切りました。2017年度からは職員1名が教育専門官として教育委員会の立場で、町の教育政策づくりに携わっています。新しい「教育大綱」を作成するために、生徒、保護者、教員、商工会、地域の方々といった様々な方との熟議を重ね、教育に携わる団体による報告イベントを開催するなど、様々な立場の人が町の教育と未来を考える機会を作り出しています。
学校との連携
子どもたちの利用状況や様子などを随時報告しているほか、必要に応じてスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーとの相談も行っています。定期考査間近には、校内にて生徒の個別指導にも協力しています。
他団体との連携
放課後の子どもたちの学びを支える様々な団体が集まり、共通のテーマについて議論したり、情報交換したりする部会を、教育委員会とともに定期開催しています。必要に応じて、子どもたちやその保護者に他団体の紹介なども行い、切れ目のない教育支援の実現に向けて、協働を深めています。
企業との連携
町オリジナルの検定作成や、ICTによる個別学習のツール提供など、これまでに様々な企業からのご協力をいただいてきました。また、中学生向けの特別キャリア講座を開催していただいたり、マイプロジェクトに取り組む高校生のサポートや、Skype英会話を受講する中高生によるツアーにご参加いただくなど、全国各地の企業の皆様とのコラボレーションを通して、子どもたちの学びを支えていただいています。
※「コラボスクール」・「collabo school」は 認定NPO法人カタリバの登録商標です(登録5758301)・(登録5758303)